二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん

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二度目の召喚

優しい獣人

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ずっと我慢していた。

私が我慢していれば、平和にやり過ごせると思っていたから。
泣かなかったのは、泣いたところで何も変わらないと思っていたから。
喚かなかったのは、喚いたところで、誰も聞いてくれないと思ったから。





「ふぅ───」

一体、どれだけ泣いただろう?外には相変わらず、キラキラと満月の光が輝いていてる。泣いてスッキリしたせいか、同じ満月の筈なのに、さっきよりも奇麗な満月に見える。

ー私は…まだ頑張れるー

1人静かに決意していると─

『ノワール…おちついた?大丈夫?』
「─っ!ブラン!?」

狼姿のブランが、心配そうな顔をしながら私の方へとやって来た。

「ブラン、どうしてこんな時間にこんな所に?」
『ノワール、お腹空いてると思って…』

ブランが視線を向ける先には、パンの入っているカゴがあった。ソレは、キルソリアンの使用人が、狼獣人であるブランの為に用意した夜食だ。

ブランは私とは違って、子爵夫人であるシエンナ様をはじめ、使用人達からも好かれている。狼姿ではモフモフだし、人型になれば可愛いしかない。
そして、獣人は結構………かなり食欲旺盛で、基本1日4、5食食べるそうだ。ブランは3、4食でも大丈夫みたいだけど、『要らない』とは言わず『部屋で食べる』と言って用意された食事を受け取り、それを私にくれるのだ。
今日中には西の物置場の掃除が終わらないと分かっていたから、こうして持って来てくれたのだろう。まだまだ幼い子供なのに、ブランは本当に優しい。

「ブラン、ありがとう。」
『─ん。』






『姉ちゃん、コレ、あげる。』

『朋樹、ありがとう。大事に使わせてもらうね。』

『ん──』




ふと、朋樹と交した会話を思い出す。
そうか──ブランはツンデレではないけど、朋樹に似ているんだ。

「………」

『?どうしたの?ノワール、食べないの?』
お座りをしている狼がコテンと首を傾げている。

「ううん、何でもない。えっと…パン、もらうね。ありがとう。」

『ん』

ー私は無理だとしても、せめてブランだけでもー

私は、どうやったらブランの首に嵌められている枷を外せられるかを考えながら、もらったパンを食べた。









朝は屋敷の誰よりも早くに起きる──起きなければいけない。洗濯を任されているからだ。最初の頃は3人でしていたけど、いつの間にか1人でやらされるようになった。3人でしていて何とか午前中で終わるような作業を1人でするのだ。「1人では無理です」と言うと、同じ使用人の先輩に洗濯の水を掛けられ、「働かないならご飯は抜きよ」とシエンナ様から言われて、それ以降は1人でしている。

「あ、ごめんなさーい」と言いながらクスクスと目の前で笑っている2人の先輩。洗い終わったばかりの洗濯物が入った篭を地面にばら撒かれたのだ。

「………」

「お昼ご飯迄に終われば良いわね?」

2人の先輩は、そう言ってクスクスと笑いながら去って行った。

ー終わる訳ないよね?本当に…特にあの2人は…クズ…クズ以下だー

心の中で思いの丈の悪態をついた後、昼食を半ば諦めながら散らばった洗濯物を拾い集める。

「大丈夫?」

「あ…ケイティさん」

ケイティさん─シエンナ様付きの侍女の1人で、彼女は狐の獣人だ。琥珀色の髪と瞳で、少し釣り目の女の子。ブランと違って人型の時も耳も尻尾も無い。それどころか、この3ヶ月、ケイティさんが狐の姿になったところを見た事が無い。「本当に獣人?」と思ったりもするけど、ケイティさんの首にもあの枷が嵌められていると言う事は、そうなんだろう。

このケイティさんも、何かと私を助けてくれる。初めて会った時、とても驚いたような顔をされたけど…それ以降は、普通だったから気のせいだったかもしれない。

「私も手伝うから、急ぎましょう。何とか…昼食には間に合うわ。」

「ありがとうございます。」



シエンナ様や、屋敷の殆どの人は私に対して酷い態度をとってくるけど、こうやって、私を助けてくれる人も居る。いつか、ブランやケイティさんにこの恩を返す為にも……

ー絶対に…枷を外してやるわ!ー

改めて気合を入れ直し、ケイティさんと一緒に急いで洗濯を終わらせた。

なんとかギリギリ昼食に間に合い、食堂でご飯を食べている私を見て驚いていたあの2人の先輩の事は無視しました。









私に充てがわれている部屋は、住み込み使用人用の2階建ての屋敷の、2階の北側の一番奥にある。部屋には、ベッドと机と椅子が置かれていて、小さなクローゼットと暖炉が備え付けられている。

その部屋で、私は寝る前に30分から1時間程、魔力の流れを掴むトレーニングをしている。
一度目の召喚の時に、エラさんに教えてもらった基本の魔法トレーニングだ。なかなか流れを掴めない私に、エラさんは嫌な顔をする事無く、毎日トレーニングに付き合ってくれた。



『魔力は、焦れば焦る程流れが乱れるし掴めにくくもなるから、焦らずゆっくりやれば良い。最初は、できなくて当たり前なんだ。』



ー焦らない。ゆっくり…ゆっくりー


ここから抜け出せれば……また、エラさんにも会えるだろうか?



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