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#02 謎の上客

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 「トリスタン」はハードなSMショーをする傍ら、ダンサーたちに体を売らせる店だ。
 宗教狂いの母親の借金のせいでリヒトは18歳から働いており、もう3年になる。7歳から体を売って生きてきたので大抵のことには慣れた。整った顔立ちと、金のかからない唯一の趣味であるランニングのおかげで引き締まった体が、ガイや客たちに好評だった。

(ああ、クソ……)

 体の中の異物と発情剤のせいで、踊りに集中できない。ゆるい音楽に合わせてポールと睦み合うように踊るだけだが、さっきから何度もトリックに失敗していた。

(犯されたい……)

 踊るふりをしてポールに縋りつきながら、リヒトは客を見た。
 貸し切りにされた店内には数人の女たちがいるだけだった。身元を隠しているのか、目元以外をすっぽりと黒いヴェールで包んでいる。

(女か……)

 客がペニスを持っていないことにリヒトはがっかりした。女相手ではリヒトはイケないのだ。抱くことは出来ても射精まで至れない。

(ガイのやつ、わかってて入れやがったな……)

 ガイはリヒトが女でイケないことを知っている。客を取っても欲求不満で終わるリヒトを最後に自分がいたぶるために、後ろの穴をふさいだのだ。せいぜい弱い刺激に苦しめとばかりに。
 発情剤の効果でぐでんぐでんになったリヒトは、他のダンサーたちによって麻縄でポールに緊縛された。女性客たちに電マが渡され、ピアスの通された乳首やガチガチに勃ったペニスを電マで撫でられると、失神するほど感じて体が跳ねた。

(ああ、クソ……イきたい)

 発情剤のせいで体は敏感なのに達することが出来ない。怒張するペニスにベルトが食い込んで痛いばかりだった。ステージを監督するガイに遠隔でローターのスイッチを入れられ、気持ちがいいのに苦しくて仕方なかった。

「あなた……大丈夫? とても苦しそうだわ」

 声をかけてきたのは女性客の一人だった。驚いたことにその声は少女のものだった。未成年の利用は摘発の対象なのでリヒトはぎょっとして正気に戻った。以前の店はそれで潰れて、しばらくホームレスになってしまったのだ。
 顔を見ようとしたが、ベールのせいで年はわからなかった。だが目元を見る限り相当に若い。

「……俺を買ってくれ、お嬢様」

 なるべく穏便に片付けようと、リヒトは心から懇願した。

「あんたに犯されたくてたまらないんだ」
「……いいわ」



 ヤリ部屋に入るなり、リヒトは少女を詰問した。

「あんた、いくつだ?」
「なに?」
「年だよ。未成年なのか?」
「違うわ。18歳。店に入る前にIDだって見せたわ」
「18でも成人とは限らないだろ」

 何歳を成人とするかは国によって違う。前の店も、18は過ぎていたが自国では未成年だと客の親に訴えられて面倒なことになったのだ。

「IDをもう一度見せてくれ。入口のやつは信用できない」

 仕事を舐めてて、問題が起きたら辞めればいいと思ってるだけのバイトだ。ガイはそういうところの危機感が薄い。

「嫌よ。詮索するなら帰るわ」

 部屋から出ていこうとした少女の腕をリヒトは掴んだ。

「あのな、お嬢様。あんたみたいな金持ちのお嬢様には俺みたいな底辺のことなんて蔑みの対象だろうが、俺にとっては食べていくための唯一の仕事なんだ。大人びたいだけの女の子に仕事を潰されちゃ困るんだ」

 少女は抵抗をやめた。

「IDは本当に見せられないの……そもそも私は持っていないし。でも間違いなく成人はしてるわ」

 そう言って彼女は左手の手袋を外した。薬指に高価な石のはめられた指輪があった。

「既婚者なのか?」
「結婚して半年よ。安心した?」

 別の問題が浮上したが、それは夫婦の問題で店は関係ないのでリヒトは頷いた。

「ご奉仕するので、どうぞ。お嬢様」

 ベッドへうながすと、嫌な顔をされた。

「……そのお嬢様っていうの、やめて」
「じゃあなんて呼べば?」

 しばらく考えて少女は答えた。

「エリーと呼んで」
「わかった、エリー。こっちへどうぞ」

 ベッドへ案内して押し倒そうとすると、リヒトは拒まれた。

「抱かれたくないわ。あなたを抱くために買ったんだから」
「かまわないが……男の抱き方を知ってるのか?」

 エリーは偉そうに答えた。

「それを教えるのがあなたの仕事でしょ」


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