上 下
5 / 9

#05 街中デート

しおりを挟む




 エリーははしゃぎ通しだった。「約束したでしょ?」とリヒトの服を持ちきれないくらい買って、夫にも「これ似合いそう」と目についたものを片っ端から見立てて、「あれが食べたい」「こっちのお店も見たい」とリヒトとエドを連れ回した。
 エドはニコニコしながら妻に付き合っていた。

(俺いるか……?)

 猫頭の皇帝は、はしゃぐ妻が可愛くて仕方がないようだった。自分が妻に贈り物をされると「君の帽子も買おうね」と贈り返して、エリーは夫に見立ててもらうと本当に嬉しそうだった。
 年が離れてても極めて仲の良い夫婦そのもので、自分はいなくていいどころか、邪魔してるんじゃないかとリヒトは思った。

「リヒト、お手洗い行ってくるから、エドと待ってて?」
「はいはい」

 頷いたら、夫の前で彼女にキスされた。

「黙っていなくならないでね?」

 小首をかしげてお願いされて、「ワカッタ」と頷くしかなかった。

「リジー、私には?」
「あなたも待ってて」

 催促する夫にもエリーはキスして、小走りでショッピングモールのトイレへ行った。

(な、何考えてるのかさっぱりわかんねぇ……)

 荷物を横に、ぐったりとベンチに座るとエドに「疲れたかね?」と心配された。

「リジーが戻って来たら帰ろう。今日は他にもすることがあるし、これだけ買ったら彼女も満足だろう」
(することって……3P?)

 いろいろ聞きたいことはあるのだが、人の耳があるところでは聞けなかった。



 エリーが戻ると軌道エレベーターで国際宇宙港へ向かった。リヒトには初めての経験で、地球が足元で遠ざかっていくのは何とも言えない感動があった。

「リヒト、あれが私のグリンパレス」

 リヒトの腕に抱きつきながら、エリーが駐機場に停泊している中型の宇宙船を指した。
 子ガメの乗ったカメのようなデザインで、間違いなく駐機場でもっとも洗練された宇宙船だった。船というより、まるで宮殿のようだ。

「そしてあれが、私の移動行政府、アイアンガレスだ」

 エドが指さした巨大な艦体を、言われるまでリヒトは宇宙港の一部だと思っていた。宇宙港のメインの建物よりずっと大きく、さながら移動する巨大都市だった。

「大騒ぎになってない? あなたは顔を隠せても、あれは隠せないでしょ?」
「地球政府は大騒ぎだろうね。あれが本気を出せば、地球はニ時間で壊滅する」

 猫頭は微笑んでエリーにキスした。

「まあでも、妻に会いたかったから仕方ない」

 嬉しそうに笑って、エリーも夫にキスを返す。夫婦にいちゃつかれて、リヒトは居場所がなかった。

(ああ、クソ。帰りてぇな……)

 帰る場所があるんだろうか。地球のアパートはガイが用意したものだ。弁護士に訴えられたと知ったら、ガイに何をされるかわからない。

「リヒト、心配事?」

 エリーに尋ねられ、リヒトは誤魔化した。

「いろいろ……スケールがでかすぎて、ついていけない」
「何も心配しなくていいわ。あなたのことは私達が守るから」

 抱きしめられて、リヒトはエリーにキスされた。夫にしたからあなたにも、とばかりに甘いキスをたっぷりされて、リヒトはエドを盗み見た。
 子犬と戯れる妻を見るように、彼女の夫はニコニコとエリーとリヒトがいちゃつくのを見ていた。

(やっぱ寝取られ好きなのか……?)

 試しにエリーを抱きしめて、舌を入れてもエドの反応は変わらなかった。だが彼女の胸を揉んで、乳首をいじるとさすがに止められた。

「そこまで。続きは部屋でしよう。我慢できるね、リジー?」

 目をとろけさせて、頬を上気させたエリーは頷いた。夫の前で他の男になぶられて、感じている彼女を見るとすごく興奮した。
 エドが何を考えているかはわからないが、エリーを抱けるなら何でもいいと思えた。



 アイアンガレスで、リヒトは簡単な健康診断を受けた。
 性病にかかっていないかどうかと、繁殖能力についてだ。仕事の関係でパイプカットはしていたが、手術が雑なので少しやり直すと言われて同意した。
 皇帝の妻が男娼のせいで万一妊娠したら、殺されかねない。
 手術自体は15分ほどで終わって、痛みもなかった。このあとすぐセックスしても問題ないらしい。

 健康診断のあとは愛人契約書。内容が理解できなかったらどうしようと思ったが、中身は機密保持に関することだけだった。
 夫婦の秘密を誰にも喋らないこと。それを誓うだけで、かなりの額の金銭をもらった。
 契約書の内容も平易でわかりやすく、かえってうさんくさくて「これだけか?」と担当の弁護士に尋ねたら、「ほかのことは直接あなたと話し合うと聞いています」と言われた。
 たぶん二人とも、小難しい契約書を作ってもリヒトには負担なだけだと配慮してくれたのだろう。

 シャワーを浴びて、エリーに買ってもらったシャツとスラックスに着替えた。仕事帰りのサラリーマンみたいで笑ってしまう。自分がこんな格好をする日が来るとは思わなかった。
 皇帝のプライベートエリアを進み、ペントハウスに出ると、満点の星空が広がっていた。地球では見たことのない、星雲までもがはっきりと見て取れた。

「気に入ったかね?」

 プール横のテラスに、40歳前後の男がくつろいでいた。

「……エド?」
「ああ、そういえば、この顔を見せるのは初めてか。いかにも私がドラクオン帝国皇帝こと、エドモンド17世だ」
「あんた、猫より素顔のほうがイケてるよ」
「美女ばかりを娶ってきた家系だからね。皇族には美形が多いんだ」

 渋い顔立ちのエリーの夫は、親しげに笑ってリヒトを中へと招いた。
 プールサイドからつながるリビングには、バーカウンターが併設されていた。

「なにか飲むかね? 地球のものは大抵そろってるが」
「あんまり酒は強くないんだ。薄めて飲めるやつがあれば」
「では私のお薦めを振る舞おう。リジーも好きなやつだから飲みやすい」

 皇帝にバーテンダーの真似事をさせてしまっていいんだろうか。そう思っていたら「これは私の趣味だよ」と心を読んだように言われた。
 出されたのは、ジンを炭酸で割ってライムを入れたジントニックだった。ジンの量を減らしてくれたらしく、度数も弱めで飲みやすい。

「すごく美味い」
「……二人でリジーを抱く前に、少し話をいいかね?」

 自分のグラスにウイスキーをロックでそそいで、皇帝は切り出した。拒否権があるはずもなく、リヒトは頷いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

サッカー部のイケメンと、ゲーマーオタクと、ギャルのウチ。

寿 退社
恋愛
サッカー部のイケメンとゲーマーオタクに同日に告白された金髪巨乳白ギャルが、結局ゲーマーオタクに堕とされて、チンポハメハメされちゃうお話。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...