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21,第二ミッション発表③
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「よーしさっそく準備しよっと!」
自由に解散となり、真っ先に声を上げたのはベクギュだった。こういった自己アピールというのは、元より動画配信をしている彼にとっては大得意だろう。
「お、なんだ、もう決めたんか? 俺はまだ悩むとこだな~」
たくさんのピアスのついた耳を掻きながら、ドンウクが声をかける。
「なにやるんだ?」
「はあ? ネタバレなんかするわけないでしょ! ほーんと、ドンウクってダンスしか頭にないんだよね~」
「なんだとこのやろ」
言葉だけを聞くと冷や冷やとするが、彼らは完全にじゃれあっている。ドンウクがベクギュの頭を抱え込み、ぐしゃぐしゃと撫でまわす。まるで兄弟のようだった。
「あらあら、微笑ましいわね。……さて、私もさっそく買い出しに行ってこようかしら」
「む、ビボクはもう決まったのか」
「ええ。シュマは悩み中?」
それを眺めていたビボクに並び、シュマが声をかける。同郷のサキトも、その隣に立った。
「おおよそは決めた。だが、まだなにか足りない気がする」
「分かる、自分もだ……」
その輪にダファンが入り、わいわいと話しながらラウンジを後にする。
そんな彼らを見て、ソルセもゆっくりと部屋へ向かい始める。考えごとをしていると歩みが遅くなるものだ。
「兄さん」
「ジュヌ。……なにをするか、決めた?」
「ううん、まったく思い当たらなくて」
「難しいよね。俺もまだ考え中だよ」
安心させるわけではないが、ソルセは苦笑する。不可抗力的に足並みをそろえ、居室へ帰ることになった。
「うーん……どうしようかな」
椅子に座ると、頭に腕を回して考える。
「兄さん、聞いていいのか分からないけど……」
「ん? いいよ、なーに?」
「こういうのって、いままでやったことありましたか?」
いままで、というのは以前の練習生時代、そしてソルと名乗っていた頃のことを差すのだろう。だからこそジュヌは言いよどんだ。彼なりに気を遣ってくれているのが伝わった。
「いや……なかったかなあ。あ、でも……」
ソルセはふと思い出したように、唇を開き直す。
「当時、作詞を披露したこともあったけど……あんまり響かなかったのか、反応はそんなになかったんだよね」
「作詞……! 兄さんってやっぱりすごいんだ……!」
「いや、だから……反響はなかったんだって。一曲しか書いてないし」
「いえいえ、一曲でも充分に才能ですよ」
そんな大したことのない些細な昔話でも、ジュヌは目を輝かせてソルセを見つめる。
「ま、まあそれはいいとして……ジュヌもちゃんと、考えてね」
「うん……どうしよう。俺いままで趣味も興味もなくて、……もう兄さんをアピールするしか――」
「本当に、それだけは勘弁して」
げんなりと答える。
その刹那ふと、ジュヌの机の上にカメラが載っているのが見えた。可愛らしいレトロなデザインのトイカメラだ。
「ねえ、ジュヌ。それは?」
「え? ああ、じいさんが持たせてくれたんです。貴重な経験を残しておけって。そういえば……まったく使ってないですね」
まあ、そんな時間もないですし……と、ジュヌはカメラを掴んで液晶画面をのぞき込む。なにも切り取っていないメモリーは、ただ暗闇を映し出した。
「……それにしてみたらどうかな。使ってるところ、おじいさんにも見せられるし」
「なるほど! 兄さん、さすがですね」
ちょっとしたことでジュヌは尊敬の眼差しを向けてくる。
「公園にでも行って、いろいろ撮ってみるか」
「うん。いいと思うよ」
「兄さんも行きませんか?」
「俺も? いやだって、なにするか考えないと。時間もないし」
「出かけたら、いいこと思い付くかもしれませんよ」
「……まあ、それも一理あるけど」
やや逡巡し、確かにと納得してしまった。
宿舎にこもって考えるのもいいが、場所を変えてみるのも悪くない。合宿期間は基本的に外へ出る機会がないが、今回の準備に限って自由行動が許可されている。もしなにかを思いついて、道具を揃えたいと思い立てばそのまま買い出しに行けばいい。
「分かったよ。一緒に行こう」
「やった! 兄さんとデートだ」
グッ、とひとり拳を握るジュヌを一瞥したものの、ソルセは聞こえないふりをした。
自由に解散となり、真っ先に声を上げたのはベクギュだった。こういった自己アピールというのは、元より動画配信をしている彼にとっては大得意だろう。
「お、なんだ、もう決めたんか? 俺はまだ悩むとこだな~」
たくさんのピアスのついた耳を掻きながら、ドンウクが声をかける。
「なにやるんだ?」
「はあ? ネタバレなんかするわけないでしょ! ほーんと、ドンウクってダンスしか頭にないんだよね~」
「なんだとこのやろ」
言葉だけを聞くと冷や冷やとするが、彼らは完全にじゃれあっている。ドンウクがベクギュの頭を抱え込み、ぐしゃぐしゃと撫でまわす。まるで兄弟のようだった。
「あらあら、微笑ましいわね。……さて、私もさっそく買い出しに行ってこようかしら」
「む、ビボクはもう決まったのか」
「ええ。シュマは悩み中?」
それを眺めていたビボクに並び、シュマが声をかける。同郷のサキトも、その隣に立った。
「おおよそは決めた。だが、まだなにか足りない気がする」
「分かる、自分もだ……」
その輪にダファンが入り、わいわいと話しながらラウンジを後にする。
そんな彼らを見て、ソルセもゆっくりと部屋へ向かい始める。考えごとをしていると歩みが遅くなるものだ。
「兄さん」
「ジュヌ。……なにをするか、決めた?」
「ううん、まったく思い当たらなくて」
「難しいよね。俺もまだ考え中だよ」
安心させるわけではないが、ソルセは苦笑する。不可抗力的に足並みをそろえ、居室へ帰ることになった。
「うーん……どうしようかな」
椅子に座ると、頭に腕を回して考える。
「兄さん、聞いていいのか分からないけど……」
「ん? いいよ、なーに?」
「こういうのって、いままでやったことありましたか?」
いままで、というのは以前の練習生時代、そしてソルと名乗っていた頃のことを差すのだろう。だからこそジュヌは言いよどんだ。彼なりに気を遣ってくれているのが伝わった。
「いや……なかったかなあ。あ、でも……」
ソルセはふと思い出したように、唇を開き直す。
「当時、作詞を披露したこともあったけど……あんまり響かなかったのか、反応はそんなになかったんだよね」
「作詞……! 兄さんってやっぱりすごいんだ……!」
「いや、だから……反響はなかったんだって。一曲しか書いてないし」
「いえいえ、一曲でも充分に才能ですよ」
そんな大したことのない些細な昔話でも、ジュヌは目を輝かせてソルセを見つめる。
「ま、まあそれはいいとして……ジュヌもちゃんと、考えてね」
「うん……どうしよう。俺いままで趣味も興味もなくて、……もう兄さんをアピールするしか――」
「本当に、それだけは勘弁して」
げんなりと答える。
その刹那ふと、ジュヌの机の上にカメラが載っているのが見えた。可愛らしいレトロなデザインのトイカメラだ。
「ねえ、ジュヌ。それは?」
「え? ああ、じいさんが持たせてくれたんです。貴重な経験を残しておけって。そういえば……まったく使ってないですね」
まあ、そんな時間もないですし……と、ジュヌはカメラを掴んで液晶画面をのぞき込む。なにも切り取っていないメモリーは、ただ暗闇を映し出した。
「……それにしてみたらどうかな。使ってるところ、おじいさんにも見せられるし」
「なるほど! 兄さん、さすがですね」
ちょっとしたことでジュヌは尊敬の眼差しを向けてくる。
「公園にでも行って、いろいろ撮ってみるか」
「うん。いいと思うよ」
「兄さんも行きませんか?」
「俺も? いやだって、なにするか考えないと。時間もないし」
「出かけたら、いいこと思い付くかもしれませんよ」
「……まあ、それも一理あるけど」
やや逡巡し、確かにと納得してしまった。
宿舎にこもって考えるのもいいが、場所を変えてみるのも悪くない。合宿期間は基本的に外へ出る機会がないが、今回の準備に限って自由行動が許可されている。もしなにかを思いついて、道具を揃えたいと思い立てばそのまま買い出しに行けばいい。
「分かったよ。一緒に行こう」
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