【創作BL】behind stories.~元年齢詐称アイドルは、年下練習生と恋踊る~

佐竹梅子

文字の大きさ
上 下
29 / 30

閑話:視聴者

しおりを挟む
 ダファンの視線が、スワイプされた画面を追いかけていく。

「はあ、すごいな……」
「……? どうしたんだ?」

 第二ミッション発表前夜。久しぶりに、レッスンに追われることのない休日を過ごす練習生たちは、誰から声をかけるまでもなく自然とラウンジに集っていた。

 広いラウンジは大きなソファーとローテーブルを中心に、素足で過ごせるラグのスペース、更にはさまざまなデザインのリクライニングチェアが置かれている。まさに練習生たちの憩いの場だ。

「ああ、ジュヌ。……君も、使ってるだろう?」

 ソファに浅く、姿勢良く腰掛けるダファンは、隣に深く座ったジュヌに対してタブレットの画面を向ける。そこに表示されるのは番組専用のSNS・インスタントフォトだった。
 画面のなかには、ダファンの自撮り写真が映し出されている。写真のすぐ下には視聴者から送られた高評価を示すハートの個数、そしてコメントがずらりと並ぶ。

「自分は……俳優のころ、SNSが嫌いだったんだ」

 ダファンはまるで、愛おしく撫でるかのように、並んだコメントの数々を指でスワイプしていく。

「『大根役者』『新人のくせに台詞が多い』『殺陣が下手すぎる』……すべて、自分のSNSに書き込まれたコメントだ」
「……そういうこと、多かったのか?」

 ジュヌの問いに、ダファンは寂しげに笑った。その視線はどこか遠い過去を見ているようだった。

「幸い、評価をしてくれる人たちもいた。だが……」

 なんとなく、周囲にいる練習生たちもダファンの言葉に耳を引かれている様子で、各々の会話を終わらせる。

「例えば応援のコメントが100あったとしても、1つだけされる厳しいコメントばかりが気になって……だからSNSが嫌いだった」
「……なるほど。じゃあ、いまは?」

 再びされるジュヌの問いに、ダファンは穏やかに微笑む。

「それが、嫌いじゃない。当然いまだって……ほら、見てくれ」

 ずい、とジュヌの目の前に出されたタブレット。並ぶコメントの中には『体が固くてダンスに見えない』『アイドルに向いてない』『歌が下手すぎ』――目を背けたくなるような辛辣なものが紛れ込んでいる。

(ああ……兄さんが、言ってたな)

 頷きながら、ジュヌは視線を滑らせる。

『こういう番組では……まあ、番組だけじゃないけど……。鞭のつもりでいてくれる人もいれば、はじめから中傷が目的の人もいるよ』

 こうしたコメントをすることに喜びを感じる人間がいると。そう言いながら、ソルセは苦笑していた。一度、罪によってネット上で業火に焼かれた彼にとって……SNSは怖くないのかと、無粋ながらも気になった。

「嫌いじゃなくなったのは、ブースターさんのおかげ?」
「兄さん……!」

 ダファンの向こう側に、ソルセが腰を下ろす。

「ああ、そうだ。未熟な俺に投票してくれる――ブースターという心強い存在が一人でもいると、わかったからな」

 ブースター。それは番組オリジナル用語である。
 彼ら『ドリーム・リブート・プログラム』に参加する練習生たちのデビューを後押しするため、毎日欠かさず専用アプリケーションから投票をする視聴者のことを指す。
 練習生たちの背中を押して、ブーストする存在……それがブースターだ。

「分かるよ。ダファン」
「俺も!」
「私も」

 気がつけば、ソルセだけでなくドンウク、ビボク、ベクギュ、シュマ、サキトもソファに集って頷いた。

「ブースターさんたちへの恩は、パフォーマンスで返そう!」
「おー!」

 明るい声が響く。自然と彼らは手のひらを重ねあって、奮起するようにそれを空へと掲げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

聖女オメガは護衛騎士アルファの手を離さない

天宮叶
BL
十一歳の頃、聖女に選ばれたフィオーレは両親や、大好きな幼馴染のソラリスと引き離されてしまう。 ソラリスのことを思い続けていたフィオーレだったが、聖女は代々王族と婚姻することを定められており、第二王子であるノワールとの婚約を強制されてしまった。 更にノワールは到底優しさとはかけ離れている性格であり、フィオーレは毎日泣き暮らす日々。そんなとき、フィオーレの護衛騎士選出が行われることが決まり── 護衛騎士アルファ×不憫な聖女オメガ の幼馴染再会BLです 素敵な表紙は、わかめちゃんからいただきました!

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...