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2章 歌姫
1.新たなる職
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闘技大会が終わって1週間経った。
3冠を達成したスラストは公式やまとめサイト運営のプレイヤーからインタビューを受け、軽く話題になっていた。
そんな有名ロイヤルナイトは、およそ騎士らしからぬ格好をして草原に立っていた。
白いセーラー襟に兎の耳が付いた、髪と同じ色のミニワンピースを纏い、長い脚はサイハイソックスに覆われている。何より巨大なタワーシールドを所持していなかった。代わりに手にしているのはマイクのような武器だ。
未来的なデザインの鎧かパイロットスーツを着ているイメージの強いスラストが、姫系プレイヤーに突如方向転換したのには理由がある。
「新職『ディーバ』だとは思わないだろ普通。バッファーだから上げてるけど」
その日のメンテで、新職の追加が発表された。歌で味方を支援する職業だ。メイン職を変えるつもりはさらさらないが、他職理解のためにスラストも今は騎士ではなく、歌姫をしているのだった。
レベリングのために低レベル帯の惑星を訪れ、弱いMOBに苦戦しながらレベルを上げていく。
なんとなく趣味職の気配を感じながらも、スラストは今の初期装備を気に入り始めていた。
「可愛いな。バーチャル美少女になって金を稼ぎまくるか……?」
「でしょ!? 可愛いは正義って、昔から言うもんね」
同じ服装をしたストロベリィ・ピンクがくるくる飛び回りながらその発言を称賛する。キャラクターメイキングすら碌にやらず、衣装も装備そのまま素材の味を生かす革命的敗北主義者や既に小綺麗にまとまっているパインキラーよりもSS勢として面白みがあるのがスラストだった。
「もっと可愛くなりたく……ならない?」
「あー……分からんでもないが、衣装高えんだよ。そのために金策するかっていったらしない」
待ってました、とストロベリィは鱗粉を撒き散らす。
「いっぱいあるからあげるね。SS勢、なろう!」
プレゼントでどんどんスラストに送りつける。なんとなく似合わなかったものや、新実装ではしゃいでいたもののよく見るとあまり好みではなかったものなどを次々に贈った。
「うわマジか。貰っとく」
なんだかんだ受け取ったスラストは、横から飛んできた凶悪そうなウサギに音符型の波動を撃って倒した。
「エフェクトはいつも通りの低クオリティですが……バフの持続時間がこれだけ長いと、集団戦なら何人か欲しいな」
欠点はバフを掛けている時に全くの無防備だということと、モーションがやたら長いことだ。移動スキルのスピードも遅い。既存職のバッファーと比べると遥かにバフの持続時間・効果範囲ともに優れているが、いかんせん性能がバフに尖りすぎて一対一だとお話にならなさそうだ。最後衛職確定である。
「えーい!」
ストロベリィ・ピンクはスキルを使用する考えに至らず、マイクで直接敵を殴っている。
それは可愛いとは言えないんじゃないかと思いつつ、試しに攻撃力上昇のバフをかけてみる。
その場でくるりと一回転し、手を差し伸べてマイクを口元に持っていくモーションの後、ふわふわと音符がストロベリィの方へ向かい、シャボン玉のように弾けた。
「……! なんてガバガバな調整してるんだ……」
攻撃力上昇……50%!?
スラストは驚きすぎてしばらく言葉を失った。
いくらソロが弱いとはいえ、ディーバなしでは健康で文化的な最低限度の人権すら守られないゲームになってしまう。人権職だ。
被弾しながら、それでも何度もマイクで殴りつける妖精の与ダメージ量も飛躍的に上昇している。近いうちに大幅下方修正が入ることは明らかだが、それまでは歌姫で無双しようと目論むスラストだった。
3冠を達成したスラストは公式やまとめサイト運営のプレイヤーからインタビューを受け、軽く話題になっていた。
そんな有名ロイヤルナイトは、およそ騎士らしからぬ格好をして草原に立っていた。
白いセーラー襟に兎の耳が付いた、髪と同じ色のミニワンピースを纏い、長い脚はサイハイソックスに覆われている。何より巨大なタワーシールドを所持していなかった。代わりに手にしているのはマイクのような武器だ。
未来的なデザインの鎧かパイロットスーツを着ているイメージの強いスラストが、姫系プレイヤーに突如方向転換したのには理由がある。
「新職『ディーバ』だとは思わないだろ普通。バッファーだから上げてるけど」
その日のメンテで、新職の追加が発表された。歌で味方を支援する職業だ。メイン職を変えるつもりはさらさらないが、他職理解のためにスラストも今は騎士ではなく、歌姫をしているのだった。
レベリングのために低レベル帯の惑星を訪れ、弱いMOBに苦戦しながらレベルを上げていく。
なんとなく趣味職の気配を感じながらも、スラストは今の初期装備を気に入り始めていた。
「可愛いな。バーチャル美少女になって金を稼ぎまくるか……?」
「でしょ!? 可愛いは正義って、昔から言うもんね」
同じ服装をしたストロベリィ・ピンクがくるくる飛び回りながらその発言を称賛する。キャラクターメイキングすら碌にやらず、衣装も装備そのまま素材の味を生かす革命的敗北主義者や既に小綺麗にまとまっているパインキラーよりもSS勢として面白みがあるのがスラストだった。
「もっと可愛くなりたく……ならない?」
「あー……分からんでもないが、衣装高えんだよ。そのために金策するかっていったらしない」
待ってました、とストロベリィは鱗粉を撒き散らす。
「いっぱいあるからあげるね。SS勢、なろう!」
プレゼントでどんどんスラストに送りつける。なんとなく似合わなかったものや、新実装ではしゃいでいたもののよく見るとあまり好みではなかったものなどを次々に贈った。
「うわマジか。貰っとく」
なんだかんだ受け取ったスラストは、横から飛んできた凶悪そうなウサギに音符型の波動を撃って倒した。
「エフェクトはいつも通りの低クオリティですが……バフの持続時間がこれだけ長いと、集団戦なら何人か欲しいな」
欠点はバフを掛けている時に全くの無防備だということと、モーションがやたら長いことだ。移動スキルのスピードも遅い。既存職のバッファーと比べると遥かにバフの持続時間・効果範囲ともに優れているが、いかんせん性能がバフに尖りすぎて一対一だとお話にならなさそうだ。最後衛職確定である。
「えーい!」
ストロベリィ・ピンクはスキルを使用する考えに至らず、マイクで直接敵を殴っている。
それは可愛いとは言えないんじゃないかと思いつつ、試しに攻撃力上昇のバフをかけてみる。
その場でくるりと一回転し、手を差し伸べてマイクを口元に持っていくモーションの後、ふわふわと音符がストロベリィの方へ向かい、シャボン玉のように弾けた。
「……! なんてガバガバな調整してるんだ……」
攻撃力上昇……50%!?
スラストは驚きすぎてしばらく言葉を失った。
いくらソロが弱いとはいえ、ディーバなしでは健康で文化的な最低限度の人権すら守られないゲームになってしまう。人権職だ。
被弾しながら、それでも何度もマイクで殴りつける妖精の与ダメージ量も飛躍的に上昇している。近いうちに大幅下方修正が入ることは明らかだが、それまでは歌姫で無双しようと目論むスラストだった。
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