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二度目の召喚
バーミリオンとエメラルド
しおりを挟む約束の時間にやって来たのは、バーミリオンだけだった。
「エラが聞いたら、暴れるかもしれないから─」
と苦笑するバーミリオン。やはり、バーミリオンがエメラルド殿に訊きたい事とは、ウィステリア殿の事だった。エラ殿は、同じ女魔導士として、どんな扱いをされても文句一つ言わず、黙々と魔法の訓練を受けていたウィステリア殿の事を、妹のように見守っていた。
ーいや、何人かの脳筋騎士には制裁を加えていたなー
そんなエラ殿が、エメラルド殿の答え次第ではおとなしくしていないだろう─と、バーミリオンは判断したんだろう。エラ殿は、メイナードと並ぶ程の魔導士だからなぁ…。
バーミリオンとエメラルド殿は同郷であり、同じ召喚された者にも関わらず、あの浄化の旅が終わってから4年の間、会ったのは数回だけで、今日のようにまともに会話をするのは、旅以降初めてで緊張するな─と笑っていた。
ひょっとすると、こう言う関係になってしまったのも、妹だったアレのせいなのかもしれないと思うと、申し訳無い気持ちになった。
「アレサンドル様、お越しいただき、ありがとうございます。た……バーミリオンさん…お久し振りです。」
「こんにちは、エメラルドさん。本当に…久し振りだね。」
直前ではあったが、連絡を入れてあった為、すでに3人分のクッキーなどが用意されていて、3人が椅子に座ると紅茶が出され、お茶の用意が終わると女官達は部屋から出て行き、近衛達も扉の外へと出てもらい、部屋には3人だけになった。
先ずは私から名前を取り戻せたか?と訊くと、エメラルド殿も取り戻していた事が分かった。
「今から話す事は、他言無用でお願いする。」
と前置きをしてから、妹だったアリシアについての話をした。勿論、ウィステリア殿が再召喚された事、今現在王都に居る事は伏せておく。
話を進めれば進める程、エメラルド殿の顔色は悪くなっている事が分かる。そして、そのエメラルド殿を、何も言わずじっと見据えているバーミリオン。
「──と言う事で、アリシアは一生涯の幽閉となった。」
ー実際は、キッカ殿がどこかへ連れて行ってしまったがー
「そんな…シアが………」
「………」
王女と平民で“シア”“エメ”と呼び合う程の仲の良かった2人。同郷であるバーミリオンとの距離の方が遠く見える。いや、実際に遠いのだろう。
「エメラルド……俺は…ずっと訊きたかった事があるんだけど…」
と、バーミリオンが口にすると、エメラルド殿は肩をビクッと震わせた。
「俺達4人は、もともと友達どころか、知り合いでもなくて…同じ学校に通ってて、あの日偶然図書室に居合わせただけの4人だったけど──」
ーえ?そうなのか!?友達でもなかったのか!?ー
「この世界では、たった4人だけの同郷人だろう?なのにさぁ……エメラルドは、ウィステリアの置かれていた境遇を見ていて、何も思わなかったのか?」
やはり、バーミリオンが訊きたかった事はウィステリア殿の事だった。
エメラルド殿は俯いたままで話し出した。
「聖女の訓練が始まってから暫くの間は、本当に何もかもがうまくいかなくて…でも、皆とはなかなか会えなくて…相談とか愚痴とか言える人も居なくて…そんな時は、いつもシアが側に居てくれて、励ましてくれてたの。」
そんなある日、訓練が休みでアリシアが公務で居なかった為、久し振りに皆に会おうと魔導士棟のある方へ向かったエメラルドが目にしたのは──
「ウィステリアとバーミリオンさんが、魔導士の人達と楽しそうに笑いながら…訓練をしていたの。」
『女魔導士なんて、可愛げがない』
『聖女様が居れば、救われる』
『聖女様だけでも──』
「何で、必要とされてる聖女が独りで、ウィステリアにはバーミリオンさん達が居て楽しそうなんだろう─って思ったの。」
その時は、複雑な気持ちになって、皆に声を掛けずに帰って来た。
それからも、皆には気不味くて会えなくて……そうしているうちに、ウィステリアが騎士達から蔑ろにされている事に気が付いた。
「気が付いたけど……私………“私の孤独に比べたらマシじゃない?”って……思ってしまって……」
『そうよ、エメが気にしなくても、バーミリオン様や魔導士達が居るのだから、放っておいても大丈夫よ。』
『女魔導士は強いから大丈夫』
『エメは、私と一緒に居れば大丈夫』
「それで、私……ルー様が好きになって………シアは私との仲を取り持ってくれたけど、ルー様はウィステリアを目で追っていて……“何で?”って…“私の方が先に好きになったのに!”って」
だから、ウィステリアが日本に還ったって知った時は、本当に嬉しかったのに──
「ウィステリアは、ルー様の笑顔を奪って行った。私は……ウィステリアが………憎いけど…羨ましかった…嫌いだけど……羨ましいの………」
心がグチャグチャなの──
と言った後、エメラルド殿はポロポロと涙を流した。
「そっか────」
バーミリオンは一言、そう呟いただけで、後は何も言わなかった。
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