上 下
51 / 82
二度目の召喚

丑三つ時

しおりを挟む


❋番外編置き場に投稿予定でしたが、“ぬるい”と意見をいただいたので、本編に投稿させていただきました。菊花、参ります(笑)❋








*菊花視点*



「大福より甘いわ」





私が、ついうっかり落としてしまった……第一王女だったアリシア馬鹿女。ソレを、喜々として拾ったのは、リジー改め─莉子りこだった。

女魔導士リジーは、馬鹿女に嵌められたとは言え、禁忌である召喚魔法を使った─と言う事で、元の世界での転生は不可能だった為、魔法のないこちら側の世界への転生となった。後は、こちら側に慣れるかどうかだったけど───

莉子は逞しかった。

魔導士としての矜持はあったが、魔法や魔力に関してはバッサリと捨て去り、今ではこの世界に馴染みまくっている。
そして今、あの馬鹿女をジワジワとゆっくりと精神的に追い詰めていっている。日に日に影を落していく馬鹿女を目にするのは愉しいが───


「やっぱり、大福より甘いわよね。」

それも、ある程度は仕方無い。貴族社会のある向こうは、“やられたらやり返せ”的な風潮があるが、こちらでは「はいそうですか─」と言ってやる事はできない。

「………」



“妖の路”であれば───問題無いだろう。









******


『私が大切にしていたビー玉が、三つ足りないのよね……』

「───だっ…だから、何なの!?ビー玉って…何!?」

目の前に居る馬鹿女は、顔はそのままだが、日本に馴染むように髪と瞳を黒色に変えている。
その馬鹿女は、相変わらずの態度と口調である。

そんな馬鹿女を、夜中の2時少し前に呼び出した。

「私達妖が通る路があってね?その路を歩いている時に、ビー玉を落としてしまったみたいなの。」

「それは…探すのが大変ね。頑張って探せばいいわよ」
「そうね、頑張って探して来てくれるかしら?」
「は?探して──って、この私が!?」
「ふふっ。おかしい事を訊くのね?お前以外に誰が居るの?頭だけじゃなくて、目もおかしいのね?」
「──なっ!私─を誰だと!」
「身分を剥奪されて存在を消される予定の女──だと認識しているけど……間違ってるかしら?」
「────なっ…なっ……」

口をパクパクする様は、馬鹿女に阿呆さが加わった感じで面白い。

「兎に角、お前には今からビー玉を三つ探して来てもらうわ。色は、赤、青、紫。たまに緑のモノもあるけど、緑色は要らない。」

みどり色は、大嫌いな色だー

「これが大事なんだけど、本来“妖の路”は妖しか通ってはいけない路なの。そこに人間が居ると分かれば───ペロリと……食べられてしまうの。なんなら……争奪戦が起こって……体が……ね?ふふっ」

「…………」

目の前の馬鹿女の顔が、一気に青白くなる。

「だから、お前には周りから妖に見えるように妖術を掛けてあげる。ただし。一言でも声を出せば、その妖術は解けてしまうから、何があっても声は出さないように。最後に、時間は丑三つ時─2時から2時半の間の30分だけ。その間に戻って来ないと……もう二度と、人間ひとの世界には戻って来れないから。必ず、通った路は覚えておくこと。」

「30分!?ビー玉を探しながら路も覚えろですって!?無理に決まっているわ!」

「またまたおかしい事を言うのね。無理だと知っていたのにやらせたのは、お前だったわよね?お前に拒否権も選択肢も無いわ。あぁ、時間になったわ。」

パチン─と指を弾いて2枚の鏡を呼び出す。

「さぁ、これが“妖の路”への入り口よ。しっかり口を閉じて───行ってらっしゃい。」

またパチン─と指を弾いて馬鹿女が口を開く前に送り出した。











*アリシア視点*



ー何故、この私が使用人みたいな事をしなければいけないの!?ー

あの女─キツネがパチンと指を鳴らしたかと思えば、景色は一転した。
足下にくすんだような白色に薄っすら輝く細い路があり、両サイドは暗闇だけが広がっている。前だけを見て歩かなければ、その暗闇に吸い込まれてしまいそうだった。

ーこれだけ路が光っているなら、ビー玉とやらは直ぐに見付かるかもしれないわねー

そう思いながら、私は慎重に前へと歩みを進めた。









『今日は人間の先輩が──』
『そう言えば、猫又が──』

「──っ!!」

時折通り過ぎて行く異形の生き物。それを目にする度に悲鳴を上げそうになり、グッと我慢をする。
この15分程で赤と青のビー玉を見付けた。後は、紫のビー玉だけ。

ウィステリア──

何て腹立たしい…忌々しい色だろう。あんな色…手にするのも嫌で虫唾が走る程。

ー見付けたら…粉々にしてやるわー

と、思っていると紫のビー玉が目に入った。

ーこれで、引き返せば時間以内に戻れるー

そう思いながら、私はその紫に手を伸ばす。

『このビー玉、お前さんのかい?』

ーえ?ー

私の代わりに、その紫を拾ったのは──

大きな顔なのに目が一つしかなく、顔から両手と足が1本だけ生えている生き物?だった

「───ひぃ────っ!!」

慌てて両手で口を押さえたけど、遅かった。

『お前…人間か!?』

ーバレた!?ー

私はその生き物から紫を奪い取ると、すぐさま踵を返して走り出した。






ーはぁはぁ───苦しいー

『待て!』

どれ程走ったのか。走れば走る程、追い掛けて来る異形の生き物が増えていく。
どれだけ走っても出口が見えない。

ー路を……間違えた!?ー

「──あっ!」

もう限界だった。こんなに走った事なんてない。追われた事もない。危険に晒された事なんてなかった。
足がもつれてしまい、その場に倒れ込む。

「誰か!助けて!」

手にあるのは、赤と青と紫のビー玉だけ。投げたところでどうにもならないだろう。

『久し振りの人間だな───』

そう言って、ニタリ─と嗤う異形の生き物達。
恐怖で声すら出せない。動けない。

「…………」

『さぁ、皆でか──』

と言われたところで、私の意識は途絶えた。





パチン───











*菊花視点*



意識を失い横たわっている馬鹿女の手には、赤青紫のビー玉があった。勿論、緑は無い。

『ふん。これで……醤油煎餅位の仕置きにはなったかしら?』

三つのビー玉をその手の中から取り上げる。



『私達がのは、この色達だけ…緑もお前も…………だけよ…………』



パチン─と指を鳴らせば、もうそこに、アリシアの姿は無かった。






そのアリシアは、朝には布団の中で目を覚まし、震える体を押さえながら、その日も莉子と共に仕事場へと向かった。











❋本編は、いつも通り、夜に更新予定です。そちらも、宜しくお願いします❋




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

魔法使いの恋

みん
恋愛
チートな魔法使いの母─ハル─と、氷の近衛騎士の父─エディオル─と優しい兄─セオドア─に可愛がられ、見守られながらすくすくと育って来たヴィオラ。そんなヴィオラが憧れるのは、父や祖父のような武人。幼馴染みであるリオン王子から好意を寄せられ、それを躱す日々を繰り返している。リオンが嫌いではないけど、恋愛対象としては見れない。 そんなある日、母の故郷である辺境地で20年ぶりに隣国の辺境地と合同討伐訓練が行われる事になり、チートな魔法使いの母と共に訓練に参加する事になり……。そこで出会ったのは、隣国辺境地の次男─シリウスだった。 ❋モブシリーズの子供世代の話になります❋ ❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただけると幸いです❋

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

双子の姉妹の聖女じゃない方、そして彼女を取り巻く人々

神田柊子
恋愛
【2024/3/10:完結しました】 「双子の聖女」だと思われてきた姉妹だけれど、十二歳のときの聖女認定会で妹だけが聖女だとわかり、姉のステラは家の中で居場所を失う。 たくさんの人が気にかけてくれた結果、隣国に嫁いだ伯母の養子になり……。 ヒロインが出て行ったあとの生家や祖国は危機に見舞われないし、ヒロインも聖女の力に目覚めない話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ヒロイン以外の視点も多いです。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/3/6:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

【完結】前世聖女の令嬢は【王太子殺害未遂】の罪で投獄されました~前世勇者な執事は今世こそ彼女を救いたい~

蜜柑
恋愛
エリス=ハウゼンはエルシニア王国の名門ハウゼン侯爵家の長女として何不自由なく育ち、将来を約束された幸福な日々を過ごしていた。婚約者は3歳年上の優しい第2王子オーウェン。エリスは彼との穏やかな未来を信じていた。しかし、第1王子・王太子マーティンの誕生日パーティーで、事件が勃発する。エリスの家から贈られたワインを飲んだマーティンが毒に倒れ、エリスは殺害未遂の罪で捕らえられてしまう。 【王太子殺害未遂】――身に覚えのない罪で投獄されるエリスだったが、実は彼女の前世は魔王を封じた大聖女・マリーネだった。 王宮の地下牢に閉じ込められたエリスは、無実を証明する手段もなく、絶望の淵に立たされる。しかし、エリスの忠実な執事見習いのジェイクが、彼女を救い出し、無実を晴らすために立ち上がる。ジェイクの前世は、マリーネと共に魔王を倒した竜騎士ルーカスであり、エリスと違い、前世の記憶を引き継いでいた。ジェイクはエリスを救うため、今まで隠していた力を開放する決意をする。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

処理中です...