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39 アーサーは語りたい
しおりを挟むアーサーは猫と化した私を抱き上げ、そしてすっと呼吸をして声をあげた。
「みんな。――俺は、猫が好きだ!」
「……!?」
「ふわふわの毛が好きだ、滑らかな毛が好きだ、揺れる尻尾も威嚇で膨らむ尻尾も愛らしいと思う。液体のようにとろける猫も、鞄の中に入るのを拒んで身を固くする猫も、すべて同様に愛おしいと思っている。……自分は幼い頃、災厄に対抗する為に神と契約をした事で猫と触れ合えない体質になってしまった。役目の為なら仕方ないと自分に言い聞かせていたが、内心では辛いと思っていた!」
突然奇妙な告白を初めたアーサーに、観衆がざわつく。それは猫に対するものだけでなく、神との契約の話に対する反応も含んでいた。
アーサーの後ろには、アーサーの兄弟や使用人達もいて、落ち着いた様子で演説を聞いている。……どうやら、何を話すかは相談済のようだ。
「……皆。今までは王家の威信を高めるため、わざと内情は秘匿していた。だが、今一度思う。そのやり方は、間違っていたのかもしれない。グランドリーの企みが長い事露見しなかったのも、王家の活動を秘匿しようとするやり方が関係しているだろうから。だから、これからは王家のやり方を変えていきたい。まずは――皆に俺の事について知って欲しい」
「アーサー様のことを……?」
「俺は――今までは災厄を祓う役目を全うする為に、他のものは切り捨てようとしてきた。だが――俺は好きなものも、大事にしたいものも沢山ある。ミーシャは俺が自ら王宮に呼んだ女性だ。彼女には、今まで猫に触れられない俺に協力してもらっていた。そして、これからも共に歩んでもらおうと思っている」
「――そんな!」
アーサーの演説を受けて、リズリーが悲鳴を上げた。そして、アーサーに向かって声を張り上げる。
「……アーサー様!それは、ミーシャ様をこれからも王宮に置くということですか。ですが、身分が確かで無い上に騒ぎを起こした者を王宮に置くなど、前例の無い事です。それに、動物を王宮に置いたら大変な事になると今回の事で皆思い知ったのではないですか。貴方自身の地位もどうなるかわかりませんわよ!」
「いや」
リズリーの進言に、アーサーはゆっくりと首を振った。
「……確かに、前例の無い事かもしれない。だが、前例が無いならば作ってしまえばいい。そもそも、災厄に対する力を得るために神と契約をするというのも、王家で最初にそれを初めた人間がいたからこそだ。新しい事を始めるのは悪い事ではない。それについての批判は俺が受ける事にしよう」
「……、そんな……」
「リズリー。これは君に対しても悪い話では無い筈だ。わかってくれるか」
アーサーの言葉に、リズリーは唇を噛んで後ずさった。
……アーサーはリズリーの事も庇おうとしているのだ。フォンテーヌ家はこれから厳しい状況に置かれるだろうが、それでも身綺麗でない者も王宮にいてもいいという前例があれば、リズリーに対する風当たりも減るだろう。
アーサーは私をちらりと見つめ、そして観衆に向き直って宣言した。
「ミーシャ・アルストロイア。彼女は国宝を破壊するという罪を犯した者であり、これからも償う義務がある。そして、それは俺も共に償うべき事だ。よって――ここに宣言する。ミーシャ・アルストロイアに懲役を言い渡し、王宮で国家の為に奉仕する事を命ずる!」
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