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十,ある女官の手記
しおりを挟む後世になり、或る女官の手記が見つかった。無名の一女官であり、本人について分かることはないが、王の側近くに仕えた人間であることは間違いない。
丹頂殿と呼ばれていた宮殿跡から発見されたもので、当時の史料としては大変貴重である。
その一部をここに公開する。
竺董太子殿下が、記憶を失くした青年を連れ帰られた。
記憶喪失というだけでも怪訝なものなのに、その上に、その体は既に宦官と同じだった。
なまじ礼儀作法が身についているため、どうにも怪しい気配がしたが太子殿下はご自分の傍に置くのだといって聞かない。
記憶がないため、太子殿下自ら、白《ハク》と名付けられた。
(中略)
陛下がお隠れになり、殿下が即位。
(中略 損傷がひどく解読不能な箇所が多い)
陛下、ひどい熱をお出しになり、ついに小望月の晩が峠とのこと。王宮内が騒然としている。
夜明け、一晩中お側に控えた白が突然死。陛下の体は驚くほど回復した。
白が陛下の病を肩代わりしたとしか思えなかった。彼の忠義には目頭が熱くなる。
得体のしれない青年であったが、陛下にとって魂の伴侶であったのだろう。陛下の悲しみは計り知れないほどだった。
特例だが、東の湖に白の墓標をたて、この湖を瑞鳥湖と改めた。
(以下、平穏な治世、竺董王の善政が書かれる)
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