上 下
29 / 29

29 グウェインの幸せ

しおりを挟む
“黒狐のアンバー様を撫でると、幸運が訪れる”

なんて言う噂が広がっている。

ー本当の事だけどー

竜王国にやって来てからのアンバーは、精神的にも外面的にも明るくなり、以前のアンバーよりもより一層キラキラ輝いていて、可愛いくなった。そのせいか、“妖の黒狐”としての力が働くようになったようで、アンバーはよく、黒狐の姿で街に出掛けるようになった。表向き、アンバーは狐の獣人となっているから、狐の姿になっていても何の問題もなく、寧ろ黒色の綺麗な毛並みの狐だと言う事で、とても人気がある。その上での噂で、黒狐姿で街に行けば、いつも撫でられまくって帰って来る。その殆どは子供だが───

ーそれでもやっぱり気に食わないー

と思っている事は、アンバーには秘密にしている。


『こうしてまた、幸せを運べる事が嬉しい』と、嬉しそうに笑うアンバーに『アンバーに触れて良いのは俺だけで良い』とは言えなかった。ただ単なる嫉妬でしかないし、狭量な人だと思われたくもなかったからだ。




「素直に気持ちを伝えても良いと思いますよ?アンバー様は、その辺は鈍い所があるし、それを聞いて怒ったりする事はないと思います」

と、アンバーの侍女であるオティリーに言われた日、竜の姿でアンバーを迎えに行くと、その日もやっぱり数人の子供達に撫で回されていた。その子供達を風で転がしてから、アンバーが傷付かないようにソッと掴み上げる。

「アンバー様、また遊びに来てね」
『またね』

アンバーは、嬉しそうに返事をして、尻尾をフリフリと振っている。それからは、邸迄の空の旅を楽しむ。

まだアンバーが妖の黒狐クロとして動いていた時は、自分自身の妖力で空を飛べていたそうで、空を飛ぶ事に恐怖心は無いようだ。

『今日も楽しかったか?それにしても…いつもいつも撫で回されて大変じゃないか?』
『大変じゃないし、気持ち良いし楽しいから問題無いです』
『そうか…………なら、邸に帰ったら、俺も撫でさせてくれるか?』
『勿論です!』

ーよし。言質は取ったー

そうして俺は、いつもよりも少し速いスピードで邸へと飛んで帰った。





******


「意味が違う!」
「でも、間違ってはないだろう?」
「ゔっ………」
 



あれから、帰って来てから直ぐに部屋へと直行し、黒狐姿のままのアンバーを膝の上にのせて撫で回した。確かに、サラサラのツヤツヤの毛並みは、撫でる側からしても気持ちが良かった。アンバーも本当に気持ちが良いんだろう。目は閉じていて琥珀色の瞳は見えないが、尻尾がパタパタと揺れていて、口は笑っているように見えた。

「……そろそろ人の姿に戻るか?」
『んー…そうですね……もうすぐ夕食ですしね…』

と言うと、アンバーはスルスルと人の姿へと戻り、俺から離れようとする所を、そのまま腰を引き寄せて俺の膝の上に座らせた。

「ちょっ…グウェイン様!?人の姿に戻ったから、下ろして下さい!」
「却下」
「えー……」

と言いつつ、少しバタバタと可愛い抵抗をした後、アンバーはポスッとおとなしく俺の腕の中に収まった。なんとも可愛らしいものだ。

「何かありました?」
「んー…………アンバーが、色んな人達に撫で回されているのが………気に食わない」
「え?」

キョトンとして俺を見上げるアンバー。

「いや……アンバーが撫でられる事が嬉しいのも、相手に幸せを送っている事も知っているから、我慢しようと思ってたけど……やっぱり、俺以外の男がアンバーを撫でているのは……気に食わない」
「男と言っても、子供ですよ?」
「男は男だから……狭量だろう?」

なんとも恥ずかしい告白だ。

「狭量だなんて思わないですけど……なんとなく、グウェイン様が可愛いなと……ふふっ。えっと……グウェイン様も、私の事いっぱい撫でて下さい。グウェイン様に撫でられるのは、一番嬉しいから」
「それじゃあ、遠慮なく…」
「え?あ、ちょっ……待っ…あの!じゃなくて!」
「ん?もアンバーだろう?」
「えっ!?んんん!!??」

狐姿にさせる隙を与えずに、口を塞いで、そのままアンバーを優しく撫でていく。

「でも、を撫でて良いのは、俺だけだからね?」
「なっ!!んんんっ!!」

それからまた口を塞いだ後、ひたすらアンバーを甘やかした。





そうして、ベッドの上で、俺の腕の中にスッポリ収まったままのアンバーに『意味が違う』と言われたのだ。

「嫌だった?」
「嫌──じゃないから困ってます!」
「くっ!可愛いな!」
「ひやぁっ!」

これで、本当に400歳を超えているんだろうか?妖とやらは、妖精のように純粋培養なんだろうか?

「これ以上、煽るのはやめてくれ!」
「煽ってません!もっ…もう無理だから!駄目だから!おっ……お腹空いたから!!」
「お腹っ!くくっ…そう…だな……お腹………それは大変だ。ゆっくり支度して、夕食の準備をしてもらおう」

アンバーのオデコに軽くキスをすると、アンバーは顔を赤くしたまま嬉しそうに笑った。






******


「はぁ……またこんな所で寝ていたのか……」

アンバーが竜王国にやって来てから6度目の春を迎えた。5年前に邸の裏庭に移植したサーラの木が、今年も満開になった。この時期になると、よくアンバーが黒狐の姿で昼寝をする──のだが、今年は、黒狐のアンバーのお腹の上で、白色の子竜と子狐が寝ている。

本来、長生きの竜族は子供ができにくいのだが、幸運な事にアンバーは結婚2年目で妊娠して、生まれたのが竜と狐の男の子の双子だった。竜族で双子は珍しい。2人とも鱗と毛並みは白色だけど、瞳の色は黒色。国を上げてのお祝いが繰り広げられた。

黒狐は幸せを運ぶ

ー正に、その通りだー

「アンバー、ありがとう」
『ん……グウェイン?』
「起こしてごめん…まだ、寝てて良いよ」
『うん……グウェイン……私も…ありがとう。グウェインのお陰で……とっても…幸せ……』
「アンバー……」

すやすやと再び寝てしまったアンバー。キュッと子竜と子狐を抱きしめる黒狐の可愛さと言ったら──

「これ以上の幸せはないな」

そうして俺も、3人の横に腰を下ろしてサーラの花を眺めた。







❋これにて、完結となります。最後迄読んでいただき、ありがとうございました❋
*ᴗ ᴗ)ᴗ͈ˬᴗ͈ꕤ୭*


しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

みきざと瀬璃
ネタバレ含む
みん
2024.08.19 みん

みきざと瀬璃様

ありがとうございます。

こちらこそ、読んでいただき、ありがとうございました。
( ∗ᵔ ᵕᵔ) ˶ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ ♡ᵗʱᵃᵑᵏᵧₒᵤ♡

主の恋話は……あまり深く設定してませんでした…
(´ー∀ー`;)

すみません(。>д<。)💦

解除
みきざと瀬璃
ネタバレ含む
みん
2024.08.05 みん

みきざと瀬璃様

ありがとうございます。

【二度】と繋がっていました。相変わらず、菊花は色々と大忙しですw
(*´ 艸`)

仕事が暇なうちに…と書き溜めて、1日2話更新で最後迄行けるかな?と思っていましたが、予想外に仕事が忙しくなり、少しトーンダウンしました。
( ´-ω-` )

解除
みきざと瀬璃
ネタバレ含む
みん
2024.07.28 みん

みきざと瀬璃様

ありがとうございます。

その気持ち分かります!
私も、読者の立場ではそうします!ためてから読みます。
(((;^>ᆺ<^;)))

なので、書き手になっても辛い話はサクサク行きます!
:( ;˙꒳˙;):アワアワ

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。