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二度目の召喚

エメラルドとウィステリア

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マグカップのお会計を済ませ、ルーファスさんの方へと振り返ると、ルーファスさんが誰かと話しをしている姿が見えた。
邪魔をしない方が良いかな?と思い、その場で暫く様子を見ることにした。

相手は金髪の女性で──


「それと、“ルー様”と呼ぶのは…止めてもらいたい。勘違い……されたくないので………」
「勘…違い?」

ーこの声は………ー

よく見ると、その女性の少し後ろに護衛らしき人が2人居て、ルーファスさん達のやり取りを、店内の人達もチラチラと見ていて目立っている。

はぁ─と、軽く息を吐いて…

ーできれば会いたくなかったけど……ー

「エメラルド…」

と、声を掛けた。








『ここでは目立つから、場所を移動しよう』と言う事でやって来たのは、王家御用達の宝石店内にある個室だった。そこは防音等の魔法が掛けられていて、時折王族と商談する際に使用されたりもするらしく、アレサンドル様専属の近衛であるルーファスさんも何度か入った事があり、今回、ここにやって来たと言う事だった。
部屋の中にはエメラルドとルーファスさんと私の3人だけで、護衛の人達は外で待機してもらっている。その護衛の人達も、外での待機を最初は渋ってはいたが、『機密事項の話が関わるから』と言えば、それに従うしかなかった。


私とエメラルドがテーブルを挟んで向かい合うように座り、ルーファスさんは私の隣に、一人分空けて座っている。エメラルドは、そのルーファスさんを寂しそうな目で見た後、私の方へと視線を向けた。

「……ウィステリアは……日本に還ったんじゃなかったの?」

「色々あって……ここに戻って来てしまったの。」

この言い方だと、エメラルドは、王女アリシア様がした事を知らないのだろう─と思い、チラッとルーファスさんに視線を向けると、ルーファスさんは黙ったまま軽く頷いた。

ー何も知らされていない─と言うのも…ー

エメラルドは、“聖女だから”と言う理由だけで護られている─護られているだけで、周りで何が起こっているのか知らされず、本人も知ろうとはしないのだろう。自分を大事にしてくれたアリシア様が居なくなったにも関わらず、居なくなった理由さえも知らないのだ。その上、ルーファスさんに対する気持ちや態度も、4年前と全く変わっていないように見える。
儚げな容姿とは反対に、ある意味メンタルは最強なんじゃないだろうか?

「どうして戻って来たの?」

ーそれは、こっちが訊きたいー

「また、還れる…還るんだよね?」

ー1年は還れないけどー

何とも返答に困る質問だな─と思っていると

「久し振りに会った同郷の者に対して掛ける言葉が…それなんだな。」

と、ルーファスさんが思わずと言った感じで呟いた。

「バーミリオン殿やアズール殿は、ウィステリア殿の事をとても心配していたが…エメラルド殿は、心配する事もないし、会えた事を喜ぶ事もないんだな。」

そう言うルーファスさんは、いつものルーファスさんとは違い、全く笑っていない─寧ろ、冷たく感じる程の目をエメラルドに向けている。

「心配はしてます。でも…また還るかどうかが気になっただけで……」

エメラルドは、私に“還って”と思っているんだろう。そこまで嫌われていると分かれば、もう、私から歩み寄る事はしないし、何も話す事はない。

「還る、還らない─は、エメラルドあなたには関係無い事よ。」
「え?」

ハッキリと拒絶の言葉を告げる。

「だって、そうでしょう?先に、私達…私を見捨てたのは貴方の方だった。そんな貴方に、私がこれからどうするかなんて、貴方に言う必要は無いよね?」

「見捨てたなんて…そんな言い方…私だって、独りで……」

「確かに、今思うとあの訓練のやり方はどうなのか?って思うけど、それは理由にはならない。それなら、アズールさんだって独りだった。私にはバーミリオンさんが居たけど、独りじゃないから……虐げられても良いって訳じゃない。それとも、虐げられても、独りじゃないから問題無い、女魔導士は傷付かないとでも思った?」

“女魔導士は強い”─確かに、一般的な女性と比べれば、魔力にも武にも長けているから強いんだろう。だからと言って、何をされても言われても平気と言う訳じゃない。

「女魔導士は、自分が努力して頑張って手に入れたモノであって、女のくせに─と蔑まれたりする謂れは無いわ。」

「そんな事…思ってない…ただ…ウィステリアには皆が居るから大丈夫だと……」

ーいや、それ、否定しといて認めてるからね?ー

目の前に居るエメラルドは、あくまでも被害者面で、今にでも泣きそうな顔をしている。
ここに、あの騎士達が居たら、今、私は彼等から総口撃を喰らっていただろう。
エメラルドは、“悲劇のヒロインヨロシク”状態なんだろう。そんなエメラルドには、きっと、何を言っても理解される事はないだろう。理解してもらわなくても良いか─とさえ思えて来た。つまり──

ーもう、どうでも良いー

余程、私の顔があからさまに呆れ顔になっていたのか「ウィステリア殿、顔に出過ぎだ」と、ルーファスさんに笑われた。

「───何で……ルー様は……ウィステリアなんかに…微笑むの?」

ー“”とは………何だ?ー

私達の目の前には、儚げに涙を流し出したエメラルドが居た。



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