上 下
49 / 82
二度目の召喚

平穏な日常

しおりを挟む
ブランが居なくなってから3ヶ月。
寂しいな…と思う事もあるが、そんな時はキッカさんとイチコとニコが狐になって一緒に寝てくれた。必ず、右側にイチコ、左側にニコ、足元にキッカさんが寝転び、三つの尻尾を必ず私の足にフサフサしながら眠る。それがまた───とても気持ち良い。

そして、ルーファスさんとは週に1、2回会っている。1度目にトラブルはあったものの、あれ以降は平穏な日々が続いている。

元凶だったエメラルドはと言うと、あの日以降は静かにしているとの事だった。

『嵐の前の静けさ─じゃなければ良いけどね』と言ったのはアレサンドル様。



ーフラグを立てるのは止めて下さいー






今日は、ルーファスさんと一緒に、王都の中心から少し外れた所にある観光スポットにやって来た。

「湖の色が……虹色に輝いてる───」

今迄も、この世界に来てから湖や川や海も見て来たけど、こんなファンタジー要素たっぷりの湖を目にしたのは初めてだ。

「ここは、“女神の湖”と呼ばれていて、この湖に女神アイリーン様が住んでいると言われているんだ。」

ーここには居ませんよ?ー

とは言わないでおこう。言っちゃいけないやつだよね?はい。この世界の人達の夢は壊しません。
とは言え、本当に不思議な湖な事には変わりない。どう言う原理で七色に輝いているのか──湖に近付いてソロソロと湖面を覗き込んで見ると、七色に輝いているのに、湖水は透明度が高く透き通っていて中で泳いでいる魚もよく見える。

ーわぁ…色んな色の魚が居る!ー

と、更に身を乗り出した時

「ぅえっ──」

お腹にルーファスさんの腕が回されて、そのままグイッと持ち上げられた。

「えっ!?持ち上げられたって…え!?」

「この湖に落ちたら最後、二度と上がっては来れない─と言われているんだ。」

焦る私を余所に、ルーファスさんはそのままの状態で、至って真面目に冷静に私に言い聞かせるように話し出した。

その昔、なんでも、この湖があまりにも綺麗で、この湖の中に入った人が居たそうだが、その人達は溺れたのかどうかも分からないが、そのまま湖底へと沈んでいき、それから二度と上がって来なかったそうだ。

ーえ、何ソレ!?ホラーじゃないの!?それなのに、“女神の湖”って矛盾してませんか!?ー

「な……なるほど?世界が違っても綺麗なモノには…やっぱり問題トゲがあるんですね?」

「少し意味は分からないが……そうだな。“見た目に惑わされるな”と言ったところだろうか?」

そう言って笑った後、ルーファスさんはソッと私を下ろして、お腹に回されていた腕も離してくれた。

「許可も無く抱き寄せてしまって…すまない。」

「──いえ、湖に落ちていたら大変でしたから……気にしないで下さい。」

そこに、下心が無い事は明白だ。
と言うか──

最近のルーファスさんは、私から一線引いている感じがするのは……気のせいではないだろう。
相変わらず、砂糖口撃と顔面攻撃は続いてはいるけど、必要以上に、私の領域?には入って来ない。
やっぱり、ルーファスさんは、私は元の世界に還ると思っているんだろう。事実、私は還ろうと思っているから。
ルーファスさんの事は…好き…なんだと思うけど、やっぱりどうしたって、私は家族を捨て切れないのだ。

ー何故、再召喚されてしまったんだろうー

されてなかったら、こんな思いをする事もなかったのになぁ。4年経っても忘れられてはなかったけど、少しずつ風化はしていた筈だ。
本当に、日本でもこの世界でも、ちっとも私には優しくない。やっぱり“顔面偏差値=運”なのかもしれない。

ー私、そろそろ女神様達に文句を言っても良いんじゃないかなぁ?ー

そう思うと自然とムッとした顔になっていたようで、「────ふっ」と、ルーファスさんが、思わず─と言った感じで吹き出した。

「何か面白い事でもありましたか?」
「いや……ウィステリア殿の……百面相が面白かっただけだ。」
「百面相………」

どうやら、色々考えていた事が顔に出ていたらしい。

「ゔー……すみません。少し……不思議な湖について色々考えてしまってました。」
「──そうか。」

私の誤魔化した答えに、ただただ笑うルーファスさんがいた。






そんな、ちょっぴりセンチメンタル?な私になってしまったけど、その湖の近くにあるカフェでケーキを食べれば………気分も上昇。何とも欲に素直な私である。

ーうんうん。ちゃんと楽しまないとねー

そのカフェを出てからは、その湖の近くにある庭園を見て回ってから王都へと戻って来た。

「ルーファスさん、今日もありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとう。」

いつも夕方にはお別れをする。最近では少し………少しだけ、この時が寂しいな─と思う自分が居るけど─

「次は、来週になると思うけど、また付き合ってもらえるかな?」

「はい、来週、また宜しくお願いします。連絡……待ってます。」

こうやって、次の約束ができると、また気分は上昇してしまうのだ。




本当に、単純なヤツだな─と思う今日この頃です。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

双子の姉妹の聖女じゃない方、そして彼女を取り巻く人々

神田柊子
恋愛
【2024/3/10:完結しました】 「双子の聖女」だと思われてきた姉妹だけれど、十二歳のときの聖女認定会で妹だけが聖女だとわかり、姉のステラは家の中で居場所を失う。 たくさんの人が気にかけてくれた結果、隣国に嫁いだ伯母の養子になり……。 ヒロインが出て行ったあとの生家や祖国は危機に見舞われないし、ヒロインも聖女の力に目覚めない話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ヒロイン以外の視点も多いです。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/3/6:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

魔法使いの恋

みん
恋愛
チートな魔法使いの母─ハル─と、氷の近衛騎士の父─エディオル─と優しい兄─セオドア─に可愛がられ、見守られながらすくすくと育って来たヴィオラ。そんなヴィオラが憧れるのは、父や祖父のような武人。幼馴染みであるリオン王子から好意を寄せられ、それを躱す日々を繰り返している。リオンが嫌いではないけど、恋愛対象としては見れない。 そんなある日、母の故郷である辺境地で20年ぶりに隣国の辺境地と合同討伐訓練が行われる事になり、チートな魔法使いの母と共に訓練に参加する事になり……。そこで出会ったのは、隣国辺境地の次男─シリウスだった。 ❋モブシリーズの子供世代の話になります❋ ❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただけると幸いです❋

【完結】前世聖女の令嬢は【王太子殺害未遂】の罪で投獄されました~前世勇者な執事は今世こそ彼女を救いたい~

蜜柑
恋愛
エリス=ハウゼンはエルシニア王国の名門ハウゼン侯爵家の長女として何不自由なく育ち、将来を約束された幸福な日々を過ごしていた。婚約者は3歳年上の優しい第2王子オーウェン。エリスは彼との穏やかな未来を信じていた。しかし、第1王子・王太子マーティンの誕生日パーティーで、事件が勃発する。エリスの家から贈られたワインを飲んだマーティンが毒に倒れ、エリスは殺害未遂の罪で捕らえられてしまう。 【王太子殺害未遂】――身に覚えのない罪で投獄されるエリスだったが、実は彼女の前世は魔王を封じた大聖女・マリーネだった。 王宮の地下牢に閉じ込められたエリスは、無実を証明する手段もなく、絶望の淵に立たされる。しかし、エリスの忠実な執事見習いのジェイクが、彼女を救い出し、無実を晴らすために立ち上がる。ジェイクの前世は、マリーネと共に魔王を倒した竜騎士ルーカスであり、エリスと違い、前世の記憶を引き継いでいた。ジェイクはエリスを救うため、今まで隠していた力を開放する決意をする。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

処理中です...