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自宅周辺の探索と生活の工夫
しおりを挟む知恵の木との出会いから数日後。紬は自宅周りの環境をしっかり把握しようと、朝早くから家の周囲を歩き回っていた。
「ここが私の新しい家なんだし、まずは足元を固めないとね。」紬はそう呟きながら、ノートとペンを手に、自宅の敷地や森の様子をスケッチしていく。
庭には元々あった小さな家庭菜園の跡があり、そこには見慣れない植物が芽を出していた。おそらく、この世界特有の作物だろう。
「これ、食べられるのかな……?」紬がじっと植物を眺めていると、アクアがふわりと浮かんで近づいてきた。
「それは『ブルームリーフ』だよ。この森ではよく見かける植物だけど、葉っぱを煮るとスープにするとおいしいんだ。」
「へえ、そうなんだ!」紬はメモを取りながら笑顔を見せた。「じゃあ、今度試してみようかな。」
「水が必要なら任せてね!」アクアが軽く胸を張るような仕草をしてみせる。「この森の水は私の管轄だから!」
紬は感謝の気持ちを込めて頷いた。「ありがとう、アクア。これで家庭菜園がもっと楽しくなりそう。」
午後、紬は家の裏手に回り、小さな物置を開けてみた。そこには、錆びついた工具や使いかけの木材、そしてまだ使えそうなキャンプ用具がいくつか見つかった。
「おお、これは使えるかも!」紬は工具を手に取り、鼻歌を歌いながら整理を始めた。ファイアが興味津々で工具箱を覗き込む。
「なあ、これで何するんだ?なんか面白いことできそうだよな!」
「そうだね、まずはフェンスを修理しておこうかな。この辺、夜になると野生動物も出てくるみたいだから。」
「よーし、手伝ってやる!」フレアは元気よく飛び回りながら、工具を浮かせて紬に渡していく。
「ありがとう、助かるよ!」紬は嬉しそうに笑い、修理作業を始めた。
夕方になる頃には、庭のフェンスがしっかりと補強され、家庭菜園には水が行き渡るような簡易的な水路が完成していた。紬は額の汗を拭いながら、出来上がった景色を満足げに眺める。
「よし、これでひとまず安心して暮らせる!」
「紬ちゃん、これからはもっとやれることが増えていくね!」レイがキラキラと輝きながら楽しそうに言う。
「うん。でも無理しないで、少しずつやっていこう。」紬は微笑んで答えた。「まずはここを、私たちの“拠点”にするんだ。」
その夜。紬は家庭菜園から収穫した葉野菜と、アクアが用意してくれた川魚を使って簡単なスープを作った。香り豊かなスープに、妖精たちも興味津々だ。
「これ、おいしい!」フレアが嬉しそうに光を弾ませる。「こんなにうまいもの、初めてだぜ!」
「この森にはまだたくさん食材があるよ。」アクアが笑いながら言う。「紬ちゃんが料理してくれるなら、もっと楽しみだね。」
紬は笑顔で頷いた。「うん、この森で取れるものを使って、いろんな料理を作ってみたいな。」
こうして、紬の自宅を拠点とした生活が、少しずつ充実していった。森の妖精たちと共に過ごす日々は、新しい発見と喜びで満ちていた。
ある日の昼下がり。日差しが木々の間を縫って降り注ぎ、風に乗って葉がさらさらと揺れる音が心地よい。紬は庭の家庭菜園に新しい野菜の種を植えていた。アクアが魔法で用意してくれたきれいな水を、そっと土にかける。
「よし、これで少ししたら芽が出るかな。」紬は顔を上げ、鼻歌を口ずさみながら作業を続けていた。
そのとき——
「た、たすけてくれ……!」
か細い声が遠くから聞こえてきた。
紬はハッと顔を上げる。「え?今、誰かの声が……?」
「確かに聞こえたね!」レイが浮かび上がり、周囲をきょろきょろと見渡す。「あっちのほうだよ!」
紬は手を止めて声のした方に走り出した。妖精たちもそれぞれの特技を活かして彼女に同行する。アクアが足元の小川をたどり、フレアが灌木の間を焼き切りながら進む。
やがて、倒木の陰に倒れ込むように座り込んでいる青年を見つけた。全身が泥と傷だらけで、ボロボロのマントをまとっている。
「だ、大丈夫ですか!?」紬は駆け寄り、青年の肩に手を置いた。
「水……」かすれた声で青年が呟く。
「アクア!」紬が呼びかけると、水の妖精がふわりと近づいてきた。「はい、どうぞ!」と、手のひらに小さな水球を作り、青年の口元に差し出す。
青年はそれを飲み干し、少しだけ顔色を取り戻した。「た、助かった……ありがとう……」
「しっかりして!」紬は彼を支えながら、自宅に戻ることを決めた。「ひとまず私の家で休んでください!」
自宅に戻ると、紬は青年をリビングのソファに寝かせ、手当てを始めた。インターネットで調べた応急処置の方法を参考に、彼の傷をきれいに洗い、包帯を巻く。
「ふぅ、これでひと安心かな。」紬は頬の汗を拭いながら呟いた。
「ありがとう、本当に助かった……」青年はゆっくりと上体を起こし、自分を助けてくれた少女をじっと見つめた。「君は、こんな森の中で一人で暮らしているのか?」
「うん。まぁ、一人……っていうか、この子たちがいるけどね。」紬は微笑みながらレイたちを指さした。妖精たちは興味津々で青年を見ていた。
「君たち……精霊なのか?」青年は目を丸くして声を震わせた。「こんな小さな子たちが……信じられない。」
「君は?」紬は軽く首をかしげる。「森の中で倒れてたけど、何があったの?」
青年は少しだけ表情を曇らせたが、正直に答えた。「僕の名前はライル。冒険者をしているんだけど、この森に迷い込んでしまってね。気づけば道に迷って、食料も尽きて……もうダメかと思ったよ。」
「ライルさんか……ひとまず、ここで休んでいって。」紬は優しく笑った。「それにしても、冒険者ってなんだかすごそうだね。」
「いや、まだまだ駆け出しでね。」ライルは苦笑しながら肩をすくめた。「でも、この世界に来て初めて親切にしてもらった気がするよ。」
その言葉に、紬は少し驚いた。「この世界に来て……?それって、もしかして……」
「君も異世界から来たのか?」ライルは瞳を輝かせた。
「そうだよ。」紬は頷き、少し不思議な気持ちで微笑んだ。「じゃあ、私たち似た者同士だね。」
こうして、紬とライルの出会いが始まった。この出来事は、彼女の拠点がただの家ではなく、多くの人が集う「居場所」へと変わっていく最初の一歩だった。
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