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38 断罪
しおりを挟む着いた場所は、王宮の演説に使うバルコニーだった。バルコニーの下には多くの人間がいて、各々の声でざわついている。今までの諸々から判断すると、アーサーがここに人を集めたのだろう。
「……よし、集まったようだな。皆、聞いてくれ!」
バルコニーの最前列に立ったアーサーが高らかに声をあげた。
「まず、皆。此度の災厄の討伐が無事に終わった事、礼を言わせて欲しい。まだまだ災厄の処理は続けなければいけないが、今まで通りの処置をすればあと一週間以内には終わるだろう。人民の暮らしは皆の働きによって成り立っている。これまでも、これからもよろしく頼む。そして……、……王宮の中で騒ぎがあった事についてだが……」
私は息を飲み、アーサーの処断を待った。
――だが、次の瞬間、意外な人物がアーサーの隣に現れる。
「……グランドリー様……?」
王宮の衛士に身柄を確保されたグランドリー・フォンテーヌが前に立たされた。以前に舞踏会で会った時は優雅な服装と所作をしていたが、今の彼は憔悴しているように見える。
そして、グランドリーの近くにはぼろぼろの国旗が掲げられている。
私が猫として暴れている時に引き裂いた国旗だ。
……どうしてグランドリーが今呼ばれているのだろう?
あの場所にあるものはフォンテーヌ家が出資して王家に収めたものだと話を聞いた。グランドリーを呼んだのも収めたものが破壊されたと説明をするためだろうか。
だとしたら、次に名前を呼ばれるのは私だ。
私はいよいよ身を固くする。
が、続くアーサーの言葉は予想外のものだった。
「……何故この国旗が破壊されたかは後で説明しよう。今はこの国旗についてわかった事実を公表したい。王家はこの国旗は展示用のものだという認識でフォンテーヌ家から受け取った。だが、中には魔力を弱める術式が編まれている事が発覚した」
「なんですって……!?」
「なんだって!?」
アーサーの発表を聞いて、観衆がざわつく。私も予想外の発表に身を固くしていた。
……魔力を弱める術式?
そういえば、以前クロードが言っていた。ここの王宮は侵入を妨げる魔法がかけられているが、一部分で弱い箇所があって、そこを突いたのだと。
基本的に、王宮では魔法が多用される事は無い。儀式を行う際も道具で進めていく事が殆どで、魔法を用いるような事はあまり無い。
王宮の中で最も魔力に重きを置いているのは、討伐の為に大量に魔力を消費するアーサーだ。
……という事は、アーサーを狙い打ちしてあんな国旗を収めたという事か……?
壇上で話し続けるアーサーは、私と同じ考えを話した。
「この国旗の術式は、魔力を多く持つものに対して効果があるものだという。……この王宮では魔力を大量消費する魔法は普段は使われていない。だから、俺を狙ったものなのだろう。災厄に対抗する魔力を減らす事で、王家は軍の力に頼らざるを得なくなる。そこにフォンテーヌ家が出資したらフォンテーヌ家の発言力は更に増す。それを狙ったのだろう」
「そ、それは……国家に対する反逆なのではないですか!?」
「そうだそうだー!」
「グランドリーは投獄だ!フォンテーヌ家は全て王宮から追放しろ!」
「ちょっと待ってくださいまし!」
悲痛な声を上げたのは、観衆の中にいたリズリーだ。
リズリーは必死に観衆を掻き分け、前列に行ってアーサーに声をあげる。
「……アーサー様!先程から言われている事は真実なのですか!?お父様を陥れようとして虚言を言っているのでは……」
「リズリー・フォンテーヌだ……」
「リズリーもフォンテーヌ家のやり方を知っていて黙っていたんじゃないか!?」
アーサーに問いかけるリズリーに、観衆からの声が飛ぶ。自らを責める声に怯むリズリーをちらりと見やって、アーサーは観衆達に一旦静まるように指示し、そして再び口を開いた。
「――皆。落ち着いて聞いて欲しい。今回問題になった国旗は二十年以上前に王家に収められたものだ。つまり、リズリーが生まれる前に為された事だ。彼女がこの件に関与しているというのは考えにくい。後日にグランドリー共々フォンテーヌ家は調査するが、その時にリズリーの周りに何も出てこなければ、彼女はこれまで通りの生活を送ってもらう――それが王家としての見解だ」
アーサーの語りを聞いて、私は何故アーサーが人を呼んでグランドリーが犯人だとはっきり言ったのかを何となく理解した。
人が集まる所では悪い噂は止められないものだ。処罰対象がグランドリーである事が広まれば、必然的に家族であるリズリーも処断しないのかと厳しい目が向けられるものだろう。だからこの場で一気にリズリーへの対応も知らしめようとしたんだ。
一息ついたアーサーが、こちらをちらりと見て、そして口を開いた。
「そして、この事態を引き起こした者は――ミーシャ・アルトロイア。彼女をここに呼んでいる。ミーシャ、こちらに来てくれ」
アーサーに名前を呼ばれ、傍らのハイネさんに肩を叩かれる。私は震える足でアーサーの隣に立った。
「彼女――ミーシャ・アルストロイアは俺が王宮に呼び寄せた人材だ。俺のカウンセリングを担当してくれている。ミーシャはこれまでよく働いて、俺を支えてくれていた。そして――紆余曲折あって――ミーシャは猫になった」
「…………」
「猫?」
「で……殿下!?」
「アーサー様!?何を言っておられるのですか!?」
観衆の言葉に、私はアーサーの隣で内心だらだらと汗を流している。
アーサーは私の想像よりも直球で内情を説明している。そのせいか、観衆たちは皆困惑しているようだった。そりゃそうだ。私だって話だけ聞いたら何が何だかわからない。
アーサーは私の耳元に近づき、そして囁いた。
「ミーシャ。今も変身は出来るだろうか?……今、してみてくれ」
「は、はい……」
「おお……」
「あれは!?」
「手品なのか?いや、確かにこの目で……」
アーサーの言葉に従って変身した後、再び観衆たちはざわつく。
目の前で人間が猫になったのだから、その反応になるのも無理は無かった。
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