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左遷太守と不遜補佐・16
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「やー! 楽しいなあ! なあ、青明!」
馬を走らせる赤伯は本当に楽しそうに手綱をさばいている。
さすが元は武人見習いだ。太守の官服を翻しながら駆ける姿も、意外と様になっている。
一方、補佐の青明はこの突拍子もない行動に怪訝な表情を浮かべるしかなかった。
挙げ句、この馬はやや気性が強いのか、思う方向へうまく鼻を向けてくれない。
それは置いておくにしても、いくら都市下の支配地とはいえ、この近辺には旅人を襲う賊も潜んでいる。
まだ陽が高いからよいものの、この訳の分からない太守と共に死ぬことだけは避けたい。
「太守さま、どちらまで?」
「んー……」
騎乗で器用に簡易の地図を覗いている。
こっちかな。
村落から立ち上る生活の狼煙を縫って走り抜け、やがて広広とした地へと辿り着いた。
青明の大嫌いな雑草と称されるものが芽吹いている。
「とりあえずこの辺りでいいか」
赤伯は馬をおりると、近くの木に繋いだ。
青明も倣って馬を繋いでいると、太守は手慣れた様子で荷の中から敷き布を取り出し、地面へ広げた。そして。
「ちょっ、太守さま! なにを!」
……官服を脱ぎはじめたのだった。
「なにって、着替えだよ。今はお前しかいないんだから、威光云々はいいだろ」
そううそぶくと、すっかり訓練着を身に付けてしまった。敷き布に脱ぎ捨てられた官服をあさると、その中から朱雀の胸飾りを探しだし、不釣り合いの衣に留める。一応、その自覚はあるらしい。
「あ、ああ……もう、脱ぎ散らかして……」
小言は聞こえていなかったのか、赤伯は大地の上を駆け回り始めた。
青明は太守の官服を拾い上げ、敷き布にそろりと座ると、それらを丁寧に畳んだ。
座した脚に、布越しにも雑草の感覚が伝わって気分が悪かった。
「はあ……なにをお考えなのやら……おや」
ひとしきり周辺を駆けずり回った赤伯が馬の元へ戻ってきた。
なにをするのかと目で追っていると、荷にさしてきたくわを担いでまた走り出した。
「はあ……」
青明は溜め息をひとつ吐いて、埃が裾にまとわりつくことに嫌悪を覚えながら後を追った。
「よっ、と」
仮にも太守が、くわを振り上げざくざくと土をえぐっている。
「……慣れていらっしゃいますね」
「そりゃな。中間部の人間だって自力で土を耕すんだよ」
少しの範囲を解すと、赤伯は腹ばいになって露になった土をじっと見ている。
たまに拾い上げては意図的にこぼしてみたり、鼻を近付けたりと、青明にとって信じがたい動作だった。
「すごいぞ! 青明!」
「え?」
「こんなに肥えた土があるなんて! なあ、どうして地方民は……ってなんだよ、その顔」
「いえ……」
「いや、すげえ引いてるけど……まあいいや。こんなに広くていい土地があるのに、どうして使わないんだよ」
「……さあ」
「さあって……あ!」
――この都市を動かすのはあくまで太守さま。
がばっと立ち上がると、前面に付いた土が飛び散った。
「そうか、そうなんだ……!」
赤伯は青明をよそに、うわ言のように呟いた。
馬を走らせる赤伯は本当に楽しそうに手綱をさばいている。
さすが元は武人見習いだ。太守の官服を翻しながら駆ける姿も、意外と様になっている。
一方、補佐の青明はこの突拍子もない行動に怪訝な表情を浮かべるしかなかった。
挙げ句、この馬はやや気性が強いのか、思う方向へうまく鼻を向けてくれない。
それは置いておくにしても、いくら都市下の支配地とはいえ、この近辺には旅人を襲う賊も潜んでいる。
まだ陽が高いからよいものの、この訳の分からない太守と共に死ぬことだけは避けたい。
「太守さま、どちらまで?」
「んー……」
騎乗で器用に簡易の地図を覗いている。
こっちかな。
村落から立ち上る生活の狼煙を縫って走り抜け、やがて広広とした地へと辿り着いた。
青明の大嫌いな雑草と称されるものが芽吹いている。
「とりあえずこの辺りでいいか」
赤伯は馬をおりると、近くの木に繋いだ。
青明も倣って馬を繋いでいると、太守は手慣れた様子で荷の中から敷き布を取り出し、地面へ広げた。そして。
「ちょっ、太守さま! なにを!」
……官服を脱ぎはじめたのだった。
「なにって、着替えだよ。今はお前しかいないんだから、威光云々はいいだろ」
そううそぶくと、すっかり訓練着を身に付けてしまった。敷き布に脱ぎ捨てられた官服をあさると、その中から朱雀の胸飾りを探しだし、不釣り合いの衣に留める。一応、その自覚はあるらしい。
「あ、ああ……もう、脱ぎ散らかして……」
小言は聞こえていなかったのか、赤伯は大地の上を駆け回り始めた。
青明は太守の官服を拾い上げ、敷き布にそろりと座ると、それらを丁寧に畳んだ。
座した脚に、布越しにも雑草の感覚が伝わって気分が悪かった。
「はあ……なにをお考えなのやら……おや」
ひとしきり周辺を駆けずり回った赤伯が馬の元へ戻ってきた。
なにをするのかと目で追っていると、荷にさしてきたくわを担いでまた走り出した。
「はあ……」
青明は溜め息をひとつ吐いて、埃が裾にまとわりつくことに嫌悪を覚えながら後を追った。
「よっ、と」
仮にも太守が、くわを振り上げざくざくと土をえぐっている。
「……慣れていらっしゃいますね」
「そりゃな。中間部の人間だって自力で土を耕すんだよ」
少しの範囲を解すと、赤伯は腹ばいになって露になった土をじっと見ている。
たまに拾い上げては意図的にこぼしてみたり、鼻を近付けたりと、青明にとって信じがたい動作だった。
「すごいぞ! 青明!」
「え?」
「こんなに肥えた土があるなんて! なあ、どうして地方民は……ってなんだよ、その顔」
「いえ……」
「いや、すげえ引いてるけど……まあいいや。こんなに広くていい土地があるのに、どうして使わないんだよ」
「……さあ」
「さあって……あ!」
――この都市を動かすのはあくまで太守さま。
がばっと立ち上がると、前面に付いた土が飛び散った。
「そうか、そうなんだ……!」
赤伯は青明をよそに、うわ言のように呟いた。
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