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九,鶴舞う湖のほとりで
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重い瞼を開くと、草の香りが身を包んでいる。
ひんやりとした朝露がかすかに肌を撫でた。
「ああ、目覚めたか……!」
見下ろすのは、随分と清廉とした顔つきの青年だった。
やがて頭に貫くような痛みが、思い出されたかのように走り、吐息することさえ難しくなる。
「大丈夫か!? 頭に怪我をしているようだ、無理に動くな」
ゆるゆると手を頭へ伸ばすと、そこには手当てのあとがあった。
――彼が、施したのだろうか。痛みに耐えながら、なんとか起き上がる。どうも涼しいと思えば、体は湖畔に横たえられていた。
「……鶴皙?」
青年と、その隣には鶴が一羽、同じく案ずるように立っている。
「……あなたは…………誰?」
この青年を、自分は知らない。いや、分からないのだ。
頭のなかに靄がかかったようで、思い出そうとしてもそれはすぐに霞んでしまう。
「そんな……、こんな無慈悲なことがあるなんて!」
青年の腕の中へ、抱き寄せられる。朝の風に冷えていた体が、途端に温もりを覚えていった。
「未来を、誓ったではないか。俺の傍にいてほしいと」
涙まじりの青年の声が、どこか遠く……けれど心に深く染み入る。
――ああ、そうか。私はこの人に愛されていた?
「……不思議です。何も思い出せないというのに、この温もりはとても愛おしくて……私は、あなたを愛していたのでしょうね」
再び力の込められた抱擁に、名も忘れてしまった鶴は、すがるように応える。
鶴舞う湖のほとりで、彼らはいつまでも身を寄せていた。まるで、比翼の恋人たちのように。
ひんやりとした朝露がかすかに肌を撫でた。
「ああ、目覚めたか……!」
見下ろすのは、随分と清廉とした顔つきの青年だった。
やがて頭に貫くような痛みが、思い出されたかのように走り、吐息することさえ難しくなる。
「大丈夫か!? 頭に怪我をしているようだ、無理に動くな」
ゆるゆると手を頭へ伸ばすと、そこには手当てのあとがあった。
――彼が、施したのだろうか。痛みに耐えながら、なんとか起き上がる。どうも涼しいと思えば、体は湖畔に横たえられていた。
「……鶴皙?」
青年と、その隣には鶴が一羽、同じく案ずるように立っている。
「……あなたは…………誰?」
この青年を、自分は知らない。いや、分からないのだ。
頭のなかに靄がかかったようで、思い出そうとしてもそれはすぐに霞んでしまう。
「そんな……、こんな無慈悲なことがあるなんて!」
青年の腕の中へ、抱き寄せられる。朝の風に冷えていた体が、途端に温もりを覚えていった。
「未来を、誓ったではないか。俺の傍にいてほしいと」
涙まじりの青年の声が、どこか遠く……けれど心に深く染み入る。
――ああ、そうか。私はこの人に愛されていた?
「……不思議です。何も思い出せないというのに、この温もりはとても愛おしくて……私は、あなたを愛していたのでしょうね」
再び力の込められた抱擁に、名も忘れてしまった鶴は、すがるように応える。
鶴舞う湖のほとりで、彼らはいつまでも身を寄せていた。まるで、比翼の恋人たちのように。
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