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五,鶴の正体
しおりを挟む「まさか、このようなところで王族のお方にお会いするとは」
彼は名を鶴皙といった。しなやかな体に、芯はありながらも細い声……なんとその身は自宮を受けていた。
後宮に仕えるべく施したのだが、回復がかんばしくなく、とても宮仕えのできる体ではなくなってしまったらしい。
「しかし家族の手前、家に残るのも心苦しく……世捨て人のように、山奥で暮らしているのです」
「そうだったのか」
ということは、鶴皙が後宮に仕えていれば、竺董はもっと早く彼と出会えていたかもしれない。
……いや、出会えていたとしても、いま王宮にいる人間は女であれ男であれ、宦官という第三の存在であれ、みな王のものだ。自らが親しくするべきではない。
あの父王にも……寵愛する官吏がいることは知っている。特に長く愛されているのは後宮で洗濯をしている宦官だと漏れ聞く。
「こんな夜更けに、ここでなにをしていたのだ?」
優しい夜風を受けながら、彼らはほとりに並んで座った。
「水を汲みに……舞いは、気晴らしでございます」
さすがに、見られたことを恥じているのか、白い光のもとで頬を染める。そして照れ隠しをするように、彼によくなついている鶴の細首を撫でた。
湖面を揺蕩う白い影とは、まさに舞う彼のことではないだろうか。
「そなたが妖という噂が立っている。現に私も、そのような妖がいるのであれば討とうと、ここまでやってきた」
「さようでしたか、お手を煩わせてしまい……申し訳ありません」
宵闇に水汲みは控えることにいたします。
そう付け加えて鶴皙は頭をおとす。肩から黒髪が流れ落ち、毛先が空を撫でた。
「いや……でなければ、そなたを見つけられなかった」
「……殿下」
このような高揚感は初めてである。どんなに器量良しとされる娘を目の前にしたとて、そんな風に思ったことはない。
「また、満月の晩にここへ来てくれないか。そなたの舞いを観たい」
「私の舞いなど……殿下がいつもご覧になってらっしゃる踊子に敵いません。それに……」
それに? 先を促すように竺董は前のめる。
「……満月など、いけません。あなたの身分は私には眩しくて……月明かりを受けては、更に目がくらんでしまいます」
そうやって、静かに微笑む鶴皙のなんと妖艶なことか。
「ではその前の、幾望の晩にしよう。それなら眩しくはないだろう?」
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