敗北魔王の半隠遁生活

久守 龍司

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27.一徹

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方角を教えてもらえれば、その方向に光柱を立てて飛んでいけばいい。既に陽が落ち切り、灯りもない夜の街で少女と襟巻きの竜を探すためにまず救護所に降り立った。

辺りに誰も居らず、人目に付かない場所であることを確認して姿を現す。夜なので人など全くいないと思いきや、この非常事態なので意外にも人通りがあった。遠くで宴会のような楽しげな声もする。

アレーナとクエレブレはもう寝ているだろうか。念話で話しかけようかとも思ったが、起こしたら悪いだろう。しかし、これだとどこにいるか見当もつかないな。

〈クエレブレ。聞こえるか?〉
ドラゴン使いの荒いことだが、クエレブレに念話で話しかけることにした。念話とは、魔力を使って脳と脳で擬似的に会話をする魔法である。

〈シェミハザ様。聞こえておりますよ。街に戻られたのですね。今はどちらにいらっしゃいますか? 動かないでください。迎えに参りますので。決して動かないでください〉
クエレブレから返事が来る。よっぽど俺に動いて欲しくないのだろう。

〈救護所のいちばん大きな天幕の近くだ〉
〈承知いたしました〉
少しくらい動いてもいいだろうと数歩歩いたが、動かないでくださいと念を押されていたためすぐに戻った。


「シェミハザ様! おかえり」
しばらくその場で突っ立っていると、軽装のアレーナと、その首に巻かれたクエレブレが迎えに来てくれた。近くの天幕を借りて、そこで眠る予定らしい。

「ただいま」
「どうだった? 情報とか、なんかそういうのは」
説明するより見てもらった方が早いと、天幕の中で亜空間から日誌と金目の物を出す。虚空から次々に物を出しているとぎょっとされた。
アレーナが宝石を受け止め、クエレブレは日誌を尻尾でキャッチする。

「これ取ってきたの!? 凄いじゃない」
「情報はこれだけなんですかね」
宝の山にはしゃぐアレーナ。クエレブレは尻尾でページを捲り、考え込んでいた。

「ああ…………俺はシェミハザでもなかったらしい。さっぱりわからん。アザゼルに聞くしかないかな、と」
「シェミハザでもなかった……? 私もさっぱりわかりませんよ。聞く? 敵であろう魔王に」
お出来になるのですか、とでも言いたげな声色だった。

「魔力は戻った。……いくらでも方法はある。そうだろう」
「その通りです。出過ぎた発言をお許しください。これからはなんとお呼びすれば?」
「シェミハザでいい。面倒だから」
アザゼルの前ではそうもいかないだろうが。そうだ、アザゼルの情報はまだなのか。
今度はアレーナが答える。

「まだ半日じゃ、なんにもわからないでしょ。落ち着いて待ってなよ」
その通りだった。
青ランク昇格試験受験者が戻ってこないと聞いたのが昨日の正午で、それからアレーナを間一髪で救って、レメクを倒したのが陽が沈み始める頃。早朝セバルドに戻り、魔王城に行って帰ってきて……。
あれ、もう丸1日以上寝ていないのか。意識すると急に眠気が押し寄せてきた。

アレーナは宝石の指輪を嵌めて遊んでいる。こういうものが好きなのか。
横になって話を聞いていると、すぐに目を開けていられなくなる。

眠いな。
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