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☆異世界は大変☆
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回収し切れていなかった話がある事に、今更気が付きました。
∑(ºロºlll
少し長目ですが、今日と明日に分けて2話投稿します!
(A;´・ω・)アセアセ
❋❋❋❋❋❋❋❋
私の名前は、九十九 恵
ユーグレイシア王国では、メグ=ツクモで、聖女と呼ばれている。
日本での両親の記憶は殆ど無く、叔母の家族との記憶しかない。そこに、良い思い出は一つも無い。良い思い出として残っているのは、結星が私に声を掛けてくれた事だけ。ただ、それも……今となっては良い思い出なのかどうかも分からない。
********
「本当に、メグがユーグレイシアに還って来てから、色んな事があったわね……」
「ユラのお陰でね……」
「それだけじゃないからね!?」
「…………」
遠い目をしているのはモニカ=スタンホルス。
少し不思議そうな顔をしているのは、リュシエンヌ=ヴェルティル。
今日は久し振りに3人でお茶をしている。
「そりゃあ、ユラのお陰で本当に色々大変だったけど、本当に大変だったのは……リュシーが学校を卒業して居なくなってからだったのよ……」
「え?」
「そうだったね……」
今度は、モニカと一緒に私も遠い目になった。リュシーはキョトンとした顔をしている─にも関わらず綺麗な顔でついつい見惚れてしまう。
「あ、そう言えば、モニカもメグもアラール殿下も『色々大変だった』って言ってたわね?今迄聞けずにいたけど…一体何があったの?」
「もう、リュシーは“ヴェルティル”になったし、ぶっちゃけて良いと思うからぶっちゃけるわ!」
と、モニカと私はリュシーに、リュシーが卒業した後の話をし始めた。
******
あれは、リリアーヌ様達が卒業式を終えた数時間後の事だった。
モニカと私は、卒業のお祝いにと、花束を持ってリリアーヌ様達と約束をしていた場所─王城の応接室に行くと、そこには物凄い笑顔を浮かべたヴェルティル様と真っ青な顔をしたアラール様が対峙していて、そんな2人とは対象的に、リリアーヌ様とイーデン様が椅子に座って頭を抱えていた。
「カオス?」
「あの…何かあったんですか?出直した方が……」
モニカと私が退室しようとすれば
「2人とも、その椅子に座ってくれるかな?色々……訊きたい事があるから」
「「はい………」」
爽やかだけど爽やかではない笑顔を浮かべたヴェルティル様に誰も反抗できる筈もなく、私達はリリアーヌ様とイーデン様とは反対側の椅子に腰を下ろした。
「リュシエンヌが卒業して居なくなった!?」
ヴェルティル様から聞いて驚いた──のは、私だけだった。
「なるほど…ラインズリー嬢は知っていたんだな?」
「はい………」
リュシエンヌは後1年の学校生活があったけど、第二次成長期を迎え成人した為、学校を卒業してギルウィット辺境地の騎士団に入団する事にしたそうで、既にギルウィットへと出発した後なのだと言う事だった。
「リュシーから、『秘密にしておいて欲しい』と言われてましまから。それに、もともとリュシーは学校卒業後にギルウィットの騎士団に入団すると決めていたので、予定よりは早くなりましたけど、予定通りの事だったんです。聖女メグのサポートを途中で抜ける事に関して気にしていましたけど……」
「ヴェルティルは“文”の家門なんだ」
「はい?」
「その文の家門で、俺は唯一と言っても過言ではなく“武”に進んだのは……リュシエンヌ=クレイオン嬢の隣に立つ為なんだ」
「「…………は?」」
モニカと私の口から、間の抜けた言葉が出てしまったのは仕方無いと思う。
『隣に立つ』
その意味が分からない。だって、ヴェルティル様はリリアーヌ様と恋人同士で、そろそろ婚約間近では?なんて事まで言われている。なのに、何故そこにリュシエンヌが??
「すみません…まだこの世界に疎いのかもしれませんが…ユーグレイシアは一夫多妻制でした──」
「一夫一妻制だ!俺はクレイオン嬢だけだから!」
「「はい????」」
全く意味が分からないのは、モニカと私だけのようで、アラール様とイーデン様は頭を抱えたまま黙り込み、リリアーヌ様が何とか耐えるようにして私達に説明してくれたのは──
リリアーヌ様とヴェルティル様は、契約の恋人であって、3人が卒業した後、リリアーヌ様はイーデン様と婚約へと向かい、ヴェルティル様はリュシエンヌを囲い─リュシエンヌとの距離を詰めて行く予定だったそうだ。
ー異世界の貴族の恋愛は、色々大変で面倒くさいのねー
正直、恋愛をした事が無いし、今もする余裕はないから、恋心と言うかものがいまいち分からないけど、契約の恋人なんて誤解を招く事にしかならないのでは?と単純に思ってしまうのは、違う世界で育ったからだろうか?
「でも…リュシーは、リリアーヌ様とヴェルティル様の幸せを望んでいたから……」
「だからです。俺とリリアーヌの仲を信じたまま居なくなったから、俺の目の届かない所でクレイオン嬢に彼氏とか……ましてや番に出会おうものなら……」
『その相手をどうしてやろうか──』
なんて聞こえたような気もするけど、気のせいにしておいた方が良いよね?
「あの…でも……それって………」
「アラスター、お前がキレる筋合いはないだろう?」
「レイモンド」
「兄上!!」
呆れた顔をしてやって来たのは、ユーグレイシアの王太子レイモンド様だった。
「クレイオン嬢が辺境地へ行ったのは、彼女が騎士として成長する為だ。それを止める権利など誰も持っていないからな。聖女メグのサポートも、滞ることなく引き継ぎもしっかりしてくれている。何か問題があるのだとしたら……それは、アラスターとリリアーヌとヒューゴが、クレイオン嬢に何も伝えていなかったと言う事だろうな」
「「「ゔ───っ」」」
ーですよね?ー
流石はレイモンド様。ちゃんと周りが見えている。
「メグも、自分のせいでクレイオン嬢がギルウィットに行けないとなれば罪悪感が出るだろう?」
「はい!その通りです。だから、リュシエンヌが居なくなったのは寂しいですけど、リュシエンヌには頑張ってもらいたいです!」
それに、これが永遠の別れと言う事じゃないのだから。会おうと思えば会えるから。
「アラスターも、本当にクレイオン嬢の事を思っているなら、彼女を応援できるな?それでも、アラスターの彼女への気持ちを俺も知っているから、頻繁には無理だろうが、転移魔法の使用を許可してあげるから、クレイオン嬢に会いに行くと良い」
「ありがとうございます!」
そこで、ヴェルティル様が本当に嬉しそうに笑ったのを見て、本当にリュシエンヌの事を思っていたのか─と信じる事ができた。
「リリアーヌとヒューゴは、本当に浮かれ過ぎだからな?取り敢えず、動ける者が居るのなら、たまにクレイオン嬢の様子をアラスターに報告してやってくれ…程々に…」
「勿論です。程々に……報告させます」
ープライバシーはどこに?ー
聖女の私もそうだけど、貴族ともなれば、必ず何処かに目があって、いつも誰かに見られて─見守られている。それが普通なのかもしれないけど、未だに慣れないのも確かだ。
でも、取り敢えず、ヴェルティル様の怒り?は落ち着いたようで良かった───とはならなかった。
***
「交換訓練生として3年、シーフォールス王国のトルガレント辺境地へと行っているそうです」
「シーフォールス……3年………へぇ…」
リューゴ商会の偵察隊?からの初めての報告で知らされたのは、リュシエンヌがユーグレイシアには居らず、海を隔てた隣国シーフォールス王国のトルガレント辺境地に居ると言う事だった。
「「…………」」
勿論、転移先が隣国なら、好き勝手に転移魔法で移動するなんて事はできない。隣国は隣国でも、海を隔てているから、簡単に行く事もできない。
「アラール殿下は、この事を知って──」
「勿論知らなかった!交換訓練生の制度は知っているが、それに最終的に許可を出すのは国王陛下だ!」
「───ちっ」
ー今、舌打ちしましたよね!?ー
許可を出したのが国王様で良かった。流石にヴェルティル様も、国王様には手も口も出せないだろうから。アラール様が半泣き状態でホッとしているのは、気のせいじゃない。
「はぁ……流石はクレイオン嬢と言ったところだな。彼女の実力なら、交換訓練生に選ばれて当然だ」
寂しそうだけど、リュシエンヌに対する想いが表れているのか、優しい微笑みを浮かべるヴェルティル様。色々突っ込みどころはあるし、イマイチ納得できないところもあるけど、なんとかして2人を会わせてあげられたら……
リュシエンヌがヴェルティル様に好意を寄せていたのは知っているから。リュシエンヌがまだヴェルティル様を想っているのなら……
「で、リリアーヌ様の発案で、ヒューゴ様がリューゴ商会の販売ルートを拡充する目的を兼ねてシーフォールスに行く事になって、メグも同行する事にして、そのメグの後見人のアラール殿下をくっつけて、更にそのアラール殿下に“影”としてヴェルティル様を付ける─と言う体裁を作ったのよ」
「マジで!?」
「大マジよ」
珍しく口調が崩れたリュシー。驚くのも無理は無いと思う。もう、あの頃にはリュシーはヴェルティル様から逃げられないようになっていたのだ。でも─
「私は…リュシーがヴェルティル様から逃げたいと言ったなら、全力で手伝おうって思ってたの」
「メグ……」
だって、リュシーとモニカは私にとって初めてでとても大切な友達だから。
「でも、リュシーもヴェルティル様に想いを残してるようだったし…何より、リュシーがヴェルティル様達を許して受け入れて、幸せになれるんだったら、私は全力で見守るだけだと思ったの。ユラのせいで本当に大変だったけど……リュシー。リュシーは、今、幸せ?」
「メグ……ありがとう。本当にあの頃は辛い事も沢山あったけど、私は今、とっても幸せよ」
フワリと微笑むリュシーは、女神様か?と思う程綺麗だ。ヴェルティル様が色々と心配するのもよく分かる。結婚してヴェルティル夫人になったリュシーは更に綺麗になって、既婚者であるにも関わらず、言い寄って来る男性が多いのだ。本人はヴェルティル様一筋で、言い寄られても、その真意に全く気付いていないけど。
正直、ヴェルティル様には勿体無くない?と思っているのは秘密だ。
「ま、兎に角、ヴェルティル様のリュシーへの想いは、もう疑いようがないし、リュシーが幸せなら良いのだけどね。本当に大変だったけど…今となっては…面白い思い出の一つだわ…ふふっ……」
そこでようやく、モニカが楽しそうに笑った。
「ところで、メグとアラール様はどうなっているの?」
「はい!?」
「アラール様もバレバレなのよ。メグを見つめる視線が甘いのよ」
「え!?甘い!?」
確かに、あの一件以降、私に優しくなったと言うか、気を遣ってくれているのは分かっていたけど。
「うーん……どうなっているの?と訊かれても、アラール様をそう言う風に見た事がないから…」
「「だよね……」」
「メグには、もっとしっかりした人が良いと思うわ」
「私もそう思うけど、でも、第一にメグを大切にしてくれる人じゃないとね」
そうね─と、リュシーとモニカが笑っているのを見ると、如何にユラが自分勝手な友情を私に押し付けていたのかが分かる。
ーこの世界に来れて…還ってこれて良かったー
「恋愛はまだイマイチ分からないけど、そんな相手ができた時は、色々宜しくお願いします」
「「楽しみに待っているわ」」
それからまた、私達はお茶の時間を楽しんだ。
ー異世界は、色々と大変だけど楽しいですー
∑(ºロºlll
少し長目ですが、今日と明日に分けて2話投稿します!
(A;´・ω・)アセアセ
❋❋❋❋❋❋❋❋
私の名前は、九十九 恵
ユーグレイシア王国では、メグ=ツクモで、聖女と呼ばれている。
日本での両親の記憶は殆ど無く、叔母の家族との記憶しかない。そこに、良い思い出は一つも無い。良い思い出として残っているのは、結星が私に声を掛けてくれた事だけ。ただ、それも……今となっては良い思い出なのかどうかも分からない。
********
「本当に、メグがユーグレイシアに還って来てから、色んな事があったわね……」
「ユラのお陰でね……」
「それだけじゃないからね!?」
「…………」
遠い目をしているのはモニカ=スタンホルス。
少し不思議そうな顔をしているのは、リュシエンヌ=ヴェルティル。
今日は久し振りに3人でお茶をしている。
「そりゃあ、ユラのお陰で本当に色々大変だったけど、本当に大変だったのは……リュシーが学校を卒業して居なくなってからだったのよ……」
「え?」
「そうだったね……」
今度は、モニカと一緒に私も遠い目になった。リュシーはキョトンとした顔をしている─にも関わらず綺麗な顔でついつい見惚れてしまう。
「あ、そう言えば、モニカもメグもアラール殿下も『色々大変だった』って言ってたわね?今迄聞けずにいたけど…一体何があったの?」
「もう、リュシーは“ヴェルティル”になったし、ぶっちゃけて良いと思うからぶっちゃけるわ!」
と、モニカと私はリュシーに、リュシーが卒業した後の話をし始めた。
******
あれは、リリアーヌ様達が卒業式を終えた数時間後の事だった。
モニカと私は、卒業のお祝いにと、花束を持ってリリアーヌ様達と約束をしていた場所─王城の応接室に行くと、そこには物凄い笑顔を浮かべたヴェルティル様と真っ青な顔をしたアラール様が対峙していて、そんな2人とは対象的に、リリアーヌ様とイーデン様が椅子に座って頭を抱えていた。
「カオス?」
「あの…何かあったんですか?出直した方が……」
モニカと私が退室しようとすれば
「2人とも、その椅子に座ってくれるかな?色々……訊きたい事があるから」
「「はい………」」
爽やかだけど爽やかではない笑顔を浮かべたヴェルティル様に誰も反抗できる筈もなく、私達はリリアーヌ様とイーデン様とは反対側の椅子に腰を下ろした。
「リュシエンヌが卒業して居なくなった!?」
ヴェルティル様から聞いて驚いた──のは、私だけだった。
「なるほど…ラインズリー嬢は知っていたんだな?」
「はい………」
リュシエンヌは後1年の学校生活があったけど、第二次成長期を迎え成人した為、学校を卒業してギルウィット辺境地の騎士団に入団する事にしたそうで、既にギルウィットへと出発した後なのだと言う事だった。
「リュシーから、『秘密にしておいて欲しい』と言われてましまから。それに、もともとリュシーは学校卒業後にギルウィットの騎士団に入団すると決めていたので、予定よりは早くなりましたけど、予定通りの事だったんです。聖女メグのサポートを途中で抜ける事に関して気にしていましたけど……」
「ヴェルティルは“文”の家門なんだ」
「はい?」
「その文の家門で、俺は唯一と言っても過言ではなく“武”に進んだのは……リュシエンヌ=クレイオン嬢の隣に立つ為なんだ」
「「…………は?」」
モニカと私の口から、間の抜けた言葉が出てしまったのは仕方無いと思う。
『隣に立つ』
その意味が分からない。だって、ヴェルティル様はリリアーヌ様と恋人同士で、そろそろ婚約間近では?なんて事まで言われている。なのに、何故そこにリュシエンヌが??
「すみません…まだこの世界に疎いのかもしれませんが…ユーグレイシアは一夫多妻制でした──」
「一夫一妻制だ!俺はクレイオン嬢だけだから!」
「「はい????」」
全く意味が分からないのは、モニカと私だけのようで、アラール様とイーデン様は頭を抱えたまま黙り込み、リリアーヌ様が何とか耐えるようにして私達に説明してくれたのは──
リリアーヌ様とヴェルティル様は、契約の恋人であって、3人が卒業した後、リリアーヌ様はイーデン様と婚約へと向かい、ヴェルティル様はリュシエンヌを囲い─リュシエンヌとの距離を詰めて行く予定だったそうだ。
ー異世界の貴族の恋愛は、色々大変で面倒くさいのねー
正直、恋愛をした事が無いし、今もする余裕はないから、恋心と言うかものがいまいち分からないけど、契約の恋人なんて誤解を招く事にしかならないのでは?と単純に思ってしまうのは、違う世界で育ったからだろうか?
「でも…リュシーは、リリアーヌ様とヴェルティル様の幸せを望んでいたから……」
「だからです。俺とリリアーヌの仲を信じたまま居なくなったから、俺の目の届かない所でクレイオン嬢に彼氏とか……ましてや番に出会おうものなら……」
『その相手をどうしてやろうか──』
なんて聞こえたような気もするけど、気のせいにしておいた方が良いよね?
「あの…でも……それって………」
「アラスター、お前がキレる筋合いはないだろう?」
「レイモンド」
「兄上!!」
呆れた顔をしてやって来たのは、ユーグレイシアの王太子レイモンド様だった。
「クレイオン嬢が辺境地へ行ったのは、彼女が騎士として成長する為だ。それを止める権利など誰も持っていないからな。聖女メグのサポートも、滞ることなく引き継ぎもしっかりしてくれている。何か問題があるのだとしたら……それは、アラスターとリリアーヌとヒューゴが、クレイオン嬢に何も伝えていなかったと言う事だろうな」
「「「ゔ───っ」」」
ーですよね?ー
流石はレイモンド様。ちゃんと周りが見えている。
「メグも、自分のせいでクレイオン嬢がギルウィットに行けないとなれば罪悪感が出るだろう?」
「はい!その通りです。だから、リュシエンヌが居なくなったのは寂しいですけど、リュシエンヌには頑張ってもらいたいです!」
それに、これが永遠の別れと言う事じゃないのだから。会おうと思えば会えるから。
「アラスターも、本当にクレイオン嬢の事を思っているなら、彼女を応援できるな?それでも、アラスターの彼女への気持ちを俺も知っているから、頻繁には無理だろうが、転移魔法の使用を許可してあげるから、クレイオン嬢に会いに行くと良い」
「ありがとうございます!」
そこで、ヴェルティル様が本当に嬉しそうに笑ったのを見て、本当にリュシエンヌの事を思っていたのか─と信じる事ができた。
「リリアーヌとヒューゴは、本当に浮かれ過ぎだからな?取り敢えず、動ける者が居るのなら、たまにクレイオン嬢の様子をアラスターに報告してやってくれ…程々に…」
「勿論です。程々に……報告させます」
ープライバシーはどこに?ー
聖女の私もそうだけど、貴族ともなれば、必ず何処かに目があって、いつも誰かに見られて─見守られている。それが普通なのかもしれないけど、未だに慣れないのも確かだ。
でも、取り敢えず、ヴェルティル様の怒り?は落ち着いたようで良かった───とはならなかった。
***
「交換訓練生として3年、シーフォールス王国のトルガレント辺境地へと行っているそうです」
「シーフォールス……3年………へぇ…」
リューゴ商会の偵察隊?からの初めての報告で知らされたのは、リュシエンヌがユーグレイシアには居らず、海を隔てた隣国シーフォールス王国のトルガレント辺境地に居ると言う事だった。
「「…………」」
勿論、転移先が隣国なら、好き勝手に転移魔法で移動するなんて事はできない。隣国は隣国でも、海を隔てているから、簡単に行く事もできない。
「アラール殿下は、この事を知って──」
「勿論知らなかった!交換訓練生の制度は知っているが、それに最終的に許可を出すのは国王陛下だ!」
「───ちっ」
ー今、舌打ちしましたよね!?ー
許可を出したのが国王様で良かった。流石にヴェルティル様も、国王様には手も口も出せないだろうから。アラール様が半泣き状態でホッとしているのは、気のせいじゃない。
「はぁ……流石はクレイオン嬢と言ったところだな。彼女の実力なら、交換訓練生に選ばれて当然だ」
寂しそうだけど、リュシエンヌに対する想いが表れているのか、優しい微笑みを浮かべるヴェルティル様。色々突っ込みどころはあるし、イマイチ納得できないところもあるけど、なんとかして2人を会わせてあげられたら……
リュシエンヌがヴェルティル様に好意を寄せていたのは知っているから。リュシエンヌがまだヴェルティル様を想っているのなら……
「で、リリアーヌ様の発案で、ヒューゴ様がリューゴ商会の販売ルートを拡充する目的を兼ねてシーフォールスに行く事になって、メグも同行する事にして、そのメグの後見人のアラール殿下をくっつけて、更にそのアラール殿下に“影”としてヴェルティル様を付ける─と言う体裁を作ったのよ」
「マジで!?」
「大マジよ」
珍しく口調が崩れたリュシー。驚くのも無理は無いと思う。もう、あの頃にはリュシーはヴェルティル様から逃げられないようになっていたのだ。でも─
「私は…リュシーがヴェルティル様から逃げたいと言ったなら、全力で手伝おうって思ってたの」
「メグ……」
だって、リュシーとモニカは私にとって初めてでとても大切な友達だから。
「でも、リュシーもヴェルティル様に想いを残してるようだったし…何より、リュシーがヴェルティル様達を許して受け入れて、幸せになれるんだったら、私は全力で見守るだけだと思ったの。ユラのせいで本当に大変だったけど……リュシー。リュシーは、今、幸せ?」
「メグ……ありがとう。本当にあの頃は辛い事も沢山あったけど、私は今、とっても幸せよ」
フワリと微笑むリュシーは、女神様か?と思う程綺麗だ。ヴェルティル様が色々と心配するのもよく分かる。結婚してヴェルティル夫人になったリュシーは更に綺麗になって、既婚者であるにも関わらず、言い寄って来る男性が多いのだ。本人はヴェルティル様一筋で、言い寄られても、その真意に全く気付いていないけど。
正直、ヴェルティル様には勿体無くない?と思っているのは秘密だ。
「ま、兎に角、ヴェルティル様のリュシーへの想いは、もう疑いようがないし、リュシーが幸せなら良いのだけどね。本当に大変だったけど…今となっては…面白い思い出の一つだわ…ふふっ……」
そこでようやく、モニカが楽しそうに笑った。
「ところで、メグとアラール様はどうなっているの?」
「はい!?」
「アラール様もバレバレなのよ。メグを見つめる視線が甘いのよ」
「え!?甘い!?」
確かに、あの一件以降、私に優しくなったと言うか、気を遣ってくれているのは分かっていたけど。
「うーん……どうなっているの?と訊かれても、アラール様をそう言う風に見た事がないから…」
「「だよね……」」
「メグには、もっとしっかりした人が良いと思うわ」
「私もそう思うけど、でも、第一にメグを大切にしてくれる人じゃないとね」
そうね─と、リュシーとモニカが笑っているのを見ると、如何にユラが自分勝手な友情を私に押し付けていたのかが分かる。
ーこの世界に来れて…還ってこれて良かったー
「恋愛はまだイマイチ分からないけど、そんな相手ができた時は、色々宜しくお願いします」
「「楽しみに待っているわ」」
それからまた、私達はお茶の時間を楽しんだ。
ー異世界は、色々と大変だけど楽しいですー
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