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☆7.クレハドール・エバンス
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今日がヴァレンタインシーズンの最終日だ。
Aが従業員控室のドアを開けると、見習いのクレハドールがひとり、作業をしていた。
「手伝って下さーい」
クレハドールはAに気づくなり、泣き言を言う。
ローテーブルは当然のこと、三人掛けのソファも、床ですらヴァレンタインの贈り物で埋め尽くされていた。
その中央にクレハドールがぺたりと座り込んでいた。ラッピングされた箱たちに襲撃を受けたかのような様相だ。
「エグい量だな」
「かさ張るものばっかりで、仕分けが進まないんです」
添えられたカードを見て、誰宛ての贈り物なのか分けているらしい。ベルトやリングなど、装飾品なら名前が刻印されていないか確認する必要もある。
「ふふ。セラフィム宛てにお人形が届いてますね。中に盗聴器でも仕込んであるんでしょうか」
他のDomたちは新人に面倒を押し付けて、知らん顔をしているらしい。Nは休みを取っているし、ヴィクトルはレスター辺りに「新人教育の一貫です」と釘を刺されたのだろう。
「リングケースに宝石を入れてくれれば、場所も換金の手間もないのになあ」
「……なるほど。来年はそうしましょう」
冗談を真に受けたのか、クレハドールが顔を輝かせる。
薄々勘付いてはいたが、この見習い、かなりいい性格をしている。
クレハドールは今年二十歳になったばかりのDomだ。顔や体つきにまだ少年の名残りがあるが、セラフィムやレスターと並んでいても遜色ない美形だ。
Aとしては、さっさとクレハドールをDomとして店に出したかった。この見た目だけですぐに固定客がつく。客層も選ばないだろう。
しかし共同経営者から、まだ半人前だという理由でストップをかけられてしまった。今はバーカウンターで酒を作らせたり、常連客の話し相手をさせたりするに留まっている。
クレハドールは若者らしい生意気さで、不満を漏らすこともしょっちゅうだ。
ボーイの真似事しかやらせてくれないなら、せめてピアノを弾かせてくれと頼まれたこともある。ボックス席の前にはちょっとしたスペースがあって、定期的にショーをやっているからだ。
常連のSubを相手を縛ったり、鞭で打ったり、当然、それ以上のこともやって客のSub性を煽る。ちょっと見てみるだけ、という客のテンションを上げてやるのだ。
新規客へのデモンストレーションも兼ねている。常連客はお気に入りのDomから、ショーの相手を頼まれることをある種のステイタスにしている。古参面の優越感はそれだけ魅力的だ。
Aはピアノの件を承諾した。アップライトピアノなら、スペース的にも充分置ける。クレハドールを販売店に連れていき、店頭で弾かせてみて、……無かったことにした。
上手過ぎたのだ。
売春街の風俗店をコンサート会場に変えてしまう技巧だった。客の視線を掻っ攫って、店のコンセプトがブレてしまう。
それからしばらく、クレハドールはAと口を利いてくれなかった。
さすがのAも少しだけ傷ついた。傷ついた自分に驚いたぐらいだった。
「あっ、」
唐突にクレハドールが高い声を上げる。贈り物の酒瓶から手を滑らせた。
Aは慌てて空中で捕まえる。ヴィンテージ物ならシャレにならない。
「あ、あ、」
細身の体が絨毯の上にうずくまった。時折、腰が跳ねる。
ブー……ン、と聞き覚えのある振動音が微かに聞こえてきて、Aは顔を引き攣らせた。
「職場でそういうプレイ止めろよ。精液臭いのは二階だけで充分だ」
「ま、マスター……っ、」
Aを完全に無視して、クレハドールはスマートフォンを取り出した。尻に入れられたローターのせいで、操る手元が心もとない。今にも取り落としそうだ。
「マスター、今、ダメだって、しごっ、終わ、ンないし、レスターに、ぶたれるっ、
ンンっ?!」
悲鳴のような訴えの後、クレハドールが、ビクッと背を弓なりに反らせた。
振動音がひと際大きくなる。
「ああっ、イ、やだってっ、」
Aは忍び足で逃亡を図った。
が、クレハドールの腕がAのスラックスの裾を掴む。
ぎょっとして振り返ると、彼は哀れな毛虫のように全身を蠢動させたまま、スマートフォンを相手に数を数えている。指定した数だけ耐えろ、というご命令なのだろう。
勘弁してくれ、と天を仰ぎたくなる。
クレハドールがカウントしつつも、Aを見つめ続けているからだ。
どんなに美形でも、無表情のクレハドールには、Aだって劣情をもよおさない。ベッドに押し倒しても、その人形じみた顔が変わらないことを連想させるせいだ。反応の悪い相手とのセックスほどつまらないものはない。
今は違う。彼の瞳は潤んでいた。劣情のために溢れる涙には、独特の艶がある。口は大きく開かれ、象牙のように白い歯が見えた。クレハドールは饒舌な方だが、それでもまじまじと咥内の歯並びを見つめることは殆どないだろう。
日常生活を送る上で露わにならない部分が視界に入ると、男は緊張する。相手がセックスに合意したという証左に足る言い訳を探すのに、必死にならざるを得ないからだ。
粘膜にはうんざりのAも、必死になった。
「くぅっ、」
身体を堅くして動けないAの前で、クレハドールが悔しそうな呻きを漏らした。
いつの間にかカウントを終えていたのだ。
命令通り耐えた代償として、射精の絶頂を逃してしまったらしい。やるせなさに身を悶えさせる腰つきが淫らだ。
「ぁあ、……っ、」
彼は腰を前後にゆすった。逃したものを取り戻そうと藻掻く仕草だった。とっくに処女ではないのだろう。記憶の中のものを思い出し、欲しがっている様子だった。わななく唇から今にも「入れて」と蠱惑の声が聞こえてきそうだ。
眉間に悩ましげなしわが寄っている。人形ではし得ない顔だ。彼とセックスしたらどんな表情をするのか、想像力を刺激する。
性欲そのものを揺さぶられた感じだった。ヤるだけならUsualにだってやれるのだ。札束を積み上げなければヤれないような美形と。
「ふ、……」
気まずく長い時間の末、ようやくクレハドールは上半身を持ち上げた。お仕着せの制服も髪もセックスの後のように乱れている。
ぐい、と彼は涙を拭った。自分の美貌に一欠けらの価値も見出していない手つきだ。セラフィムならボタンが顔を傷つけることを危惧してまずやらないだろう。
「……お前らさあ」
Aは長く息を吐いた。おそろしく疲れている。
手を出さずにいられたのは理性のおかげではない。後におこるだろうことに恐怖したからだ。
「お仕事なんですもん」
呆れるAに、クレハドールは脱力した笑みを向ける。幸い、手を出せなかった臆病者に対する嘲笑ではなかった。
性の匂いが細い身体にまだ充満したままだ。発散を禁止されている若者ほど、いやらしい存在はない。目の毒だ。
「俺は訓練中のままこっちに来ちゃったんで、しょうがないんです。S役やるんならまず奴隷を経験してからって、マスターの教育方針らしいので」
初耳だった。
Domという生き物は生れながらにして、そういうことをこなせるものだと思い込んでいた。そもそも、DomがDomを調教するという発想がなかった。Dom性とDom性は反発し合うものだとも。
「嫌じゃないのか?」
「ぜんぜん。マスター優しいですし。褒められれば嬉しくて泣きそうになりますよ。
Aも一度どうですか」
「じゃあ、レスター達も?」
誘いを無視して、Aは質問を重ねる。
「そうじゃないですか。みんな、あんまり話してくれないけど。
あ、でもヴィクトルはどうかな。才能があるってマスターが褒めてたから免除されたかも」
Aはヴィクトルの顔を思い浮かべた。
彼の人気や実力は知っている。だが、特別、才能があるかと言われるとやや疑問だ。
「…………」
そうだろうか。AはこれまでDomの才能と暴力性を結び付けていただけではないのか。EというDomがあまりにも強烈なせいで、先入観を抱かされただけではないのか。
……分からなくなってきた。
今まで一緒に店をやってきたが、彼らという集団のことをあまり深く考えたことがなかった。Aがあまりプライベートに深入りしないタイプの人間というのも理由のひとつではある。
知っているのは、格別のDom性を持った上等な男たちを共同経営者が連れていたということだけ。
クレハドールの話が本当なら、共同経営者こそがDomという集団のボスということになる。レスターに感じていた信仰の正体は、「この人には勝てない」という絶対的な服従だったのかもしれない。
が、そうなると話が矛盾してしまう。共同経営者はレスターを始めとする全員から、軟禁されているように思えるからだ。
「さっき、こっちに来たって言ったよな。
じゃあどこから来たんだ」
クレハドールが意味深な笑みを浮かべた。足元の贈り物をひとつ手にとり、ベルベットのリボンを紐解いていく。
真四角の箱をAに向かって掲げ、右手を箱に蓋にかける。
「知りたいですか」
「ああ」
上目遣いに見られた。パンドラの箱だとでも言いたいのだろうか。試されていると感じた。
「条件があります」
「言ってみろ」
「俺とNの仲を取り持ってください」
冗談だろう、と笑いかけ、咽喉が詰まった。
クレハドールの眼が誤魔化すのを許さなかったせいだ。
碧眼の淵を、ぐるりと銀色の鋭い光が巡る。AがSubなら、恐怖のあまり屈していただろう。
だが、なぜNなのだ。こいつもママの愛情が足りなかったクチか? いや。そもそも、
「……無理だ」
Eの顔がチラついた。Nのパートナーの席はすでに埋まっている。
「…………」
ぐっとクレハドールは顎を引いた。当てが外れたと言わんばかりだ。
だが、Aとしても譲れない。
部屋の空気が凍てつき、Aとクレハドールは沈黙した。
……と、不意にクレハドールが肩を竦めた。芝居がかった大げさなため息をつく。
「分かりました。妥協します。
今度の休みに、レッドライト地区を案内してください。
それで許してあげます」
「大盤振る舞いだな。何かの罠か?」
警戒しながらも、Aは承諾するしかないと分かっている。
クレハドールは一転、にっこりと天使のように微笑んだ。そうして、箱の蓋をそっと開く。
そこに入っていたのは──。
「ロワッシィ」
Aが従業員控室のドアを開けると、見習いのクレハドールがひとり、作業をしていた。
「手伝って下さーい」
クレハドールはAに気づくなり、泣き言を言う。
ローテーブルは当然のこと、三人掛けのソファも、床ですらヴァレンタインの贈り物で埋め尽くされていた。
その中央にクレハドールがぺたりと座り込んでいた。ラッピングされた箱たちに襲撃を受けたかのような様相だ。
「エグい量だな」
「かさ張るものばっかりで、仕分けが進まないんです」
添えられたカードを見て、誰宛ての贈り物なのか分けているらしい。ベルトやリングなど、装飾品なら名前が刻印されていないか確認する必要もある。
「ふふ。セラフィム宛てにお人形が届いてますね。中に盗聴器でも仕込んであるんでしょうか」
他のDomたちは新人に面倒を押し付けて、知らん顔をしているらしい。Nは休みを取っているし、ヴィクトルはレスター辺りに「新人教育の一貫です」と釘を刺されたのだろう。
「リングケースに宝石を入れてくれれば、場所も換金の手間もないのになあ」
「……なるほど。来年はそうしましょう」
冗談を真に受けたのか、クレハドールが顔を輝かせる。
薄々勘付いてはいたが、この見習い、かなりいい性格をしている。
クレハドールは今年二十歳になったばかりのDomだ。顔や体つきにまだ少年の名残りがあるが、セラフィムやレスターと並んでいても遜色ない美形だ。
Aとしては、さっさとクレハドールをDomとして店に出したかった。この見た目だけですぐに固定客がつく。客層も選ばないだろう。
しかし共同経営者から、まだ半人前だという理由でストップをかけられてしまった。今はバーカウンターで酒を作らせたり、常連客の話し相手をさせたりするに留まっている。
クレハドールは若者らしい生意気さで、不満を漏らすこともしょっちゅうだ。
ボーイの真似事しかやらせてくれないなら、せめてピアノを弾かせてくれと頼まれたこともある。ボックス席の前にはちょっとしたスペースがあって、定期的にショーをやっているからだ。
常連のSubを相手を縛ったり、鞭で打ったり、当然、それ以上のこともやって客のSub性を煽る。ちょっと見てみるだけ、という客のテンションを上げてやるのだ。
新規客へのデモンストレーションも兼ねている。常連客はお気に入りのDomから、ショーの相手を頼まれることをある種のステイタスにしている。古参面の優越感はそれだけ魅力的だ。
Aはピアノの件を承諾した。アップライトピアノなら、スペース的にも充分置ける。クレハドールを販売店に連れていき、店頭で弾かせてみて、……無かったことにした。
上手過ぎたのだ。
売春街の風俗店をコンサート会場に変えてしまう技巧だった。客の視線を掻っ攫って、店のコンセプトがブレてしまう。
それからしばらく、クレハドールはAと口を利いてくれなかった。
さすがのAも少しだけ傷ついた。傷ついた自分に驚いたぐらいだった。
「あっ、」
唐突にクレハドールが高い声を上げる。贈り物の酒瓶から手を滑らせた。
Aは慌てて空中で捕まえる。ヴィンテージ物ならシャレにならない。
「あ、あ、」
細身の体が絨毯の上にうずくまった。時折、腰が跳ねる。
ブー……ン、と聞き覚えのある振動音が微かに聞こえてきて、Aは顔を引き攣らせた。
「職場でそういうプレイ止めろよ。精液臭いのは二階だけで充分だ」
「ま、マスター……っ、」
Aを完全に無視して、クレハドールはスマートフォンを取り出した。尻に入れられたローターのせいで、操る手元が心もとない。今にも取り落としそうだ。
「マスター、今、ダメだって、しごっ、終わ、ンないし、レスターに、ぶたれるっ、
ンンっ?!」
悲鳴のような訴えの後、クレハドールが、ビクッと背を弓なりに反らせた。
振動音がひと際大きくなる。
「ああっ、イ、やだってっ、」
Aは忍び足で逃亡を図った。
が、クレハドールの腕がAのスラックスの裾を掴む。
ぎょっとして振り返ると、彼は哀れな毛虫のように全身を蠢動させたまま、スマートフォンを相手に数を数えている。指定した数だけ耐えろ、というご命令なのだろう。
勘弁してくれ、と天を仰ぎたくなる。
クレハドールがカウントしつつも、Aを見つめ続けているからだ。
どんなに美形でも、無表情のクレハドールには、Aだって劣情をもよおさない。ベッドに押し倒しても、その人形じみた顔が変わらないことを連想させるせいだ。反応の悪い相手とのセックスほどつまらないものはない。
今は違う。彼の瞳は潤んでいた。劣情のために溢れる涙には、独特の艶がある。口は大きく開かれ、象牙のように白い歯が見えた。クレハドールは饒舌な方だが、それでもまじまじと咥内の歯並びを見つめることは殆どないだろう。
日常生活を送る上で露わにならない部分が視界に入ると、男は緊張する。相手がセックスに合意したという証左に足る言い訳を探すのに、必死にならざるを得ないからだ。
粘膜にはうんざりのAも、必死になった。
「くぅっ、」
身体を堅くして動けないAの前で、クレハドールが悔しそうな呻きを漏らした。
いつの間にかカウントを終えていたのだ。
命令通り耐えた代償として、射精の絶頂を逃してしまったらしい。やるせなさに身を悶えさせる腰つきが淫らだ。
「ぁあ、……っ、」
彼は腰を前後にゆすった。逃したものを取り戻そうと藻掻く仕草だった。とっくに処女ではないのだろう。記憶の中のものを思い出し、欲しがっている様子だった。わななく唇から今にも「入れて」と蠱惑の声が聞こえてきそうだ。
眉間に悩ましげなしわが寄っている。人形ではし得ない顔だ。彼とセックスしたらどんな表情をするのか、想像力を刺激する。
性欲そのものを揺さぶられた感じだった。ヤるだけならUsualにだってやれるのだ。札束を積み上げなければヤれないような美形と。
「ふ、……」
気まずく長い時間の末、ようやくクレハドールは上半身を持ち上げた。お仕着せの制服も髪もセックスの後のように乱れている。
ぐい、と彼は涙を拭った。自分の美貌に一欠けらの価値も見出していない手つきだ。セラフィムならボタンが顔を傷つけることを危惧してまずやらないだろう。
「……お前らさあ」
Aは長く息を吐いた。おそろしく疲れている。
手を出さずにいられたのは理性のおかげではない。後におこるだろうことに恐怖したからだ。
「お仕事なんですもん」
呆れるAに、クレハドールは脱力した笑みを向ける。幸い、手を出せなかった臆病者に対する嘲笑ではなかった。
性の匂いが細い身体にまだ充満したままだ。発散を禁止されている若者ほど、いやらしい存在はない。目の毒だ。
「俺は訓練中のままこっちに来ちゃったんで、しょうがないんです。S役やるんならまず奴隷を経験してからって、マスターの教育方針らしいので」
初耳だった。
Domという生き物は生れながらにして、そういうことをこなせるものだと思い込んでいた。そもそも、DomがDomを調教するという発想がなかった。Dom性とDom性は反発し合うものだとも。
「嫌じゃないのか?」
「ぜんぜん。マスター優しいですし。褒められれば嬉しくて泣きそうになりますよ。
Aも一度どうですか」
「じゃあ、レスター達も?」
誘いを無視して、Aは質問を重ねる。
「そうじゃないですか。みんな、あんまり話してくれないけど。
あ、でもヴィクトルはどうかな。才能があるってマスターが褒めてたから免除されたかも」
Aはヴィクトルの顔を思い浮かべた。
彼の人気や実力は知っている。だが、特別、才能があるかと言われるとやや疑問だ。
「…………」
そうだろうか。AはこれまでDomの才能と暴力性を結び付けていただけではないのか。EというDomがあまりにも強烈なせいで、先入観を抱かされただけではないのか。
……分からなくなってきた。
今まで一緒に店をやってきたが、彼らという集団のことをあまり深く考えたことがなかった。Aがあまりプライベートに深入りしないタイプの人間というのも理由のひとつではある。
知っているのは、格別のDom性を持った上等な男たちを共同経営者が連れていたということだけ。
クレハドールの話が本当なら、共同経営者こそがDomという集団のボスということになる。レスターに感じていた信仰の正体は、「この人には勝てない」という絶対的な服従だったのかもしれない。
が、そうなると話が矛盾してしまう。共同経営者はレスターを始めとする全員から、軟禁されているように思えるからだ。
「さっき、こっちに来たって言ったよな。
じゃあどこから来たんだ」
クレハドールが意味深な笑みを浮かべた。足元の贈り物をひとつ手にとり、ベルベットのリボンを紐解いていく。
真四角の箱をAに向かって掲げ、右手を箱に蓋にかける。
「知りたいですか」
「ああ」
上目遣いに見られた。パンドラの箱だとでも言いたいのだろうか。試されていると感じた。
「条件があります」
「言ってみろ」
「俺とNの仲を取り持ってください」
冗談だろう、と笑いかけ、咽喉が詰まった。
クレハドールの眼が誤魔化すのを許さなかったせいだ。
碧眼の淵を、ぐるりと銀色の鋭い光が巡る。AがSubなら、恐怖のあまり屈していただろう。
だが、なぜNなのだ。こいつもママの愛情が足りなかったクチか? いや。そもそも、
「……無理だ」
Eの顔がチラついた。Nのパートナーの席はすでに埋まっている。
「…………」
ぐっとクレハドールは顎を引いた。当てが外れたと言わんばかりだ。
だが、Aとしても譲れない。
部屋の空気が凍てつき、Aとクレハドールは沈黙した。
……と、不意にクレハドールが肩を竦めた。芝居がかった大げさなため息をつく。
「分かりました。妥協します。
今度の休みに、レッドライト地区を案内してください。
それで許してあげます」
「大盤振る舞いだな。何かの罠か?」
警戒しながらも、Aは承諾するしかないと分かっている。
クレハドールは一転、にっこりと天使のように微笑んだ。そうして、箱の蓋をそっと開く。
そこに入っていたのは──。
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