もう、今更です

ねむたん

文字の大きさ
41 / 52
見捨てられた王子フェリクス

13

しおりを挟む
レオナール・ヴァルモン――それが、第二王子の名だった。

王家の血を引きながらも、彼の生い立ちは兄フェリクスとは大きく異なっていた。母は側室の出であり、王宮の中では王の後継とは見なされない立場だった。しかし、それが彼にとって幸運だったのかもしれない。

フェリクスのように幼い頃から「王となるべき者」として育てられることはなく、彼は比較的自由な教育を受けることができた。結果として、王家の伝統に縛られることなく、冷静な判断力と、情勢を見極める視野を育んでいた。

「やはり、彼のほうが王にふさわしいのでは?」

そんな声が、王宮のあちこちで囁かれるようになったのは、フェリクスが婚約破棄の騒動を起こした後だった。

レオナール自身は、もともと王位継承にはあまり関心がなかった。側室の子として生まれた時点で、王座が自分に巡ってくることなど考えたこともなかったからだ。だが、フェリクスが次第に精神を蝕まれ、貴族社会が自分を王として迎えようとする動きを見せるにつれ、彼は現実を受け入れざるを得なくなった。

「僕が王になることが、この国にとって最善だというのなら……応えよう」

そう静かに言った彼の姿を見て、貴族たちは「やはりこの方こそ」と確信したのだった。

そして、彼はカトリーヌ・ベルフォールに出会った。

もともと、彼女のことは知っていた。フェリクスの元婚約者として、王家に関わる立場にあった彼女の存在を知らぬ者はいない。しかし、実際に言葉を交わしたのは、王宮の重臣たちとの会議の場だった。

彼女は毅然とした態度で、フェリクスの王位継承を否定し、第二王子を支持する意義を説いた。

「レオナール殿下には、冷静な判断力と、国の未来を見据える目があります。王家の正統性よりも、国の安定を優先すべきではありませんか?」

その堂々たる言葉に、彼は思わず目を奪われた。

彼女の瞳には迷いがない。過去に王家に翻弄されながらも、なおも誇り高く立つ姿に、彼は胸の奥に妙な感情が芽生えるのを感じた。

「この人と並び立つことができたなら――」

だが、それは決して口にしてはならない感情だった。

彼女はかつて兄の婚約者だった。そして何より、彼女は王家のしがらみに囚われることなく、自らの意志で道を切り開こうとしている。

「僕が、彼女を王家に縛ることはできない」

そう分かっていながらも、彼は無意識のうちにカトリーヌの言葉に耳を傾け、彼女の意見を求めるようになっていた。

彼が王となる道が決まったとき、カトリーヌが傍にいることは、国にとっても大きな支えとなるだろう。

しかし――

彼個人として、ただ一人の男性として、カトリーヌを求めることは許されない。

彼は自らの恋心を静かに胸に閉じ込めた。

「カトリーヌ嬢、あなたが見据えた未来のために、僕はこの王座を引き受けましょう」

彼の声は静かだったが、その中には確かな決意が宿っていた。

それが彼の選んだ道。

国のための王であり続けること――そして、カトリーヌを想いながらも、決してその想いを口にしないこと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

あなたの破滅のはじまり

nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。 え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか? あなたを待っているのは破滅ですよ。 ※Ep.2 追加しました。 マルグリッタの魔女の血を色濃く受け継ぐ娘ヴィヴィアン。そんなヴィヴィアンの元に隣の大陸の王ジェハスより婚姻の話が舞い込む。 子爵の五男アレクに淡い恋心を抱くも、行き違いから失恋したと思い込んでいるヴィヴィアン。アレクのことが忘れられずにいたヴィヴィアンは婚姻話を断るつもりだったが、王命により強制的に婚姻させられてしまう。 だが、ジェハス王はゴールダー家の巨万の富が目的だった。王妃として迎えられたヴィヴィアンだったが、お飾りの王妃として扱われて冷遇される。しかも、ジェハスには側妃がすでに5人もいた。

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

処理中です...