38 / 42
赤髪の花婿・12
しおりを挟む
「ああ、命に別状はなかったとはいえ、嫁入り前の体に傷一つでも残されたら……もう、どうにかなってしまいそうですわ……」
「……」
漣緋の声は聞こえる。聞こえてはいるが、赤伯の想いはどこか遠くへあった。
「太守様も、本日は朝からお疲れでしょう」
「いや……そんなこと……」
肝心の青明はいま、太守館に備えられている半地下の牢にいると、女官が話しているのを聞いた。
会いにいきたい。話をしたい。
が、漣緋がまるでそんな自分を見張るように見ている。
(どうして……こんなことに……)
赤伯の暗い顔を見て、漣緋は視線を伏せる。
「申し訳ございません。太守様のご友人に失礼でしたかしら……お茶をいれてまいりますわ。少々お待ちくださいね」
◆ ◆ ◆
しめった空気が流れ、錆びた鉄のにおいが漂う柵の中で、青明は静かに座っていた。
罪人としての連行と収容。
おそらく自分のしたことを考えるに、鞭か杖で叩かれたのち、故郷への送還だろう。
「……なんとも無様な……」
甘い夢を見ていた。心を溶かされて、これからは思うままに振る舞ってもいいかもしれないなんて、幼すぎる夢を。
努力をしてどうにかなる、そんなことばかりではないと知っていた筈なのに、どうして忘れてしまったのだろう。
(さっさと罰して、楽にしてほしいものです……)
内心で自嘲していると、牢の見張りが色めき立つ。
やがて、青明の入る牢へ足音が近づいた。こつこつと、場に不釣り合いなほど、心地よい木沓の音を鳴らす主は――
「……ここは、あなたのような女性がいらっしゃる場ではないですよ」
「青明様」
現れたのは青明が刃物を向けた相手とされる、翠佳だった。
左腕に包帯を巻き、安定のために首から下げた布で支えている。
「お怪我は、いかがですか?」
青明は彼女を見上げ、そう問いかける。
「……わたくしの、心配を……?」
「空気の悪いところにおられると、怪我に障りますから」
「……青明様。あなたは……すごい方です」
「え?」
相変わらずおっとりと優しい口調で話す翠佳だが、その瞳はなんらかの決意を下したように光った。
「本当に、太守様のことを……――愛してらっしゃるのね」
「……なに、を……?」
翠佳のその言葉は、背筋を撫でる冷ややかな指先のようだった。それほどまでに、青明に寒気を覚えさせた。
「初めてあなたを見た時に勘づきました。あなたは太守様に恋をしている……だから、傍にいらっしゃる」
「……」
漣緋の声は聞こえる。聞こえてはいるが、赤伯の想いはどこか遠くへあった。
「太守様も、本日は朝からお疲れでしょう」
「いや……そんなこと……」
肝心の青明はいま、太守館に備えられている半地下の牢にいると、女官が話しているのを聞いた。
会いにいきたい。話をしたい。
が、漣緋がまるでそんな自分を見張るように見ている。
(どうして……こんなことに……)
赤伯の暗い顔を見て、漣緋は視線を伏せる。
「申し訳ございません。太守様のご友人に失礼でしたかしら……お茶をいれてまいりますわ。少々お待ちくださいね」
◆ ◆ ◆
しめった空気が流れ、錆びた鉄のにおいが漂う柵の中で、青明は静かに座っていた。
罪人としての連行と収容。
おそらく自分のしたことを考えるに、鞭か杖で叩かれたのち、故郷への送還だろう。
「……なんとも無様な……」
甘い夢を見ていた。心を溶かされて、これからは思うままに振る舞ってもいいかもしれないなんて、幼すぎる夢を。
努力をしてどうにかなる、そんなことばかりではないと知っていた筈なのに、どうして忘れてしまったのだろう。
(さっさと罰して、楽にしてほしいものです……)
内心で自嘲していると、牢の見張りが色めき立つ。
やがて、青明の入る牢へ足音が近づいた。こつこつと、場に不釣り合いなほど、心地よい木沓の音を鳴らす主は――
「……ここは、あなたのような女性がいらっしゃる場ではないですよ」
「青明様」
現れたのは青明が刃物を向けた相手とされる、翠佳だった。
左腕に包帯を巻き、安定のために首から下げた布で支えている。
「お怪我は、いかがですか?」
青明は彼女を見上げ、そう問いかける。
「……わたくしの、心配を……?」
「空気の悪いところにおられると、怪我に障りますから」
「……青明様。あなたは……すごい方です」
「え?」
相変わらずおっとりと優しい口調で話す翠佳だが、その瞳はなんらかの決意を下したように光った。
「本当に、太守様のことを……――愛してらっしゃるのね」
「……なに、を……?」
翠佳のその言葉は、背筋を撫でる冷ややかな指先のようだった。それほどまでに、青明に寒気を覚えさせた。
「初めてあなたを見た時に勘づきました。あなたは太守様に恋をしている……だから、傍にいらっしゃる」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!
偏食の吸血鬼は人狼の血を好む
琥狗ハヤテ
BL
人類が未曽有の大災害により絶滅に瀕したとき救済の手を差し伸べたのは、不老不死として人間の文明の影で生きていた吸血鬼の一族だった。その現筆頭である吸血鬼の真祖・レオニス。彼は生き残った人類と協力し、長い時間をかけて文明の再建を果たした。
そして新たな世界を築き上げた頃、レオニスにはひとつ大きな悩みが生まれていた。
【吸血鬼であるのに、人の血にアレルギー反応を引き起こすということ】
そんな彼の前に、とても「美味しそうな」男が現れて―――…?!
【孤独でニヒルな(絶滅一歩手前)の人狼×紳士でちょっと天然(?)な吸血鬼】
◆閲覧ありがとうございます。小説投稿は初めてですがのんびりと完結まで書いてゆけたらと思います。「pixiv」にも同時連載中。
◆ダブル主人公・人狼と吸血鬼の一人称視点で交互に物語が進んでゆきます。
◆現在・毎日17時頃更新。
◆年齢制限の話数には(R)がつきます。ご注意ください。
◆未来、部分的に挿絵や漫画で描けたらなと考えています☺
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる