二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん

文字の大きさ
上 下
8 / 82
一度目の召喚

浄化の旅①

しおりを挟む
「なんだか、アズールさんとエメラルドの存在が…遠いね?」
「物理的にも心理的にも遠いな。」

もともと、旅に出る前から“聖女と剣士”と“魔導士”とでは扱いが違っていた。別に、蔑ろにされたりはしていないけど。エメラルドとアズールさんは常に中心に居る存在で、私達はモブのような存在。

ー目立つ事は嫌だから良いけどー

ただ、イケメン先輩のバーミリオンさんがモブ扱いなのは勿体無いよね─とは思っている。



そんな事を思ったりしていた日の夜─

いつもは直ぐに眠りに就けるのに、その日は何故か身体がゾワゾワして眠れなくて、無理に寝る事を諦めて、私専用の野営テントから出て夜空を眺める事にした。


少し歩いた先に川があり、その川辺にある岩に腰を下ろして空を見上げた。

「うわー」

夜空には沢山の星が輝いていた。

「スマホがあったら…思い出の1枚として撮ったのにな───っ!?」

そう呟いた時、川の中から嫌な感覚が這い上がって来た。私はサッと立ち上がり注意深く川を見ていると、水飛沫を上げながら、大きな蛇みたいな魔獣?が現れた。

「魔獣!?」

そのアナコンダみたいな魔獣が、ゆったりと鎌首をもたげた後、私へと視線を落とした。

ー落ち着け。大丈夫。焦るな。ちゃんと見極めろー

相手に恐怖心は絶対に見せない。狙うのは、相手が動いた瞬間だ。
暫く睨み合いが続いた後、その魔獣が大きく口を開けながら飛び掛かって来た。

その瞬間、溜めていた魔法で攻撃を仕掛ける。

『───ッ!シャアーッ!!』

その攻撃はバッチリ魔獣の目と喉?辺りに命中して、その魔獣がのたうち回り───

「え゙っ!?」

そのまま逃げるようにして向かった先には──

「エメラルドとアリシア様が居る方だよね!?」

ヤバい!─と思い追い掛けて、至近距離でもう一度攻撃魔法を放とうとした時、その魔獣の尻尾が私の左腕を叩き付けた。

「────いっ──────っ!」

思わず追い掛けていた足が止まってしまい、更に魔獣との距離が空いてしまった。

ー今更叫んでも…遅いよね!?ー

左腕の痛みをグッと我慢して呼吸を整えながら、左手に魔力を集める。そうして、魔力で弓─和弓─を創り上げる。次に右手に魔力を溜めて更に魔力を溜め込んだ矢を創り上げる。

狙うのは…頭──

焦らない──

見極めろ──

凪いだ気持ちで──



トンッ

と引かれた矢は、そのまま魔獣の頭に命中して、悲鳴?を上げる前に体全体が水の膜で覆われて──暫くするとその姿は霧散した。

「……やった!────っ!」

倒せた喜びの後、安心して足の力が抜けて地面に倒れ込む衝撃に目を瞑って備えると─

「大丈夫か!?」

その声と共に、誰かが私を抱き留めてくれた。

「──へっ?」

「助けられなくて……申し訳ない。気付いた時には…貴方があの魔獣に攻撃を放った後だった…。」

誰も居ないと思っていた。

「……ル……シーヴァー…さん?」

私を受け留めてくれていたのは、アリシア様の近衛騎士であるルーファス=シーヴァーさんだった。

「どうして、こんな時間に1人で?見張りの騎士ものは居ませんでしたか?」

“見張りの騎士もの

は確かに居る。居るには居るが……魔導士側のエリアには来ないのだ。野営をする時は、魔導士と騎士が交代で見張りをするのだけど……殆どの騎士は、私達─魔導士側のエリアを見回りに来る事が無いのだ。

『魔法で自分を護れるんだろう?』と言うのが、騎士達の主張なのだ。それに対し、私達魔導士側も『はい。できます。大丈夫です。』なんて答えたのだ。

ー子供の意地の張り合いか?ー

とは突っ込まなかった。魔導士と騎士とは…水と油なのか?
このシーヴァーさんやアズールさんと何人かの騎士は、魔導士側も見回りに来ているけど、殆どの騎士が来ていない事を知らないのかもしれない。

何も答えない私に、シーヴァーさんは溜め息を吐いた後、私の腕に手を添えて──

「──っっっ!!!!」

私は声にならない声を上げて、シーヴァーさんの手を思いっ切り……叩いてしまった。「ごめんなさい!」なんて謝るどころではない。さっきの魔獣にやられた所が一気に痛み出したと言うより、忘れていた痛みがぶり返したようだ。

「───すみま…せん…私、戻りますね。」

ー早くテントに戻って治療しないとー

痛みを堪えて歩み出すと、グイッと体が持ち上げられた。

「なっ!?」
「怪我を…してるんでしょう、薬師の所まで連れて行きます。少しだけ我慢して下さい。」

そう言って、私を抱き上げたまま、私に負担が掛からないように早歩きで、薬師の居るテント迄運んでくれた。



魔法で作られたポーションは凄い。あんなに痛くて腫れていた腕も、翌日の朝には少しの赤みを残しているだけで、痛みはスッカリ無くなっていた。
薬師とシーヴァーさんからは、色々とお説教を喰らってしまったけど、それは私の危機管理の無さ故なので、素直に受け止めて反省しました。



しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!

屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。 そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。 それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。 その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。 突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。 その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...