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24,公園デート?③

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「大丈夫ですか? 兄さん」
「うん。ごめんね、走らせて」
「いえ、とんでもないです。……ん?」

 頭部への収まりを整えながらバケットハットをいじるソルセは、ジュヌの視線を追いかける。彼の双眸を引き付けるなんて珍しいこともあるものだ。そんなことを考えながら。

「あれって……」

 その先には、ピクニックを楽しむ老夫婦がいた。レジャーシートの上に座しながら、手を叩いて拍子をとる男性……そしてその隣には、立って歌う女性の姿がある。彼らは時折、目を合わせながら互いの拍子を楽しんでいた。

「パンソリかな」
「みたいですね。確かに、こういうところで歌うのって気持ちよさそうでいいですよね」

 ――パンソリ。それはこの国の伝統芸能であり、オペラに近い口承文芸ともいわれている。歌い手と太鼓奏者それぞれ一名で構成され、歌・語り・振りによって紡がれていく。
 風にのって、歌声が響き渡る。女性は歳を思わせぬほどのびのびと歌う。それに惹かれ、少数のギャラリーが集いはじめていた。

「ああ……そうか」

 ぽつり、とソルセの口から納得したような声がもれる。

「兄さん?」
「俺のおばあさん、パンソリやってたんだ。だから俺にとっては、馴染みのあるジャンルかも」
「そうだったんですか。……あ、もしかして」
「うん……『そう』しようかな」

 ジュヌを見て、ソルセは明るく笑った。

「こうしてついてきて正解だったよ。……俺のこと、連れ出してくれてありがとう」
「兄さん……」

 ようやく、ようやくソルセの役に立てた。そんな気がした。

(俺はただ、デートだなんて……不純な動機だったけど)

 だとしても、いま目の前に立つソルセの笑みは本物なのだ。

「俺も、兄さんと公園デートできてラッキーでしたよ」
「ああもう。それさえなければいいのに……」

 残念なことにソルセの瞳は、一瞬の間にじとっとした表情に変色してしまった。しかしそうなるであろうことは、ジュヌは既に理解していた。理解した上で、彼はそう口にしたのだ。

「宿舎に帰ったら、またみんなの兄さんに戻ってしまうので」
「ジュヌ……」
「だから、兄さんがこういうことを聞けるのも今だけですよ?」
「はあ……なに言ってるんだか」

 再び呆れる彼が溜息をもらす。その刹那、ソルセのポケットのなかでスマートフォンが震えた。

「あ……そろそろ時間だね。肝心の写真は大丈夫?」
「はい。いい写真、たくさん撮れましたよ。あとはどう発表するか、宿舎で詰めようと思います」


 そうして彼らはスタッフの車と合流し、帰路についた。
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