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プロローグ
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4年前の夏、私─神咲志乃は、淡い恋をした。
淡い恋──
見てるだけで終わってしまった─終わらせた。
全部、あっちに置いて来たと思っていた。
それに、彼は、私の名前すら知らないのだ。
あの出来事も、あの想いも全部夢だったんじゃないか─と、思える日が来ると思っていた。
あれから4年。16歳だった私も20歳になり、大学生になってから始めたバイトで貯めたお金で、なんとか一人暮らしができる目処がつき、大学3回生になる春に引っ越しをする事になった。その為、部屋の片付けをしている時に、忘れていた筈の記憶を呼び戻す物を目にしてしまったのだ。
赤色の宝石が煌めくピアス─
ルビーの様に赤くて煌めいているけど、ルビーではない。この世界には存在しない─魔石。
『ウィステリアは、いつも頑張ってるから』
「………」
ーあの優しい声が好きだったー
“誰にでも優しいでしょう?”
ーあの優しい目が好きだったー
“彼は、誰にでも優しいから”
4年前、全てを置いて来たつもりだったのに、このピアスだけがスカートのポケットに入っていたのだ。私のモノではないピアス。そもそも、私の耳にはピアスホールが無い。高校ではピアスは禁止だったし、大学生になっても穴を空けるのが怖くて…もう、ピアスは諦めた。だから、この4年、このピアスの存在なんてスッカリ忘れてた。
ーちょっぴり切ないけど…思い出?になったのかな?ー
チョンと、その赤色の魔石を指で軽くつついた後、もう一度小さな箱の中に仕舞い込んだ。
『見付けた────』
いよいよ明日は引っ越し─と言う前日の夜。
両親と弟の朋樹の4人で晩ご飯を食べた。両親は共働きで、晩ご飯は弟と2人だけで食べる事が殆どだったけど、「今日だけは!」と、両親共に早く帰って来てくれて久し振りに4人で食べる事ができて楽しかったし嬉しかった。
食後もリビングで4人で、お父さんが買って来てくれたケーキを食べながらいっぱい話をした。私達家族4人はとても仲が良い。「弟は生意気だ!」と、よく友達がキレたりしているけど、正直、ウチの朋樹は可愛い。ツンデレだけど可愛い─ツンデレだから可愛い。
いつもは素っ気ない態度だけど、家族の誕生日には必ずプレゼントをくれるし「疲れたなぁ」と思ったら、私の好きなアイスを買って来てくれたりする。
「姉ちゃん、コレ、あげる。」
と、今日もズイッと餞別として手渡されたのは、マグカップだった。私の好きなブランドの、私の好きな薄藤色。
「朋樹、ありがとう。大事に使わせてもらうね。」
「ん──」
ーよし、引っ越しして落ち着いたら、朋樹に何かお礼をしようー
そう思いながら、また4人でお喋りをした。
引っ越し当日は平日。流石の両親も仕事で朋樹も高校の部活がある為、「また落ち着いたら遊びに来てね」と声を掛けて、私が3人を見送った。
ー引っ越しと言っても、三つ隣の駅近くだから、いつでも会えるしねー
これが、最後の別れになるなんて……誰が思っただろう
ピンポーン
『こんにちはー、〇〇引っ越しです。』
「はーい、今すぐ行きまーす。」
約束の時間の少し前に引っ越し業者の人が来て、出迎える為に玄関へと向かう。
玄関でサンダルを履き、玄関扉の鍵に手を伸ばした時─
「え?」
目の前の景色が暗転したかと思うと、足下から光が溢れ出した。
「──なん……で!?」
ドクンッ─と、心臓が嫌な音を立てて騒ぎ出す。
私は、コレを知っている。知っているからこそ、何故コレがまた、私の身に起こっているのかが分からない。
『神咲さーん、いらっしゃいませんかー?』
真っ暗な空間にも関わらず、どこからか声だけが聞こえて来た。私は、縋る思いで声のする方へと手を伸ばし「助けて──」と、口を開きかけた時、浮遊感を感じて
ーあぁ、もう……駄目だー
伸ばした手から力が抜け、開き掛けた口を閉じて、その浮遊感に身を任せた。
淡い恋──
見てるだけで終わってしまった─終わらせた。
全部、あっちに置いて来たと思っていた。
それに、彼は、私の名前すら知らないのだ。
あの出来事も、あの想いも全部夢だったんじゃないか─と、思える日が来ると思っていた。
あれから4年。16歳だった私も20歳になり、大学生になってから始めたバイトで貯めたお金で、なんとか一人暮らしができる目処がつき、大学3回生になる春に引っ越しをする事になった。その為、部屋の片付けをしている時に、忘れていた筈の記憶を呼び戻す物を目にしてしまったのだ。
赤色の宝石が煌めくピアス─
ルビーの様に赤くて煌めいているけど、ルビーではない。この世界には存在しない─魔石。
『ウィステリアは、いつも頑張ってるから』
「………」
ーあの優しい声が好きだったー
“誰にでも優しいでしょう?”
ーあの優しい目が好きだったー
“彼は、誰にでも優しいから”
4年前、全てを置いて来たつもりだったのに、このピアスだけがスカートのポケットに入っていたのだ。私のモノではないピアス。そもそも、私の耳にはピアスホールが無い。高校ではピアスは禁止だったし、大学生になっても穴を空けるのが怖くて…もう、ピアスは諦めた。だから、この4年、このピアスの存在なんてスッカリ忘れてた。
ーちょっぴり切ないけど…思い出?になったのかな?ー
チョンと、その赤色の魔石を指で軽くつついた後、もう一度小さな箱の中に仕舞い込んだ。
『見付けた────』
いよいよ明日は引っ越し─と言う前日の夜。
両親と弟の朋樹の4人で晩ご飯を食べた。両親は共働きで、晩ご飯は弟と2人だけで食べる事が殆どだったけど、「今日だけは!」と、両親共に早く帰って来てくれて久し振りに4人で食べる事ができて楽しかったし嬉しかった。
食後もリビングで4人で、お父さんが買って来てくれたケーキを食べながらいっぱい話をした。私達家族4人はとても仲が良い。「弟は生意気だ!」と、よく友達がキレたりしているけど、正直、ウチの朋樹は可愛い。ツンデレだけど可愛い─ツンデレだから可愛い。
いつもは素っ気ない態度だけど、家族の誕生日には必ずプレゼントをくれるし「疲れたなぁ」と思ったら、私の好きなアイスを買って来てくれたりする。
「姉ちゃん、コレ、あげる。」
と、今日もズイッと餞別として手渡されたのは、マグカップだった。私の好きなブランドの、私の好きな薄藤色。
「朋樹、ありがとう。大事に使わせてもらうね。」
「ん──」
ーよし、引っ越しして落ち着いたら、朋樹に何かお礼をしようー
そう思いながら、また4人でお喋りをした。
引っ越し当日は平日。流石の両親も仕事で朋樹も高校の部活がある為、「また落ち着いたら遊びに来てね」と声を掛けて、私が3人を見送った。
ー引っ越しと言っても、三つ隣の駅近くだから、いつでも会えるしねー
これが、最後の別れになるなんて……誰が思っただろう
ピンポーン
『こんにちはー、〇〇引っ越しです。』
「はーい、今すぐ行きまーす。」
約束の時間の少し前に引っ越し業者の人が来て、出迎える為に玄関へと向かう。
玄関でサンダルを履き、玄関扉の鍵に手を伸ばした時─
「え?」
目の前の景色が暗転したかと思うと、足下から光が溢れ出した。
「──なん……で!?」
ドクンッ─と、心臓が嫌な音を立てて騒ぎ出す。
私は、コレを知っている。知っているからこそ、何故コレがまた、私の身に起こっているのかが分からない。
『神咲さーん、いらっしゃいませんかー?』
真っ暗な空間にも関わらず、どこからか声だけが聞こえて来た。私は、縋る思いで声のする方へと手を伸ばし「助けて──」と、口を開きかけた時、浮遊感を感じて
ーあぁ、もう……駄目だー
伸ばした手から力が抜け、開き掛けた口を閉じて、その浮遊感に身を任せた。
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