20 / 30
閑話:エンディング妖精
しおりを挟む「うーん……もう少し顔の角度を考えた方がよかったかな~」
食堂にてサラダをつつくベクギュが、タブレットの画面を見つめながら唸り声をあげる。
「どこの振りの話?」
そう問いながら、ソルセはベクギュの正面にトレイを置く。そんなソルセの隣にはもちろん、同じくトレイを運んでいたジュヌが座った。
「ああ、ソルセ。ううん、違うんだ」
ふるふる、とベクギュが首を振ると、淡い金に染められたふわふわのマッシュヘアが揺れる。そこには可愛らしいリボンやハート型をしたピンがランダムに差し込まれていた。
彼はいつだって……どんなに夜遅く寝て、朝早く起きても、動画配信者BGの姿を失わなかった。きちんとメイクをして、ヘアセットをして……いつどこでカメラを回されても、BGでありベクギュである彼は姿を崩さない。
「これ、この間のステージだけどさあ……」
ベクギュのタブレットは、先日の第一ミッションの披露ステージを映し出していた。
「うん。ベクギュのソロカメラ……チッケムだね」
「振りはさぁ、練習通りにできて後悔はそんなにないんだけど……ほら! 見て!」
番組のテーマソングが終わりを迎える。ひらひらとした紙吹雪が、桜の花びら或いは雪のように練習生たちの周りを舞う。
そうしてベクギュ専用のカメラは、パフォーマンスを終えたばかりの少年の顔をクローズアップしていく。呼吸を整えようと上下する肩、ダンスにより乱れたヘアセット。すると画面内のベクギュは、ころっと可愛らしい笑顔を浮かべて首を傾げる。
「ほら! ね!?」
「……ん? な、なに?」
『ほらね』という言葉がなにを指しているのか分からず、ソルセはいっそう画面に食らいついた。
「お前、まーだその話してんのかよ」
がちゃ、とやや雑に、ベクギュの隣にトレイが置かれる。彼と同室のドンウクだ。
「うるさいなあ、どーせ鈍感ドンウクにエンディング妖精の大切さなんて分からないよ!」
ドンウクから顔を背けるベクギュ。その言葉に、ソルセはなんとなく事情を察した。
「……兄さん」
「なに?」
隣で静かに海苔巻きを食べていたジュヌが、そっとソルセを呼ぶ。
「なんとか妖精ってなんですか?」
「……ああ。確か、アイドルのファンが作った言葉でね――」
「パフォーマンスの最後《エンディング》に、クローズアップされたアイドルが妖精みたいに美しかったり可愛かったりするから、エンディング妖精って言うんだよ。もー分かった? アイドル初心者さん」
ソルセの台詞を引き継いで、ベクギュが語る。
そうして、再び溜息をついた。
「はあ……エンディング妖精には自信があったんだよ。ボク、可愛いから」
「……そっか。ベクギュとしては、まだ合格ラインに届いてないって感じかな?」
「そ! さっすがソルセ! 次のミッションではもっともっと、ボクの魅力を出さないとね」
その確固たる自信がとても心地よい。
自信に満ちたベクギュが仲間であることが誇らしく、ソルセは小さく笑った。
「そういうモンかねえ」
ぽり、とドンウクのギザギザの歯がピクルスを齧る。
「……なるほど」
「どうしたの? ジュヌ」
ふと、隣のジュヌを見遣る。気付けば彼はタブレットを取り出していて……。
「いいですね。俺も見つけました、妖精」
「ちょっ……そんな改めて見ないで!」
画面に表示されるのはソルセのチッケム。
パフォーマンスを終えた彼は息を整えながら、頬の横に流れる銀髪をそっと耳にかけた。爽やかな表情に、妖艶な仕草。
それを瞳に反射させたジュヌはうっとりとしていたものの、不意に意識を引き戻される。
「よし! 鈍感ドンウク、エンディング妖精の練習しにいこ!」
「はあ!? なんで俺が……っておい!」
どたばたと、ドンウクとベクギュがテーブルを後にしていく。
「……まあでも、兄さんはいつだっておとぎ話の妖精みたいですけどね」
「なにそれ……」
「だって、妖精ってお話の主人公を導いたりもするじゃないですか」
――だから俺にとって、兄さんはアイドルへの道しるべをくれた妖精なんです。
そう笑ったジュヌの顔から、ソルセは不本意ながら目が離せなかった。
(だとしたら、君だって……)
言いかけた言葉を、飲み込みながら。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
旦那様、お仕置き、監禁
夜ト
BL
愛玩ペット販売店はなんと、孤児院だった。
まだ幼い子供が快感に耐えながら、ご主人様に・・・・。
色々な話あり、一話完結ぽく見てください
18禁です、18歳より下はみないでね。
公開凌辱される話まとめ
たみしげ
BL
BLすけべ小説です。
・性奴隷を飼う街
元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。
・玩具でアナルを焦らされる話
猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
物語なんかじゃない
mahiro
BL
あの日、俺は知った。
俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。
それから数百年後。
俺は転生し、ひとり旅に出ていた。
あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる