上 下
27 / 29

27 黒狐のアンバー

しおりを挟む
「城に行く前に、連れて行きたい所がる」

と言われて、グウェイン様が連れて来てくれたのは─



「綺麗だろう?丁度満開の時期で…この花はこの時期にしか咲かないんだ。だから、どうしてもアンバーに………」
「さくらだ………」
「“サクラ”?」
「私の元の世界に、この木とソックリ?同じ木があるんです」

王家が所有する森の一つなんだそうで、その広大な森の奥に広がる草原に、桜の木が立ち並んでいて、満開になった薄ピンク色の花びらが風に舞っている。 
まだ、主様とシロと私が人々に幸せを運んでいた時、春になると魂を清める意味合いもあって、桜の咲き誇る地でゆっくりと時間を過ごしていた。シロと走り回って……キクカ様お手製のお稲荷を食べて……主様はお神酒を飲んでいた。

「竜王国では、“サーラ”と呼ばれている木で、女神に与えられた木とされていて、代々王家が保護して管理しているんだ。ひょっとしたら、クロの世界の千代様からの贈り物なのかもしれないな」

うん。それはあり得る話だ。でも、まさか、この世界に来て桜を目にする事ができるとは思わなかった。

「……あの………ひとつだけ、お願いしても良いですか?」
「ん?」
「あの…………」




*グウェイン視点*

ー可愛い!!ー

と、声には出さずに心の中で叫んだ。
アンバーからのお願いなら、何でも聞きたいし聞くつもりでいる。そのアンバーからのお願いが─

『狐になって、この草原を走り回って良いですか?』

だった。勿論「駄目だ」なんて答えは無い。思う存分どうぞ─と言えば、ポンッと狐火がアンバーの体を包み込んだと思えば、そこにアンバーの姿は無く、一匹の黒狐が現れたかと思えば、草原の方へと走り出した。黒狐の姿を初めて見た。綺麗な黒色の毛並みが、キラキラと輝いていている。
余程サーラがお気に入りなのか、舞っている花びらをピョンピョンと飛び跳ねて追い掛けている。その姿が、何とも可愛い過ぎる。きっと、元の世界でも、こうしてサーラの木の元を走り回っていたのだろう。
そうして走り回っているうちに、風が弱くなったようで、舞っている花びらも減ると、シュン─とした黒狐の後ろ姿が何とも可愛いけど可哀想に見えて───

竜の姿になって、バサッ──と両翼を羽ばたかせて風を作ると、サーラの花びらが一斉に舞い上がって─

『──っ!?』
『アンバー!?』

その風圧で、黒狐のアンバーまでもがコロコロと転がってしまった。

「アンバー!大丈夫か!?」

パッと人の姿に戻った俺が、黒狐姿のままデロンと上向きに伸びた状態のアンバーに駆け寄ると、アンバーは楽しそうに笑っていた。

『風でグルンッて……ふふっ……竜の力は凄いですね!』
「すまない。大丈夫か?」
『大丈夫です。寧ろ、楽しかったです。ここに連れて来てくれて、ありがとうございます』

黒狐になっても琥珀色の瞳が、楽しそうに細められてキラキラと輝いていた。






******


「君がアンバーか。本当に綺麗な黒色だな。ウェザリアではさぞかし苦労しただろうね」
「今からでも、虐めてきた者達を竜王国ここに連れて来ても良いわよ?」
「兄上…義姉上……」
「ありがとう…ございます。そのお気持ちだけで十分です。それに……ウィル殿下とグウェイン様に救われましたので、これ以上は……」

“それは残念”──と言う顔をしている兄上と義姉上の気持ちはよく分かる。だが、加害者は全員病んだ上、爵位を取り上げられたり辺境地や修道院や病院送りになったから、ある意味仕方無い。今になって思えば、“キクカ様”と呼ばれていた妖狐が絡んでいたのかもしれない。

「手緩い気もするが……まぁ、竜王国の民になって、グウェインととなれば、逆の意味で大変になるだろうけど、その辺りはグウェインがしっかり護ってくれるだろう」
「“”………」

そう言われたアンバーが、ポンッと顔を赤くすれば、兄上はニコニコと笑って、義姉上は両手で顔を覆って悶えている。義姉上は可愛いモノが大好きで、おそらく、アンバーはドンピシャ。しかも、義姉上とアンバーが慕っているキクカ様とやらの性格が似ているから、俺にとっての最大のライバルは、義姉上なのかもしれない。

「兎に角、正式な移住は卒業後になるだろうけど、今回の滞在も、自分の国だと思って楽しんで欲しい」
「ありがとうございます」

一通りの挨拶が終わると、ウィルが婚約者のリオナ嬢を連れてやって来て、6人での夕食会は和やかで楽しいものとなった。






「食事は口に合ったか?」
「はい。ウェザリアの物より、竜王国の味付けの方が好みかもしれません。デザートとフルーツも美味しかったです」

夕食会が終わり、アンバーが滞在する部屋へと案内しながら会話を交わす。食事が口に合って良かった。これで一安心だ。

「明日はどうする?アンバーが望むなら、また街に出掛けても良いけど…」
「グウェイン様が大丈夫なら、明日も……一緒に街に行きたいです」
「勿論大丈夫だ。それじゃあ、明日、部屋まで迎えに行くから待っていてくれ」
「はい!」

嬉しそうに笑って返事をするアンバーが可愛い。

ー一体いつまで我慢ができるのかー

密かにそう思いながら、アンバーを部屋まで送り届けた。








*その頃のウィル達*

「ウィル、アンバーは、竜族の給餌行為の意味を──」
「知っていないと思います。でも、全く抵抗する感じもないから、無意識にでも叔父上を受け入れているのかと……」

竜王両陛下の目の前でも、いつも通り、デザートは自らの手でアンバーに食べさせていた叔父上。父上と母上はニコニコと微笑み、控えていた使用人達や給仕人達は驚いていた。

「逃がす気は更々ないようだな」
「でしょうね……」

“竜族最大の愛情表現をした王弟に、その愛情表現を受け入れた黒髪の女の子”

アンバー本人も嫌がっていないし、好意があるから問題無いだろう。兎に角、アンバーはもう、叔父上から逃げられないと言う事だ。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...