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海の向こうへ
第六話 蒼穹の旅団、山脈の向こうへ
しおりを挟む私はしばらくこの国で商売を続けるつもりだった。米も手に入れ、醤油に味噌、昆布、納豆にいたるまで、私が求めていた調味料がすべて揃った。もはや、これ以上の贅沢はないと思っていた。美味しい料理を毎日楽しんで、まるで夢のような日々だ。そんな気持ちが深まるばかりで、私はこの国から動きたくないと思っていた。
けれど、そんな私を見かねたのはカリムだった。彼が真剣な眼差しで私に言った。
「アリアス、君は確かにここで幸せそうだ。でも、次に進まなければいけない時が来るんだ。」
彼は黙って私を見つめ、続けた。
「東龍の王都には、もっと多くの食材や、君が探し求めているものがあるかもしれない。それに、君が思っている以上に大きな冒険が待っているんだ。僕たちには、あの山脈を越えた先で待っている何かがある。君だって、わかってるだろ?」
彼の言葉は、私の心にずしりと響いた。そう、確かにここにはもう、私は欲しいものがほとんど揃ってしまった。でも、まだこの世界には知らないことがたくさんあるはずだ。東龍の王都、その先の未知の地で何が待っているのか、どうしても気になった。
「でも、今はここで十分じゃないの?」と私は反論したけれど、カリムは穏やかな笑みを浮かべて言った。
「そうだね。でも、君はもっと大きな世界を見たいはずだ。自分が本当に求めているものを、どこかで見つけるために。」
私はしばらく黙って考えた。確かに、ここで満足するだけでは、私の冒険が終わってしまう気がした。カリムの言う通り、きっと私の求める新しい世界が東龍の王都には広がっているに違いない。
そして、ついに私は決心した。
「わかったわ、行こう。東龍の王都へ。」
その言葉に、カリムは嬉しそうに頷いた。
「ありがとう、アリアス。」
その後、私たちは馬車の準備を整え、すぐにでも出発できるようにと旅支度を始めた。
私は大きな袋を引きずりながら、次々と食材を馬車に詰め込んでいた。米、醤油、味噌、昆布、納豆、そしてもちろん、保冷箱には収まりきれない分の魚介類に、たくさんの調味料。私はこれらを全て持っていこうと決めていた。だって、どれも日本食には欠かせないものばかりだし、これがないとどうしても安心できない。
「ちょっと待って、アリアス。」カリムが息を切らしてやってきた。「これ、全部持っていくつもり?」
「もちろん!」私は力強く答える。荷台に乗せた袋の山を見て、思わずにんまりしてしまった。「だって、この食材があれば、どこでもおいしいご飯が作れるんだから。」
カリムは肩をすくめ、困った顔で私を見た。「でも、これ全部をこの馬車に詰め込むのは無理だろう。馬の背中がもうギシギシ言ってるぞ?」
「大丈夫、大丈夫!馬だって慣れてるわよ!」私は笑いながら袋をさらに押し込む。カリムは渋い顔をしながらも、しばらくその光景を眺めていた。
そのとき、ザイドが歩いてきて、私の横に立った。「アリアス、君はどれだけ食材を積むつもりなんだ?」
「これがないと、東龍の王都に行っても料理が作れないでしょ!」私は胸を張って答える。
「いや、でも…」ザイドは困った顔で見回しながら、言葉を選ぶように続けた。「こんなに積んでいったら、他の荷物が入らなくなくなるぞ。」
レイラがその横で手を振って言った。「それに、塊で買ってきたお肉を積むスペースも確保しないと!私、カリムの分まで食べちゃうから!」
その言葉にみんなが一斉に笑い出した。カリムは冗談めかして顔をしかめ、「おい、あれは僕の分だぞ、レイラ!」
私はそのやりとりを見て、一瞬手を止めて考えた。確かに、食材を積み込みすぎて馬車が圧倒されてしまうのも問題かもしれない。
「そうね…でも、どうしても持っていきたいの。これさえあれば、どんな困難な状況でも、絶対においしいご飯を作れる自信があるから!」
カリムは一度ため息をついてから、顔をしかめた。「わかったよ。でも、あまり無理しないようにな。食材が飛んできたら、僕たちが危ないからな。」
「もちろん!安全第一よ!」私は大きな声で答え、さらに袋を馬車の隙間に押し込んだ。カリムはまた溜め息をつきながら、荷台の重さを気にして見守っていた。
そのとき、レイラがふっと何かを思い出したように言った。「そういえば、アリアス、納豆はどうするの?」
「納豆はもちろん、しっかり持っていくわ!」私は自信満々に答えると、レイラがちょっと引きつった顔で言った。
「だって、あの…あの見た目と匂いが…どうしてもダメな人もいるじゃん?」
「だからこそ持っていくのよ!」私はにっこりと笑いながら、納豆のパックを取り出し、馬車に詰め込む。「これをどこでも作れるようにすれば、何より自分が幸せになるし、周りにも幸せを分けられるから!」
ザイドが肩をすくめながら言った。「じゃあ、俺たちは納豆料理に付き合う覚悟を決めておかないとな。」
カリムが苦笑しながら言った。「ああ、納豆チャーハンや納豆カレーが、これからの冒険の定番料理になりそうだな。」
私たちはみんな笑いながら、最後の荷物を馬車に詰め込んだ。どんなに食材が多くても、心配は無用。私にはこれらの食材で、どんな冒険でも乗り越えられる料理を作る自信がある。
旅路の途中、私たちは馬車で移動を続けていた。道は広いとは言えず、砂ぼこりが舞い上がることもしばしば。しかし、それでも私は楽しんでいた。カリムが運転する馬車の後ろに、ザイドとレイラがそれぞれ乗っている。時折、彼らと軽口を叩きながら、目の前に広がる荒野の風景を楽しんでいた。
途中、昼食の時間になった。私はバッグから小さな包みを取り出すと、それをみんなに差し出した。中身は、おにぎり。日本の味を思い出しながら作ったものだ。
「ほら、これ、おにぎりだよ」と私は言いながら、一つを手に取る。
「お、これは珍しいな」とカリムが目を輝かせて言った。「でも、どうやって食べるんだ?」
「手で握るんだよ。お米と塩だけで作ったから、シンプルで美味しいよ」と私は説明した。
ザイドとレイラも興味津々でそれぞれおにぎりを手に取った。最初は少し戸惑いながらも、やがて慣れた手つきで一口、また一口と食べていく。
「おいしい!」レイラがにっこりと笑いながら言った。「塩味がしっかりしてるけど、なんだか懐かしい味だね。」
「たしかに、シンプルなのに味わい深いな」とザイドも納得の表情を浮かべていた。
「日本の食文化って、本当に素晴らしいんだよ」と私は胸を張って言った。「特におにぎりは、どこでも作れるから便利なんだ。」
カリムが少し考え込みながらも、「こういうシンプルな料理って、何か落ち着くな。旅にはぴったりだ」と言った。
みんながその場で和気藹々とおにぎりを食べ終わると、私は少し嬉しそうに微笑んだ。この食文化をみんなと分かち合えることが、私にとっての幸せの一つだ。
「次は、何を作るの?」レイラがわくわくと聞いてきた。
「お外でのご飯といえば、豚汁かな」と私は考えながら答えた。「今度はみんなにも手伝ってもらおう。」
「よし、楽しみにしてる!」とカリムが笑顔で言った。
こうして、馬車での旅は続いていった。道中、いろんなことを学びながら、少しずつ仲間たちとの絆も深まっていった。
泉に着いた私たちは、馬車を止め、まずは水浴びをすることに決めた。透き通った水がゆったりと流れ、涼しい風が吹いている。少し汗をかいていたし、ちょうどいい機会だと思った。
「これなら、さっぱりできるね。」レイラが嬉しそうに言う。
「うん、すごく気持ち良さそう!」私は応え、泉の水を見てうっとりした。
「よし、男女分けて交代で入ろう。」ザイドが真面目な顔で言った。
「そうだな。」カリムも頷き、少し照れくさそうに言う。「じゃあ、最初はアリアスとレイラで、次は俺とザイドな。」
私とレイラは先に水浴びをすることになり、少し恥ずかしがりながらも、泉に足を踏み入れた。冷たい水が肌を包み、心地よく感じる。
「わぁ、気持ちいい!」レイラが笑顔で水の中を歩きながら言った。
「ほんと、すごくさっぱりするね。」私も顔を洗いながら、つい声を上げた。
その後、カリムとザイドが交代して泉に入ると、リラックスした様子で水を楽しんでいた。私たちはその間、馬車の近くで荷物を整理したり、おしゃべりをしたりして過ごす。
少しの間、穏やかな時間が流れ、みんなが元気を取り戻したところで、再び旅路を進めることにした。水浴びでリフレッシュした後、次の目的地に向かって、再び馬車に乗り込んだ。
「次の休憩地点ではタケノコも探そうな!」カリムが目を輝かせて言う。
「うん、楽しみだね!」レイラも賛成して、みんなで笑顔を交わしながら、旅を再開した。
旅の途中、私たちは道沿いの小さな草むらで一息つくことにした。今日は少し疲れが出ていたけれど、少しだけ休憩を入れるのがちょうどいい。
私は豚肉と野菜を持ってきて、早速豚汁を作り始める。食べることが一番の楽しみだから、こういう時にこそ、少し手間をかけた料理を作りたくなる。鍋に水を注ぎ、豚肉を入れ、湯気が立ち上がるのを待ちながら、周りを見渡すと、カリムとザイドが馬の世話をしていた。カリムは馬のたてがみをとかしながら、時折穏やかな声で話しかけている。ザイドは馬の足元をきれいにして、頑丈な鞍を調整している様子だ。
レイラは私の隣で、食材の準備を手伝ってくれる。「アリアス、ちゃんと火加減に気をつけてね。焦げないように」と、しっかりした声で言う。その通り、火の加減は重要だから、しっかり見守りながら、私も鍋の中をかき混ぜ続ける。
そのうち、豚汁の匂いが辺りに広がり、ザイドが顔を上げて言った。「いい香りだな、もうすぐ食べられるのか?」
「もう少しでできるよ。待っててね」と私は答える。
カリムが微笑みながら馬に手を添え、「君の作る料理はいつも楽しみだ」と言ってくれる。少し照れくさいけれど、やっぱり嬉しい。
レイラは馬の世話を終えて、私の手伝いをしてくれる。「じゃあ、お椀を準備しておくね!」と言って、さっさと用意を整えてくれる。
それぞれが自分の役割をこなしながら、私の豚汁はじっくりと煮込まれ、あたたかい食事が私たちを待っている。
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