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27 黒狐のアンバー
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「城に行く前に、連れて行きたい所がる」
と言われて、グウェイン様が連れて来てくれたのは─
「綺麗だろう?丁度満開の時期で…この花はこの時期にしか咲かないんだ。だから、どうしてもアンバーに………」
「さくらだ………」
「“サクラ”?」
「私の元の世界に、この木とソックリ?同じ木があるんです」
王家が所有する森の一つなんだそうで、その広大な森の奥に広がる草原に、桜の木が立ち並んでいて、満開になった薄ピンク色の花びらが風に舞っている。
まだ、主様とシロと私が人々に幸せを運んでいた時、春になると魂を清める意味合いもあって、桜の咲き誇る地でゆっくりと時間を過ごしていた。シロと走り回って……キクカ様お手製のお稲荷を食べて……主様はお神酒を飲んでいた。
「竜王国では、“サーラ”と呼ばれている木で、女神に与えられた木とされていて、代々王家が保護して管理しているんだ。ひょっとしたら、クロの世界の千代様からの贈り物なのかもしれないな」
うん。それはあり得る話だ。でも、まさか、この世界に来て桜を目にする事ができるとは思わなかった。
「……あの………ひとつだけ、お願いしても良いですか?」
「ん?」
「あの…………」
*グウェイン視点*
ー可愛い!!ー
と、声には出さずに心の中で叫んだ。
アンバーからのお願いなら、何でも聞きたいし聞くつもりでいる。そのアンバーからのお願いが─
『狐になって、この草原を走り回って良いですか?』
だった。勿論「駄目だ」なんて答えは無い。思う存分どうぞ─と言えば、ポンッと狐火がアンバーの体を包み込んだと思えば、そこにアンバーの姿は無く、一匹の黒狐が現れたかと思えば、草原の方へと走り出した。黒狐の姿を初めて見た。綺麗な黒色の毛並みが、キラキラと輝いていている。
余程サーラがお気に入りなのか、舞っている花びらをピョンピョンと飛び跳ねて追い掛けている。その姿が、何とも可愛い過ぎる。きっと、元の世界でも、こうしてサーラの木の元を走り回っていたのだろう。
そうして走り回っているうちに、風が弱くなったようで、舞っている花びらも減ると、シュン─とした黒狐の後ろ姿が何とも可愛いけど可哀想に見えて───
竜の姿になって、バサッ──と両翼を羽ばたかせて風を作ると、サーラの花びらが一斉に舞い上がって─
『──っ!?』
『アンバー!?』
その風圧で、黒狐のアンバーまでもがコロコロと転がってしまった。
「アンバー!大丈夫か!?」
パッと人の姿に戻った俺が、黒狐姿のままデロンと上向きに伸びた状態のアンバーに駆け寄ると、アンバーは楽しそうに笑っていた。
『風でグルンッて……ふふっ……竜の力は凄いですね!』
「すまない。大丈夫か?」
『大丈夫です。寧ろ、楽しかったです。ここに連れて来てくれて、ありがとうございます』
黒狐になっても琥珀色の瞳が、楽しそうに細められてキラキラと輝いていた。
******
「君がアンバーか。本当に綺麗な黒色だな。ウェザリアではさぞかし苦労しただろうね」
「今からでも、虐めてきた者達を竜王国に連れて来ても良いわよ?」
「兄上…義姉上……」
「ありがとう…ございます。そのお気持ちだけで十分です。それに……ウィル殿下とグウェイン様に救われましたので、これ以上は……」
“それは残念”──と言う顔をしている兄上と義姉上の気持ちはよく分かる。だが、加害者は全員病んだ上、爵位を取り上げられたり辺境地や修道院や病院送りになったから、ある意味仕方無い。今になって思えば、“キクカ様”と呼ばれていた妖狐が絡んでいたのかもしれない。
「手緩い気もするが……まぁ、竜王国の民になって、グウェインと共にするとなれば、逆の意味で大変になるだろうけど、その辺りはグウェインがしっかり護ってくれるだろう」
「“共にする”………」
そう言われたアンバーが、ポンッと顔を赤くすれば、兄上はニコニコと笑って、義姉上は両手で顔を覆って悶えている。義姉上は可愛いモノが大好きで、おそらく、アンバーはドンピシャ。しかも、義姉上とアンバーが慕っているキクカ様とやらの性格が似ているから、俺にとっての最大のライバルは、義姉上なのかもしれない。
「兎に角、正式な移住は卒業後になるだろうけど、今回の滞在も、自分の国だと思って楽しんで欲しい」
「ありがとうございます」
一通りの挨拶が終わると、ウィルが婚約者のリオナ嬢を連れてやって来て、6人での夕食会は和やかで楽しいものとなった。
「食事は口に合ったか?」
「はい。ウェザリアの物より、竜王国の味付けの方が好みかもしれません。デザートとフルーツも美味しかったです」
夕食会が終わり、アンバーが滞在する部屋へと案内しながら会話を交わす。食事が口に合って良かった。これで一安心だ。
「明日はどうする?アンバーが望むなら、また街に出掛けても良いけど…」
「グウェイン様が大丈夫なら、明日も……一緒に街に行きたいです」
「勿論大丈夫だ。それじゃあ、明日、部屋まで迎えに行くから待っていてくれ」
「はい!」
嬉しそうに笑って返事をするアンバーが可愛い。
ー一体いつまで我慢ができるのかー
密かにそう思いながら、アンバーを部屋まで送り届けた。
*その頃のウィル達*
「ウィル、アンバーは、竜族の給餌行為の意味を──」
「知っていないと思います。でも、全く抵抗する感じもないから、無意識にでも叔父上を受け入れているのかと……」
竜王両陛下の目の前でも、いつも通り、デザートは自らの手でアンバーに食べさせていた叔父上。父上と母上はニコニコと微笑み、控えていた使用人達や給仕人達は驚いていた。
「逃がす気は更々ないようだな」
「でしょうね……」
“竜族最大の愛情表現をした王弟に、その愛情表現を受け入れた黒髪の女の子”
アンバー本人も嫌がっていないし、好意があるから問題無いだろう。兎に角、アンバーはもう、叔父上から逃げられないと言う事だ。
と言われて、グウェイン様が連れて来てくれたのは─
「綺麗だろう?丁度満開の時期で…この花はこの時期にしか咲かないんだ。だから、どうしてもアンバーに………」
「さくらだ………」
「“サクラ”?」
「私の元の世界に、この木とソックリ?同じ木があるんです」
王家が所有する森の一つなんだそうで、その広大な森の奥に広がる草原に、桜の木が立ち並んでいて、満開になった薄ピンク色の花びらが風に舞っている。
まだ、主様とシロと私が人々に幸せを運んでいた時、春になると魂を清める意味合いもあって、桜の咲き誇る地でゆっくりと時間を過ごしていた。シロと走り回って……キクカ様お手製のお稲荷を食べて……主様はお神酒を飲んでいた。
「竜王国では、“サーラ”と呼ばれている木で、女神に与えられた木とされていて、代々王家が保護して管理しているんだ。ひょっとしたら、クロの世界の千代様からの贈り物なのかもしれないな」
うん。それはあり得る話だ。でも、まさか、この世界に来て桜を目にする事ができるとは思わなかった。
「……あの………ひとつだけ、お願いしても良いですか?」
「ん?」
「あの…………」
*グウェイン視点*
ー可愛い!!ー
と、声には出さずに心の中で叫んだ。
アンバーからのお願いなら、何でも聞きたいし聞くつもりでいる。そのアンバーからのお願いが─
『狐になって、この草原を走り回って良いですか?』
だった。勿論「駄目だ」なんて答えは無い。思う存分どうぞ─と言えば、ポンッと狐火がアンバーの体を包み込んだと思えば、そこにアンバーの姿は無く、一匹の黒狐が現れたかと思えば、草原の方へと走り出した。黒狐の姿を初めて見た。綺麗な黒色の毛並みが、キラキラと輝いていている。
余程サーラがお気に入りなのか、舞っている花びらをピョンピョンと飛び跳ねて追い掛けている。その姿が、何とも可愛い過ぎる。きっと、元の世界でも、こうしてサーラの木の元を走り回っていたのだろう。
そうして走り回っているうちに、風が弱くなったようで、舞っている花びらも減ると、シュン─とした黒狐の後ろ姿が何とも可愛いけど可哀想に見えて───
竜の姿になって、バサッ──と両翼を羽ばたかせて風を作ると、サーラの花びらが一斉に舞い上がって─
『──っ!?』
『アンバー!?』
その風圧で、黒狐のアンバーまでもがコロコロと転がってしまった。
「アンバー!大丈夫か!?」
パッと人の姿に戻った俺が、黒狐姿のままデロンと上向きに伸びた状態のアンバーに駆け寄ると、アンバーは楽しそうに笑っていた。
『風でグルンッて……ふふっ……竜の力は凄いですね!』
「すまない。大丈夫か?」
『大丈夫です。寧ろ、楽しかったです。ここに連れて来てくれて、ありがとうございます』
黒狐になっても琥珀色の瞳が、楽しそうに細められてキラキラと輝いていた。
******
「君がアンバーか。本当に綺麗な黒色だな。ウェザリアではさぞかし苦労しただろうね」
「今からでも、虐めてきた者達を竜王国に連れて来ても良いわよ?」
「兄上…義姉上……」
「ありがとう…ございます。そのお気持ちだけで十分です。それに……ウィル殿下とグウェイン様に救われましたので、これ以上は……」
“それは残念”──と言う顔をしている兄上と義姉上の気持ちはよく分かる。だが、加害者は全員病んだ上、爵位を取り上げられたり辺境地や修道院や病院送りになったから、ある意味仕方無い。今になって思えば、“キクカ様”と呼ばれていた妖狐が絡んでいたのかもしれない。
「手緩い気もするが……まぁ、竜王国の民になって、グウェインと共にするとなれば、逆の意味で大変になるだろうけど、その辺りはグウェインがしっかり護ってくれるだろう」
「“共にする”………」
そう言われたアンバーが、ポンッと顔を赤くすれば、兄上はニコニコと笑って、義姉上は両手で顔を覆って悶えている。義姉上は可愛いモノが大好きで、おそらく、アンバーはドンピシャ。しかも、義姉上とアンバーが慕っているキクカ様とやらの性格が似ているから、俺にとっての最大のライバルは、義姉上なのかもしれない。
「兎に角、正式な移住は卒業後になるだろうけど、今回の滞在も、自分の国だと思って楽しんで欲しい」
「ありがとうございます」
一通りの挨拶が終わると、ウィルが婚約者のリオナ嬢を連れてやって来て、6人での夕食会は和やかで楽しいものとなった。
「食事は口に合ったか?」
「はい。ウェザリアの物より、竜王国の味付けの方が好みかもしれません。デザートとフルーツも美味しかったです」
夕食会が終わり、アンバーが滞在する部屋へと案内しながら会話を交わす。食事が口に合って良かった。これで一安心だ。
「明日はどうする?アンバーが望むなら、また街に出掛けても良いけど…」
「グウェイン様が大丈夫なら、明日も……一緒に街に行きたいです」
「勿論大丈夫だ。それじゃあ、明日、部屋まで迎えに行くから待っていてくれ」
「はい!」
嬉しそうに笑って返事をするアンバーが可愛い。
ー一体いつまで我慢ができるのかー
密かにそう思いながら、アンバーを部屋まで送り届けた。
*その頃のウィル達*
「ウィル、アンバーは、竜族の給餌行為の意味を──」
「知っていないと思います。でも、全く抵抗する感じもないから、無意識にでも叔父上を受け入れているのかと……」
竜王両陛下の目の前でも、いつも通り、デザートは自らの手でアンバーに食べさせていた叔父上。父上と母上はニコニコと微笑み、控えていた使用人達や給仕人達は驚いていた。
「逃がす気は更々ないようだな」
「でしょうね……」
“竜族最大の愛情表現をした王弟に、その愛情表現を受け入れた黒髪の女の子”
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