44 / 82
二度目の召喚
エメラルドとウィステリア
しおりを挟むマグカップのお会計を済ませ、ルーファスさんの方へと振り返ると、ルーファスさんが誰かと話しをしている姿が見えた。
邪魔をしない方が良いかな?と思い、その場で暫く様子を見ることにした。
相手は金髪の女性で──
「それと、“ルー様”と呼ぶのは…止めてもらいたい。勘違い……されたくないので………」
「勘…違い?」
ーこの声は………ー
よく見ると、その女性の少し後ろに護衛らしき人が2人居て、ルーファスさん達のやり取りを、店内の人達もチラチラと見ていて目立っている。
はぁ─と、軽く息を吐いて…
ーできれば会いたくなかったけど……ー
「エメラルド…」
と、声を掛けた。
『ここでは目立つから、場所を移動しよう』と言う事でやって来たのは、王家御用達の宝石店内にある個室だった。そこは防音等の魔法が掛けられていて、時折王族と商談する際に使用されたりもするらしく、アレサンドル様専属の近衛であるルーファスさんも何度か入った事があり、今回、ここにやって来たと言う事だった。
部屋の中にはエメラルドとルーファスさんと私の3人だけで、護衛の人達は外で待機してもらっている。その護衛の人達も、外での待機を最初は渋ってはいたが、『機密事項の話が関わるから』と言えば、それに従うしかなかった。
私とエメラルドがテーブルを挟んで向かい合うように座り、ルーファスさんは私の隣に、一人分空けて座っている。エメラルドは、そのルーファスさんを寂しそうな目で見た後、私の方へと視線を向けた。
「……ウィステリアは……日本に還ったんじゃなかったの?」
「色々あって……ここに戻って来てしまったの。」
この言い方だと、エメラルドは、王女アリシア様がした事を知らないのだろう─と思い、チラッとルーファスさんに視線を向けると、ルーファスさんは黙ったまま軽く頷いた。
ー何も知らされていない─と言うのも…ー
エメラルドは、“聖女だから”と言う理由だけで護られている─護られているだけで、周りで何が起こっているのか知らされず、本人も知ろうとはしないのだろう。自分を大事にしてくれたアリシア様が居なくなったにも関わらず、居なくなった理由さえも知らないのだ。その上、ルーファスさんに対する気持ちや態度も、4年前と全く変わっていないように見える。
儚げな容姿とは反対に、ある意味メンタルは最強なんじゃないだろうか?
「どうして戻って来たの?」
ーそれは、こっちが訊きたいー
「また、還れる…還るんだよね?」
ー1年は還れないけどー
何とも返答に困る質問だな─と思っていると
「久し振りに会った同郷の者に対して掛ける言葉が…それなんだな。」
と、ルーファスさんが思わずと言った感じで呟いた。
「バーミリオン殿やアズール殿は、ウィステリア殿の事をとても心配していたが…エメラルド殿は、心配する事もないし、会えた事を喜ぶ事もないんだな。」
そう言うルーファスさんは、いつものルーファスさんとは違い、全く笑っていない─寧ろ、冷たく感じる程の目をエメラルドに向けている。
「心配はしてます。でも…また還るかどうかが気になっただけで……」
エメラルドは、私に“還って欲しい”と思っているんだろう。そこまで嫌われていると分かれば、もう、私から歩み寄る事はしないし、何も話す事はない。
「還る、還らない─は、エメラルドには関係無い事よ。」
「え?」
ハッキリと拒絶の言葉を告げる。
「だって、そうでしょう?先に、私達…私を見捨てたのは貴方の方だった。そんな貴方に、私がこれからどうするかなんて、貴方に言う必要は無いよね?」
「見捨てたなんて…そんな言い方…私だって、独りで……」
「確かに、今思うとあの訓練のやり方はどうなのか?って思うけど、それは理由にはならない。それなら、アズールさんだって独りだった。私にはバーミリオンさんが居たけど、独りじゃないから……虐げられても良いって訳じゃない。それとも、虐げられても、独りじゃないから問題無い、女魔導士は傷付かないとでも思った?」
“女魔導士は強い”─確かに、一般的な女性と比べれば、魔力にも武にも長けているから強いんだろう。だからと言って、何をされても言われても平気と言う訳じゃない。
「女魔導士は、自分が努力して頑張って手に入れたモノであって、女のくせに─と蔑まれたりする謂れは無いわ。」
「そんな事…思ってない…ただ…ウィステリアには皆が居るから大丈夫だと……」
ーいや、それ、否定しといて認めてるからね?ー
目の前に居るエメラルドは、あくまでも被害者面で、今にでも泣きそうな顔をしている。
ここに、あの騎士達が居たら、今、私は彼等から総口撃を喰らっていただろう。
エメラルドは、“悲劇のヒロインヨロシク”状態なんだろう。そんなエメラルドには、きっと、何を言っても理解される事はないだろう。理解してもらわなくても良いか─とさえ思えて来た。つまり──
ーもう、どうでも良いー
余程、私の顔があからさまに呆れ顔になっていたのか「ウィステリア殿、顔に出過ぎだ」と、ルーファスさんに笑われた。
「───何で……ルー様は……ウィステリアなんかに…微笑むの?」
ー“なんか”とは………何だ?ー
私達の目の前には、儚げに涙を流し出したエメラルドが居た。
64
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
【完結】前世聖女の令嬢は【王太子殺害未遂】の罪で投獄されました~前世勇者な執事は今世こそ彼女を救いたい~
蜜柑
恋愛
エリス=ハウゼンはエルシニア王国の名門ハウゼン侯爵家の長女として何不自由なく育ち、将来を約束された幸福な日々を過ごしていた。婚約者は3歳年上の優しい第2王子オーウェン。エリスは彼との穏やかな未来を信じていた。しかし、第1王子・王太子マーティンの誕生日パーティーで、事件が勃発する。エリスの家から贈られたワインを飲んだマーティンが毒に倒れ、エリスは殺害未遂の罪で捕らえられてしまう。
【王太子殺害未遂】――身に覚えのない罪で投獄されるエリスだったが、実は彼女の前世は魔王を封じた大聖女・マリーネだった。
王宮の地下牢に閉じ込められたエリスは、無実を証明する手段もなく、絶望の淵に立たされる。しかし、エリスの忠実な執事見習いのジェイクが、彼女を救い出し、無実を晴らすために立ち上がる。ジェイクの前世は、マリーネと共に魔王を倒した竜騎士ルーカスであり、エリスと違い、前世の記憶を引き継いでいた。ジェイクはエリスを救うため、今まで隠していた力を開放する決意をする。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
魔法使いの恋
みん
恋愛
チートな魔法使いの母─ハル─と、氷の近衛騎士の父─エディオル─と優しい兄─セオドア─に可愛がられ、見守られながらすくすくと育って来たヴィオラ。そんなヴィオラが憧れるのは、父や祖父のような武人。幼馴染みであるリオン王子から好意を寄せられ、それを躱す日々を繰り返している。リオンが嫌いではないけど、恋愛対象としては見れない。
そんなある日、母の故郷である辺境地で20年ぶりに隣国の辺境地と合同討伐訓練が行われる事になり、チートな魔法使いの母と共に訓練に参加する事になり……。そこで出会ったのは、隣国辺境地の次男─シリウスだった。
❋モブシリーズの子供世代の話になります❋
❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただけると幸いです❋
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
王太子妃候補、のち……
ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる