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閑話:視聴者
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ダファンの視線が、スワイプされた画面を追いかけていく。
「はあ、すごいな……」
「……? どうしたんだ?」
第二ミッション発表前夜。久しぶりに、レッスンに追われることのない休日を過ごす練習生たちは、誰から声をかけるまでもなく自然とラウンジに集っていた。
広いラウンジは大きなソファーとローテーブルを中心に、素足で過ごせるラグのスペース、更にはさまざまなデザインのリクライニングチェアが置かれている。まさに練習生たちの憩いの場だ。
「ああ、ジュヌ。……君も、使ってるだろう?」
ソファに浅く、姿勢良く腰掛けるダファンは、隣に深く座ったジュヌに対してタブレットの画面を向ける。そこに表示されるのは番組専用のSNS・インスタントフォトだった。
画面のなかには、ダファンの自撮り写真が映し出されている。写真のすぐ下には視聴者から送られた高評価を示すハートの個数、そしてコメントがずらりと並ぶ。
「自分は……俳優のころ、SNSが嫌いだったんだ」
ダファンはまるで、愛おしく撫でるかのように、並んだコメントの数々を指でスワイプしていく。
「『大根役者』『新人のくせに台詞が多い』『殺陣が下手すぎる』……すべて、自分のSNSに書き込まれたコメントだ」
「……そういうこと、多かったのか?」
ジュヌの問いに、ダファンは寂しげに笑った。その視線はどこか遠い過去を見ているようだった。
「幸い、評価をしてくれる人たちもいた。だが……」
なんとなく、周囲にいる練習生たちもダファンの言葉に耳を引かれている様子で、各々の会話を終わらせる。
「例えば応援のコメントが100あったとしても、1つだけされる厳しいコメントばかりが気になって……だからSNSが嫌いだった」
「……なるほど。じゃあ、いまは?」
再びされるジュヌの問いに、ダファンは穏やかに微笑む。
「それが、嫌いじゃない。当然いまだって……ほら、見てくれ」
ずい、とジュヌの目の前に出されたタブレット。並ぶコメントの中には『体が固くてダンスに見えない』『アイドルに向いてない』『歌が下手すぎ』――目を背けたくなるような辛辣なものが紛れ込んでいる。
(ああ……兄さんが、言ってたな)
頷きながら、ジュヌは視線を滑らせる。
『こういう番組では……まあ、番組だけじゃないけど……。鞭のつもりでいてくれる人もいれば、はじめから中傷が目的の人もいるよ』
こうしたコメントをすることに喜びを感じる人間がいると。そう言いながら、ソルセは苦笑していた。一度、罪によってネット上で業火に焼かれた彼にとって……SNSは怖くないのかと、無粋ながらも気になった。
「嫌いじゃなくなったのは、ブースターさんのおかげ?」
「兄さん……!」
ダファンの向こう側に、ソルセが腰を下ろす。
「ああ、そうだ。未熟な俺に投票してくれる――ブースターという心強い存在が一人でもいると、わかったからな」
ブースター。それは番組オリジナル用語である。
彼ら『ドリーム・リブート・プログラム』に参加する練習生たちのデビューを後押しするため、毎日欠かさず専用アプリケーションから投票をする視聴者のことを指す。
練習生たちの背中を押して、ブーストする存在……それがブースターだ。
「分かるよ。ダファン」
「俺も!」
「私も」
気がつけば、ソルセだけでなくドンウク、ビボク、ベクギュ、シュマ、サキトもソファに集って頷いた。
「ブースターさんたちへの恩は、パフォーマンスで返そう!」
「おー!」
明るい声が響く。自然と彼らは手のひらを重ねあって、奮起するようにそれを空へと掲げた。
「はあ、すごいな……」
「……? どうしたんだ?」
第二ミッション発表前夜。久しぶりに、レッスンに追われることのない休日を過ごす練習生たちは、誰から声をかけるまでもなく自然とラウンジに集っていた。
広いラウンジは大きなソファーとローテーブルを中心に、素足で過ごせるラグのスペース、更にはさまざまなデザインのリクライニングチェアが置かれている。まさに練習生たちの憩いの場だ。
「ああ、ジュヌ。……君も、使ってるだろう?」
ソファに浅く、姿勢良く腰掛けるダファンは、隣に深く座ったジュヌに対してタブレットの画面を向ける。そこに表示されるのは番組専用のSNS・インスタントフォトだった。
画面のなかには、ダファンの自撮り写真が映し出されている。写真のすぐ下には視聴者から送られた高評価を示すハートの個数、そしてコメントがずらりと並ぶ。
「自分は……俳優のころ、SNSが嫌いだったんだ」
ダファンはまるで、愛おしく撫でるかのように、並んだコメントの数々を指でスワイプしていく。
「『大根役者』『新人のくせに台詞が多い』『殺陣が下手すぎる』……すべて、自分のSNSに書き込まれたコメントだ」
「……そういうこと、多かったのか?」
ジュヌの問いに、ダファンは寂しげに笑った。その視線はどこか遠い過去を見ているようだった。
「幸い、評価をしてくれる人たちもいた。だが……」
なんとなく、周囲にいる練習生たちもダファンの言葉に耳を引かれている様子で、各々の会話を終わらせる。
「例えば応援のコメントが100あったとしても、1つだけされる厳しいコメントばかりが気になって……だからSNSが嫌いだった」
「……なるほど。じゃあ、いまは?」
再びされるジュヌの問いに、ダファンは穏やかに微笑む。
「それが、嫌いじゃない。当然いまだって……ほら、見てくれ」
ずい、とジュヌの目の前に出されたタブレット。並ぶコメントの中には『体が固くてダンスに見えない』『アイドルに向いてない』『歌が下手すぎ』――目を背けたくなるような辛辣なものが紛れ込んでいる。
(ああ……兄さんが、言ってたな)
頷きながら、ジュヌは視線を滑らせる。
『こういう番組では……まあ、番組だけじゃないけど……。鞭のつもりでいてくれる人もいれば、はじめから中傷が目的の人もいるよ』
こうしたコメントをすることに喜びを感じる人間がいると。そう言いながら、ソルセは苦笑していた。一度、罪によってネット上で業火に焼かれた彼にとって……SNSは怖くないのかと、無粋ながらも気になった。
「嫌いじゃなくなったのは、ブースターさんのおかげ?」
「兄さん……!」
ダファンの向こう側に、ソルセが腰を下ろす。
「ああ、そうだ。未熟な俺に投票してくれる――ブースターという心強い存在が一人でもいると、わかったからな」
ブースター。それは番組オリジナル用語である。
彼ら『ドリーム・リブート・プログラム』に参加する練習生たちのデビューを後押しするため、毎日欠かさず専用アプリケーションから投票をする視聴者のことを指す。
練習生たちの背中を押して、ブーストする存在……それがブースターだ。
「分かるよ。ダファン」
「俺も!」
「私も」
気がつけば、ソルセだけでなくドンウク、ビボク、ベクギュ、シュマ、サキトもソファに集って頷いた。
「ブースターさんたちへの恩は、パフォーマンスで返そう!」
「おー!」
明るい声が響く。自然と彼らは手のひらを重ねあって、奮起するようにそれを空へと掲げた。
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