36 / 40
36.修復
しおりを挟む
片付けられて練兵場の瓦礫は少しばかり減っていたが、術の行使に支障をきたすほどではない。タニアさんは案内を終えた後、周囲にいた兵に離れるように命じて自分は側転や宙がえりを繰り返していた。
「僕もこの規模の修復は厳しいんだけど。どうやってやるの? まさか時を戻したり……?」
「時間を巻き戻すほどのことじゃないですよ。俺は世界に大規模な干渉をするのはあまり好きじゃなくて」
「『ほどのことじゃない』ね。できるんだ、ふーん」
できると答えたらそのまま勢いで実演させられそうだったので、答えずに術の展開を始める。
腕を前に出し、指を広げて魔力を流し始めた。
流すというよりは、俺の魔力で練兵場を満たすといった方が正しいか。指先から力が筋のように流れ出て、広がり、繋がって練兵場に充満する。
こういうのは魔法陣を使って丁寧にやった方がいい。いいのだが、使わなくてもいい。
「元の形なんてわかるの? これだけ壊されてて。っていうか陣も触媒もなしによくやるよ、ほんと」
「まあ見ていてください。『在るべき場所、在りし刻にあるように』──すみません、やっぱりちょっと時間系の魔法使いました」
周りを魔力で包み込まれた瓦礫は、水中を舞うように浮き上がり、元あるべき場所へと向かう。足りなかった分は魔力で補填して、瓦礫を元の位置に戻していく。俺とタニアさんが戦う前の状態まで戻すのには操作は殆ど必要ない。最初に時間を遡って視たくらいだな。
手から離れた魔力は、自然と渦となって闘技場の内部を巡っていった。
「うっ……魔力酔いしそう……暴発とかしないの……コレ……」
タニアは口を抑えて蹲っていた。魔力にあてられたらしい。吐くのはやめてくれよ。とはいっても、この程度の濃度なら「人間なら」身体機能に支障が出るほどではないと思うのだが。ちなみに魔族の場合は勝手に吸収して、余った分はそのまま放出されるからやはりこうはならない。
魔力の流れに乗って砂粒が堆積するかのような動きで瓦礫が、砂が、座席が元あった場所へとおさまる。
俺はとっくに操作をやめていた。腕を下ろしてその光景を見守る。散ったはずの兵──兵だけでなく市井の人々も──野次馬として成り行きに感嘆の声を上げていた。大道芸か何かのような扱いである。
時間を巻き戻しているわけではないのに、練兵場が修復されていく光景はそれに酷似していた。破壊される前に存在していた場所に、破片が吸い込まれるかのようにつうとおさまる。制御などしなくても、暴発する兆しは見えず。いっとき拡散した魔力も再び集束して、規則正しく役目を果たしていた。
……いよいよ、最後の瓦礫がてっぺんの部分に嵌め込まれて完全に修復が完了する。気持ち悪そうにしていたタニアもけろりとしていて、元気そうに動き回って歓声を上げている。
余った魔力は霧散して、空中に溶け込んでいく。
魔力で包むというやり方上、魔力の無駄は大きい。美しくない、野卑であるといえばそうだった。ただ魔法陣は解析される危険性を秘めている。それに一旦展開したのなら容易に中断することができない。自分以外に真似されたくないのなら、直感的な操作と膨大な魔力量に任せたこの方法が適していた。
タニアは手を叩いて俺の術を称賛した。強者の余裕がある魔法師は皆白々しく振る舞わなきゃいけない縛りでもあるのだろうか?
見ると、平気なようでいてまださっきの余韻が残っているらしく、千鳥足気味である。
無理をするなよと思いながら、じゃあ帰りましょうかと声を掛けたがタニアは動かなかった。
「月並みな言葉だけど、シェミくん化物だね。すっごいよ。……さすがは魔王シェミハザの名を騙るだけは、ある」
僅かな敵意、そして幾分かの殺意を込めて、練兵場の入り口に立つタニアは口を開きながら笑う。だが戦意は感じられない。
その口から覗く犬歯は鋭く尖っていて、俺は思わず自分の歯列を舌でなぞった。
「僕もこの規模の修復は厳しいんだけど。どうやってやるの? まさか時を戻したり……?」
「時間を巻き戻すほどのことじゃないですよ。俺は世界に大規模な干渉をするのはあまり好きじゃなくて」
「『ほどのことじゃない』ね。できるんだ、ふーん」
できると答えたらそのまま勢いで実演させられそうだったので、答えずに術の展開を始める。
腕を前に出し、指を広げて魔力を流し始めた。
流すというよりは、俺の魔力で練兵場を満たすといった方が正しいか。指先から力が筋のように流れ出て、広がり、繋がって練兵場に充満する。
こういうのは魔法陣を使って丁寧にやった方がいい。いいのだが、使わなくてもいい。
「元の形なんてわかるの? これだけ壊されてて。っていうか陣も触媒もなしによくやるよ、ほんと」
「まあ見ていてください。『在るべき場所、在りし刻にあるように』──すみません、やっぱりちょっと時間系の魔法使いました」
周りを魔力で包み込まれた瓦礫は、水中を舞うように浮き上がり、元あるべき場所へと向かう。足りなかった分は魔力で補填して、瓦礫を元の位置に戻していく。俺とタニアさんが戦う前の状態まで戻すのには操作は殆ど必要ない。最初に時間を遡って視たくらいだな。
手から離れた魔力は、自然と渦となって闘技場の内部を巡っていった。
「うっ……魔力酔いしそう……暴発とかしないの……コレ……」
タニアは口を抑えて蹲っていた。魔力にあてられたらしい。吐くのはやめてくれよ。とはいっても、この程度の濃度なら「人間なら」身体機能に支障が出るほどではないと思うのだが。ちなみに魔族の場合は勝手に吸収して、余った分はそのまま放出されるからやはりこうはならない。
魔力の流れに乗って砂粒が堆積するかのような動きで瓦礫が、砂が、座席が元あった場所へとおさまる。
俺はとっくに操作をやめていた。腕を下ろしてその光景を見守る。散ったはずの兵──兵だけでなく市井の人々も──野次馬として成り行きに感嘆の声を上げていた。大道芸か何かのような扱いである。
時間を巻き戻しているわけではないのに、練兵場が修復されていく光景はそれに酷似していた。破壊される前に存在していた場所に、破片が吸い込まれるかのようにつうとおさまる。制御などしなくても、暴発する兆しは見えず。いっとき拡散した魔力も再び集束して、規則正しく役目を果たしていた。
……いよいよ、最後の瓦礫がてっぺんの部分に嵌め込まれて完全に修復が完了する。気持ち悪そうにしていたタニアもけろりとしていて、元気そうに動き回って歓声を上げている。
余った魔力は霧散して、空中に溶け込んでいく。
魔力で包むというやり方上、魔力の無駄は大きい。美しくない、野卑であるといえばそうだった。ただ魔法陣は解析される危険性を秘めている。それに一旦展開したのなら容易に中断することができない。自分以外に真似されたくないのなら、直感的な操作と膨大な魔力量に任せたこの方法が適していた。
タニアは手を叩いて俺の術を称賛した。強者の余裕がある魔法師は皆白々しく振る舞わなきゃいけない縛りでもあるのだろうか?
見ると、平気なようでいてまださっきの余韻が残っているらしく、千鳥足気味である。
無理をするなよと思いながら、じゃあ帰りましょうかと声を掛けたがタニアは動かなかった。
「月並みな言葉だけど、シェミくん化物だね。すっごいよ。……さすがは魔王シェミハザの名を騙るだけは、ある」
僅かな敵意、そして幾分かの殺意を込めて、練兵場の入り口に立つタニアは口を開きながら笑う。だが戦意は感じられない。
その口から覗く犬歯は鋭く尖っていて、俺は思わず自分の歯列を舌でなぞった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる