二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん

文字の大きさ
上 下
80 / 82
二度目の帰還

狐と犬と

しおりを挟む
❋本編の、ルーファスが湖に沈んだ後辺りの話になります❋









*菊花視点*



『───何故……お前が居るの!?』

千代様に呼ばれて来てみれば……そこには何故か、私の天敵である黒妖犬の─深影みかげが居た。

『菊花、久し振りだな。お前……そうだな?』

ニヤニヤと笑う深影。

ー本当に嫌な奴だー

何故こいつがここに居るのか──いや、居てもおかしくはない。この深影も、私と同じ千代様の眷属の1人だから。ただ、狐妖怪の私にとっては唯一の弱点となる犬─の妖怪だから、普段は殆ど顔を合わせる事は無い。
年に一度の千代様主催の新年の宴の時は流石に顔を合わせるが、その度に何かとちょっかいを掛けられて……本当にウンザリする。

『私がやらかした─として、深影には関係無いでしょう?』

『関係無い─ねぇ………』

と、深影が目を細めて呟いた時──

『そうも言ってられないでしょう?』
『千代様!?』

ニッコリ微笑んでいる千代様。

ー嫌な予感しかしないー

『今回のお前の失態は、油断した上のだったわね?』
『………はい』
『それで……志乃とルーファスがどうなったのかしら?』
『…………』
『弱点を克服する為に、暫くの間、深影と共に行動しなさい。』
『な──────っ』
『菊花。返事は“はい”か“分かりました”か“承知しました”だけよ。』
『────分かり……ました』

こうして、暫くの間、私は天敵である黒妖犬の深影と行動を共にする事になった。


と言っても、朝から昼過ぎ頃迄はルーファスの勉強会があり、その間は別行動となる為、実際共にするのはそれからとなる──が…。





『あの“馬鹿騎士”とやらの、初めての行脚なのか?』

『そうよ。』

今日、ようやく、あの馬鹿騎士─志乃様を魔犬の餌にした奴を“丑三つ時行脚”に送り出す事になったのだ。
あのアリシア馬鹿女は、食べられる寸前で助けたが──この馬鹿騎士は、食べさせても良いか─と思っている。

志乃様を餌にして食べさせようとした上、実際にルーファスが噛み付かれたから。

別に、ルーファスの仕返しに─と言う意味ではなく、それによって志乃様が辛い思いをしたからだ。

“因果応報”だ──





妖の路に落ちている赤色、青色、紫色のビー玉を拾って来る事。
緑色のビー玉は拾わない事。
2時から2時半迄の30分の間に済ませて、元の路を戻って帰って来る事。でなければ、こちら側には帰って来れないから。
人間だとバレると妖に食べられるから、バレないように妖術を掛けるが、声を出すとその妖術が解ける事。


アリシア馬鹿女と同じ条件で、馬鹿騎士を“丑三つ時行脚”へと送り出した。




しかし、あの馬鹿騎士は…やってくれた。

赤色と青色と緑色のビー玉を拾い、紫色のビー玉は踏み付けて粉々にしたのだ。
声を出す事も無かったから戻っては来たが、『色が違う』と、再び妖の路へと送り出した。その時、既に2時半を過ぎていたから、私が掛けていた“認識阻害”の妖術は解けていて、妖の路に入った途端、そこに居た妖達に───噛み付かれた。

「ゔあぁぁぁぁ──────っ!助けっっ─」

『…………ふんっ』

パチンッ──

思う存分噛み付かれて気を失ったのを確認してから、ようやく呼び戻した。

ってはイケナイのが…残念だわ』

目の前で気を失っている馬鹿騎士を見ながら呟くと

『簡単にっても、コイツが楽なだけだろう?』

ーそれも……そうかー


『で?今日はコレで終わりか?』
『えぇ。取り敢えず、今日はコレで終わりね。』
『じゃあ、コイツ……俺が預って良い?』
『え?良い…けど……』

と返事をすると、深影は『ありがとう』と微笑みながら、その馬鹿騎士と共に転移して行った。












*深影視点*



『おい、いつまで寝てんだ?』

ガツンッ─と、寝転んでいる馬鹿のお腹を踏み付けると「ゔ──っ」と呻き声をあげながら目を開けた。

そいつの髪を掴んで、顔を上げさせて視線を合わせる。

『お前さぁ……誰に手を出したか…分かってる?』
「誰って──女…まど──ゔっ」

掴んでいる髪を、更に力を入れて握り締める。

確かに、未だアイリーン様の愛し子のままであり、千代様の愛し子となる予定の志乃様に手を出した。それはそれで問題アリだが──

コイツが操っていた魔犬が、菊花にも手を出したのだ。

俺の可愛い菊花に───

本当に菊花は可愛い。で、いつも俺を威嚇している気になっているのだ。まだ、蚊に刺された方が痛いかもしれない─とは、菊花には言わない。

『兎に角、俺ね、俺のモノに手を出されるのが……一番赦せないんだよね……だっけ?』

「え?あ゙─────っ!?」

菊花によって、妖達に噛み付かれた痕はきれいサッパリ治っていたが、左肩にだけ傷を

『ルーファスが噛み付かれたのは、左肩だったな?』

ルーファスが噛み付かれ、それによって、菊花が大切にしている志乃様が辛い思いをした─と、悔いていた菊花。そのお礼をしないとなぁ?

『その左肩の傷は、俺の赦しが無い限り完治する事は無い。昼間は“傷痕”のようになり痛みも無いが、日が沈み夜が訪れると、またその傷から血が流れて痛みを伴う。』

「──なっ……」

馬鹿騎士は、痛みからなのか恐怖からなのかは分からないが、顔色を悪くしてガタガタと震えている。

『誰も、お前を哀れんだり助けてくれる者など居ないからな?お前が、ウィステリア様を魔犬の餌とした時に、お前は人間ひとではなくなり、お前の運命が決まったんだよ。』


菊花は優しい。
千代様は、菊花が犬に慣れるようにと妖犬である俺を呼び寄せたと言っていたが──

おそらく、俺がこう言う行動を取るだろうと予測していたんだろう。

ー俺が、菊花を気に入っている事に気付いているしー

本当に、千代様は計算高い主だ。まぁ、それだけ、今回の事はキレている─と言う事だろう。そんな主の思惑に、有難く便乗させてもらう。

『生きて………に還れると…良いな?』

「───っ!」

パッ─と髪を掴んでいた手を離すと、馬鹿騎士は血の滲んでいる左肩を押さえながら、床に崩れ落ちた。










翌日──


『深影、今日は…機嫌が良いのね?』

『ん?そう──かもな。』

『?』

眉間に皺を寄せながら、不思議そうな顔で俺に威嚇をしているの菊花が、今日も本当に可愛らしい。

ーさて、この狐をどうしてやろうか?ー

と思いながら、俺は取り敢えず、今日も可愛い菊花きつねを見守る事にした。









『菊花も、質の悪い深影ものに好かれてしまったわね』

と、千代はこっそり呟いた。







しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

処理中です...