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エドガーとセリーナが廃嫡を宣告されてから数日後、ローゼンハルト王宮での地位を完全に失った二人は、王宮の一角に用意された小さな部屋で生活していた。
かつて王太子夫妻として与えられていた豪華な居室はもはや彼らのものではなく、侍女や側近たちも去り、最低限の世話をする者しか残されていなかった。
エドガーは椅子に腰を下ろし、虚ろな目で窓の外を見つめていた。目の前にはかつての広大な庭園が広がっているが、そこに出ていくことは許されていない。セリーナは部屋の隅で苛立ち混じりに歩き回りながら、怒りの言葉を吐き続けていた。
「どうしてこんなことになったのよ!私たちは王太子夫妻だったのに、どうしてみんな私たちを裏切ったの?」
エドガーは彼女の言葉に応えることなく、ただ無言で座り続けた。彼の顔にはかつての自信や誇りは微塵も残っておらず、ただ茫然とした虚ろな表情だけが浮かんでいる。
「エドガー様!何とかしてくださいよ!あなたは王太子だったんですから、まだ何かできるはずでしょう!」
セリーナの声が怒りに震える中、エドガーはゆっくりと顔を上げた。その目には深い疲れと後悔の色が滲んでいた。
「もう終わったんだ、セリーナ……。僕たちは廃嫡された。それが現実だ」
その冷たく、力のない言葉に、セリーナは顔を引きつらせた。「そんなの信じないわ!彼らが間違っているのよ!あなたが王になれば、みんな私たちにひれ伏したはずなのに!」
「いや、違う……」エドガーは呟くように言った。「僕は……僕たちは間違っていたんだ。自分のことしか考えず、国のことを考えていなかった。それが全てだ」
その言葉にセリーナは目を見開いた。彼が自分たちの過ちを認めることに驚き、そしてそれが彼女自身の行動に対する否定とも受け取られたからだ。
「そんなの違うわ!私は間違っていない!私はただ、あなたを支えようとしただけ……」セリーナの声が震え始め、次第に涙が頬を伝い始めた。「こんなの嫌……私、こんな場所に閉じ込められるためにここに来たんじゃない……」
エドガーは何も言わず、ただ俯いたまま手の中で顔を覆った。彼には、これ以上セリーナを慰める言葉も、自分を弁護する力も残されていなかった。
その後、二人は正式に王宮から追放されることが決まり、ローゼンハルト王国の辺境にある小さな領地に送られることとなった。その領地は荒れ果てた土地で、まともな収入も見込めない場所だったが、彼らにはもう選択肢は残されていなかった。
追放の日、二人を乗せた馬車が王宮を出発したとき、宮廷の人々はその様子を遠巻きに見ていたが、誰も声をかける者はいなかった。その静けさが、かつての王太子夫妻が失ったものの大きさを物語っていた。
荒れ果てた領地に到着したエドガーとセリーナは、以前の贅沢な生活とはかけ離れた現実に直面した。屋敷と言っても古びた石造りの建物で、必要最低限の家具しかなく、使用人もほとんどいない。生活の基盤を築くには、自ら働く以外に手段はなかった。
セリーナはその現実を受け入れることができず、毎日のように不満を口にし続けた。「どうして私がこんなところで生活しなければならないの?私はもっと豪華な生活を送るはずだったのに!」
エドガーはそんな彼女を見ながら、ただ静かに作業を続ける日々だった。かつての地位と権力を失った彼は、今やただの一人の男として、最低限の生活を支えるために必死に働くしかなかった。
時間が経つにつれ、セリーナの不満はエドガーへの怒りに変わっていった。「あなたがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのよ!全部あなたのせいよ!」
彼女の言葉にエドガーは何も言い返さなかった。彼は全ての責任を自分に背負わせるようにして、ただ無言でその日を過ごすだけだった。
そして、彼らの生活は次第に孤立していった。セリーナの苛立ちは増し、エドガーの沈黙は深まるばかりだった。かつての輝かしい未来を夢見ていた二人が、今や見るのは、どこまでも続く荒れた大地と、取り返しのつかない過去だけだった。
彼らがこの先どう生きるか――それは、もはや誰も気に留める者はいなかった。二人の名は王宮でも、貴族社会でも語られることはなくなり、ただ歴史の片隅に消えゆく存在となっていった。
かつて王太子夫妻として与えられていた豪華な居室はもはや彼らのものではなく、侍女や側近たちも去り、最低限の世話をする者しか残されていなかった。
エドガーは椅子に腰を下ろし、虚ろな目で窓の外を見つめていた。目の前にはかつての広大な庭園が広がっているが、そこに出ていくことは許されていない。セリーナは部屋の隅で苛立ち混じりに歩き回りながら、怒りの言葉を吐き続けていた。
「どうしてこんなことになったのよ!私たちは王太子夫妻だったのに、どうしてみんな私たちを裏切ったの?」
エドガーは彼女の言葉に応えることなく、ただ無言で座り続けた。彼の顔にはかつての自信や誇りは微塵も残っておらず、ただ茫然とした虚ろな表情だけが浮かんでいる。
「エドガー様!何とかしてくださいよ!あなたは王太子だったんですから、まだ何かできるはずでしょう!」
セリーナの声が怒りに震える中、エドガーはゆっくりと顔を上げた。その目には深い疲れと後悔の色が滲んでいた。
「もう終わったんだ、セリーナ……。僕たちは廃嫡された。それが現実だ」
その冷たく、力のない言葉に、セリーナは顔を引きつらせた。「そんなの信じないわ!彼らが間違っているのよ!あなたが王になれば、みんな私たちにひれ伏したはずなのに!」
「いや、違う……」エドガーは呟くように言った。「僕は……僕たちは間違っていたんだ。自分のことしか考えず、国のことを考えていなかった。それが全てだ」
その言葉にセリーナは目を見開いた。彼が自分たちの過ちを認めることに驚き、そしてそれが彼女自身の行動に対する否定とも受け取られたからだ。
「そんなの違うわ!私は間違っていない!私はただ、あなたを支えようとしただけ……」セリーナの声が震え始め、次第に涙が頬を伝い始めた。「こんなの嫌……私、こんな場所に閉じ込められるためにここに来たんじゃない……」
エドガーは何も言わず、ただ俯いたまま手の中で顔を覆った。彼には、これ以上セリーナを慰める言葉も、自分を弁護する力も残されていなかった。
その後、二人は正式に王宮から追放されることが決まり、ローゼンハルト王国の辺境にある小さな領地に送られることとなった。その領地は荒れ果てた土地で、まともな収入も見込めない場所だったが、彼らにはもう選択肢は残されていなかった。
追放の日、二人を乗せた馬車が王宮を出発したとき、宮廷の人々はその様子を遠巻きに見ていたが、誰も声をかける者はいなかった。その静けさが、かつての王太子夫妻が失ったものの大きさを物語っていた。
荒れ果てた領地に到着したエドガーとセリーナは、以前の贅沢な生活とはかけ離れた現実に直面した。屋敷と言っても古びた石造りの建物で、必要最低限の家具しかなく、使用人もほとんどいない。生活の基盤を築くには、自ら働く以外に手段はなかった。
セリーナはその現実を受け入れることができず、毎日のように不満を口にし続けた。「どうして私がこんなところで生活しなければならないの?私はもっと豪華な生活を送るはずだったのに!」
エドガーはそんな彼女を見ながら、ただ静かに作業を続ける日々だった。かつての地位と権力を失った彼は、今やただの一人の男として、最低限の生活を支えるために必死に働くしかなかった。
時間が経つにつれ、セリーナの不満はエドガーへの怒りに変わっていった。「あなたがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのよ!全部あなたのせいよ!」
彼女の言葉にエドガーは何も言い返さなかった。彼は全ての責任を自分に背負わせるようにして、ただ無言でその日を過ごすだけだった。
そして、彼らの生活は次第に孤立していった。セリーナの苛立ちは増し、エドガーの沈黙は深まるばかりだった。かつての輝かしい未来を夢見ていた二人が、今や見るのは、どこまでも続く荒れた大地と、取り返しのつかない過去だけだった。
彼らがこの先どう生きるか――それは、もはや誰も気に留める者はいなかった。二人の名は王宮でも、貴族社会でも語られることはなくなり、ただ歴史の片隅に消えゆく存在となっていった。
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