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肆
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ライラを見送った後の事は……まぁ、本当に色々あった…あり過ぎた。キャスリーンをレイナイト侯爵家に迎え入れる事には、正直少し───否、かなりの抵抗、不快感、嫌悪感があったが……全ては自業自得。ライラの言う通り、エルラインには何の罪も無い。“エルラインの為に”と、俺はライラとの約束を守るべく動き出した。
ミシュエルリーナが、“美幸”の記憶を思い出した時、一番のネックになるのは貴族社会だろう。日本人として、政略結婚やら愛人やら妾やら………絶対に無理だろう。やらかした俺本人でさえダメージが大きいのだ。
「…さて、どうしたものか………」
と、悩んでいるうちに、アレが、ある意味良い働きをしてくれた。俺が何も言わないのを良い事に、アレはコーライルとミシュエルリーナを放置してくれたのだ。頭だけは良い女で、決して2人には手を出さなかった。
ー手を出せば、そこで終わっていただろうけどー
兎に角、放置してくれたお陰で、コーライルとミシュエルリーナは信頼の置ける使用人と共に自立し、各々が自分の為に動き出したのだ。俺は、そんな2人を見守る事にした。
コーライルはレイナイト侯爵の後継ぎとして、アレには内緒で、家令であるゼスからの紹介と言う事にして、家庭教師をつけた。
ミシュエルリーナは、アレは全く気付いてはいないが、相当な魔力を持っている。そして、ミシュエルリーナは、魔導師として自立しようとしている。
それで良い。貴族から抜け出し、魔導師として生きてきけるなら、その方が幸せに決まっている。その為に……色々と準備をしなければいけないな。
今度こそ、俺はミシュエルリーナは勿論の事、コーライルも幸せにする。それが、美南─ライラとの約束だから。
コーライルは、学園で恋仲になり婚約者となったエリーナ嬢と、学園の卒業と同時に結婚。そのままレイナイト領へと住まいを移して、領地運営を任せている。領地の家令が言うには、領地運営は順調で、夫婦仲も良い─と言うか、コーライルの嫁に対する溺愛ぶりが半端無いらしく、「本当に、イグニアス様のお子でしょうか?」と、皮肉を込めて言われた……。
ー俺だって、美南なら溺愛したけどな!ー
とは、言える筈もない。
ミシュエルリーナは、無事に魔導師になった。しかも、数人しかいない上級位魔導師になった。所謂チート…だろうか?まぁ、他人の事は言えないな。俺自身、前世の記憶が戻ってから、魔力が大きくなり強くもなった。
兎に角、ミシュエルリーナは、上級位魔導師─ミューとしての人生を歩もうとしている。俺は、それを……そのミューの背中を押すだけだ。
“見守る”とは聞こえは良いが、子達からすれば、俺は実の子達を、“見捨てた”父親だ。このまま…嫌われたままでも構わないと思っていた。2人が幸せであるならば──
それなのに、ミシュエルリーナの顔を見ると……欲が出た。
ミシュエルリーナのデビューとなる夜会の帰りに、ミシュエルリーナには死んでもらう予定だった。勿論、本当に死ぬ訳ではない。“上級位魔導師ミュー”として新たな人生を歩んで行く為に、“ミシュエルリーナ=レイナイト侯爵令嬢”に死んでもらうのだ。
「お父様、お話があります」
と言われ、ミシュエルリーナに久し振りに会って気付いた。ミシュエルリーナが、前世を思い出しただろう事に。その事で…欲が出た。
ーもう一度、“お父さん”と…呼んでくれるだろうか?ー
最後に交した約束を守れなかった俺を、怒っていないだろうか?あれから独りになってしまって…怒ってなかったか?泣いてはない……なんて事はないだろう。
ーいや、駄目だ…このまま、嫌われたまま送り出さなければー
と思っていたのに、欲には勝てなかった。ミシュエルリーナを目の前にして、俺は全ての事をミシュエルリーナに話した。美南の事もライラの事も。
すると、美幸は、俺を責める事も拒絶する事もなく受け入れてくれた上に“お父さん”と呼んでくれた。
それから2人で泣いて、たくさん話をして──
ミューの背中を押した。
折角、貴族の柵から開放させたにも関わらず、王弟殿下─ハルシオン=アルムに捕まり、王族やアシュトレア伯爵家に囲まれる事になるとは思わなかった。
それでも──
コーライルは今では立派なレイナイト侯爵となり、エリーナとの間には男の子3人が生まれ、今でも嫁溺愛続投中だ。
エルラインもルティウスと結婚をし、子供も2人生んで、今では社交会でも評判の良い公爵夫人である。
ー本当にアレから生まれたのか?ー
と、今でも思っている。ちなみに、アレ─キャスリーンは、エルラインがルティウスと結婚した直後、レイナイト邸の自室で見目の良い使用人を連れ込んでお楽しみだった最中に、俺がその現場を偶然見付けたお陰で、レイナイト邸から追い出す事に成功した。
ー偶然だ。運が良かったんだー
口元がニヤけたのは仕方無いだろう。
そして、ミシュエルリーナ─ミューは
“一姫二太郎”と、子供を2人生んだ。特に、女の子が生まれた時の国王両陛下とアシュトレア一族の盛り上がりは凄まじかった。正直、ひいた。兎に角、ミューも、今でも相変わらず殿下から溺愛されているようだ。
「…美南─ライラ。約束通り、今世では孫の顔を見たよ。」
目を閉じれば、そこには美南とライラの姿がある。
ーそろそろ…会いに行っても良いよな?ー
「────お父さん!」
薄れ行く意識の中、俺の手を誰かが握っていて、俺を呼んでいる?
「──お父さん、ありがとう。前世でも今世でも、お父さんの子で……良かったよ。ありがとう…。」
ーあぁ……美幸……ミシュ……俺の方こそ…ありがとうー
二度目の人生は、愛しい我が子に見送られて逝く事ができた。
次、また彼女に会えたら……溺愛とやらを……してみたい………
ミシュエルリーナが、“美幸”の記憶を思い出した時、一番のネックになるのは貴族社会だろう。日本人として、政略結婚やら愛人やら妾やら………絶対に無理だろう。やらかした俺本人でさえダメージが大きいのだ。
「…さて、どうしたものか………」
と、悩んでいるうちに、アレが、ある意味良い働きをしてくれた。俺が何も言わないのを良い事に、アレはコーライルとミシュエルリーナを放置してくれたのだ。頭だけは良い女で、決して2人には手を出さなかった。
ー手を出せば、そこで終わっていただろうけどー
兎に角、放置してくれたお陰で、コーライルとミシュエルリーナは信頼の置ける使用人と共に自立し、各々が自分の為に動き出したのだ。俺は、そんな2人を見守る事にした。
コーライルはレイナイト侯爵の後継ぎとして、アレには内緒で、家令であるゼスからの紹介と言う事にして、家庭教師をつけた。
ミシュエルリーナは、アレは全く気付いてはいないが、相当な魔力を持っている。そして、ミシュエルリーナは、魔導師として自立しようとしている。
それで良い。貴族から抜け出し、魔導師として生きてきけるなら、その方が幸せに決まっている。その為に……色々と準備をしなければいけないな。
今度こそ、俺はミシュエルリーナは勿論の事、コーライルも幸せにする。それが、美南─ライラとの約束だから。
コーライルは、学園で恋仲になり婚約者となったエリーナ嬢と、学園の卒業と同時に結婚。そのままレイナイト領へと住まいを移して、領地運営を任せている。領地の家令が言うには、領地運営は順調で、夫婦仲も良い─と言うか、コーライルの嫁に対する溺愛ぶりが半端無いらしく、「本当に、イグニアス様のお子でしょうか?」と、皮肉を込めて言われた……。
ー俺だって、美南なら溺愛したけどな!ー
とは、言える筈もない。
ミシュエルリーナは、無事に魔導師になった。しかも、数人しかいない上級位魔導師になった。所謂チート…だろうか?まぁ、他人の事は言えないな。俺自身、前世の記憶が戻ってから、魔力が大きくなり強くもなった。
兎に角、ミシュエルリーナは、上級位魔導師─ミューとしての人生を歩もうとしている。俺は、それを……そのミューの背中を押すだけだ。
“見守る”とは聞こえは良いが、子達からすれば、俺は実の子達を、“見捨てた”父親だ。このまま…嫌われたままでも構わないと思っていた。2人が幸せであるならば──
それなのに、ミシュエルリーナの顔を見ると……欲が出た。
ミシュエルリーナのデビューとなる夜会の帰りに、ミシュエルリーナには死んでもらう予定だった。勿論、本当に死ぬ訳ではない。“上級位魔導師ミュー”として新たな人生を歩んで行く為に、“ミシュエルリーナ=レイナイト侯爵令嬢”に死んでもらうのだ。
「お父様、お話があります」
と言われ、ミシュエルリーナに久し振りに会って気付いた。ミシュエルリーナが、前世を思い出しただろう事に。その事で…欲が出た。
ーもう一度、“お父さん”と…呼んでくれるだろうか?ー
最後に交した約束を守れなかった俺を、怒っていないだろうか?あれから独りになってしまって…怒ってなかったか?泣いてはない……なんて事はないだろう。
ーいや、駄目だ…このまま、嫌われたまま送り出さなければー
と思っていたのに、欲には勝てなかった。ミシュエルリーナを目の前にして、俺は全ての事をミシュエルリーナに話した。美南の事もライラの事も。
すると、美幸は、俺を責める事も拒絶する事もなく受け入れてくれた上に“お父さん”と呼んでくれた。
それから2人で泣いて、たくさん話をして──
ミューの背中を押した。
折角、貴族の柵から開放させたにも関わらず、王弟殿下─ハルシオン=アルムに捕まり、王族やアシュトレア伯爵家に囲まれる事になるとは思わなかった。
それでも──
コーライルは今では立派なレイナイト侯爵となり、エリーナとの間には男の子3人が生まれ、今でも嫁溺愛続投中だ。
エルラインもルティウスと結婚をし、子供も2人生んで、今では社交会でも評判の良い公爵夫人である。
ー本当にアレから生まれたのか?ー
と、今でも思っている。ちなみに、アレ─キャスリーンは、エルラインがルティウスと結婚した直後、レイナイト邸の自室で見目の良い使用人を連れ込んでお楽しみだった最中に、俺がその現場を偶然見付けたお陰で、レイナイト邸から追い出す事に成功した。
ー偶然だ。運が良かったんだー
口元がニヤけたのは仕方無いだろう。
そして、ミシュエルリーナ─ミューは
“一姫二太郎”と、子供を2人生んだ。特に、女の子が生まれた時の国王両陛下とアシュトレア一族の盛り上がりは凄まじかった。正直、ひいた。兎に角、ミューも、今でも相変わらず殿下から溺愛されているようだ。
「…美南─ライラ。約束通り、今世では孫の顔を見たよ。」
目を閉じれば、そこには美南とライラの姿がある。
ーそろそろ…会いに行っても良いよな?ー
「────お父さん!」
薄れ行く意識の中、俺の手を誰かが握っていて、俺を呼んでいる?
「──お父さん、ありがとう。前世でも今世でも、お父さんの子で……良かったよ。ありがとう…。」
ーあぁ……美幸……ミシュ……俺の方こそ…ありがとうー
二度目の人生は、愛しい我が子に見送られて逝く事ができた。
次、また彼女に会えたら……溺愛とやらを……してみたい………
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