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閑話:エンディング妖精

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「うーん……もう少し顔の角度を考えた方がよかったかな~」

 食堂にてサラダをつつくベクギュが、タブレットの画面を見つめながら唸り声をあげる。

「どこの振りの話?」

 そう問いながら、ソルセはベクギュの正面にトレイを置く。そんなソルセの隣にはもちろん、同じくトレイを運んでいたジュヌが座った。

「ああ、ソルセ。ううん、違うんだ」

 ふるふる、とベクギュが首を振ると、淡い金に染められたふわふわのマッシュヘアが揺れる。そこには可愛らしいリボンやハート型をしたピンがランダムに差し込まれていた。
 彼はいつだって……どんなに夜遅く寝て、朝早く起きても、動画配信者BGの姿を失わなかった。きちんとメイクをして、ヘアセットをして……いつどこでカメラを回されても、BGでありベクギュである彼は姿を崩さない。

「これ、この間のステージだけどさあ……」

 ベクギュのタブレットは、先日の第一ミッションの披露ステージを映し出していた。

「うん。ベクギュのソロカメラ……チッケムだね」
「振りはさぁ、練習通りにできて後悔はそんなにないんだけど……ほら! 見て!」

 番組のテーマソングが終わりを迎える。ひらひらとした紙吹雪が、桜の花びら或いは雪のように練習生たちの周りを舞う。
 そうしてベクギュ専用のカメラは、パフォーマンスを終えたばかりの少年の顔をクローズアップしていく。呼吸を整えようと上下する肩、ダンスにより乱れたヘアセット。すると画面内のベクギュは、ころっと可愛らしい笑顔を浮かべて首を傾げる。

「ほら! ね!?」
「……ん? な、なに?」

 『ほらね』という言葉がなにを指しているのか分からず、ソルセはいっそう画面に食らいついた。

「お前、まーだその話してんのかよ」

 がちゃ、とやや雑に、ベクギュの隣にトレイが置かれる。彼と同室のドンウクだ。

「うるさいなあ、どーせ鈍感ドンウクにエンディング妖精の大切さなんて分からないよ!」

 ドンウクから顔を背けるベクギュ。その言葉に、ソルセはなんとなく事情を察した。

「……兄さん」
「なに?」

 隣で静かに海苔巻きを食べていたジュヌが、そっとソルセを呼ぶ。

「なんとか妖精ってなんですか?」
「……ああ。確か、アイドルのファンが作った言葉でね――」
「パフォーマンスの最後《エンディング》に、クローズアップされたアイドルが妖精みたいに美しかったり可愛かったりするから、エンディング妖精って言うんだよ。もー分かった? アイドル初心者さん」

 ソルセの台詞を引き継いで、ベクギュが語る。
 そうして、再び溜息をついた。

「はあ……エンディング妖精には自信があったんだよ。ボク、可愛いから」
「……そっか。ベクギュとしては、まだ合格ラインに届いてないって感じかな?」
「そ! さっすがソルセ! 次のミッションではもっともっと、ボクの魅力を出さないとね」

 その確固たる自信がとても心地よい。
 自信に満ちたベクギュが仲間であることが誇らしく、ソルセは小さく笑った。

「そういうモンかねえ」

 ぽり、とドンウクのギザギザの歯がピクルスを齧る。

「……なるほど」
「どうしたの? ジュヌ」

 ふと、隣のジュヌを見遣る。気付けば彼はタブレットを取り出していて……。

「いいですね。俺も見つけました、妖精」
「ちょっ……そんな改めて見ないで!」

 画面に表示されるのはソルセのチッケム。
 パフォーマンスを終えた彼は息を整えながら、頬の横に流れる銀髪をそっと耳にかけた。爽やかな表情に、妖艶な仕草。
 それを瞳に反射させたジュヌはうっとりとしていたものの、不意に意識を引き戻される。

「よし! 鈍感ドンウク、エンディング妖精の練習しにいこ!」
「はあ!? なんで俺が……っておい!」

 どたばたと、ドンウクとベクギュがテーブルを後にしていく。

「……まあでも、兄さんはいつだっておとぎ話の妖精みたいですけどね」
「なにそれ……」
「だって、妖精ってお話の主人公を導いたりもするじゃないですか」

 ――だから俺にとって、兄さんはアイドルへの道しるべをくれた妖精なんです。
 そう笑ったジュヌの顔から、ソルセは不本意ながら目が離せなかった。

(だとしたら、君だって……)

 言いかけた言葉を、飲み込みながら。
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