45 / 59
45 マーガレットと薔薇
しおりを挟む
「奥様、おはようございます。今朝も、アーティー様から薔薇の花が届いてますよ」
「おはよう、ケイトさん。花は…いつも通り、窓際に飾っておいて」
今日もまた、同じ邸内に居るにも関わらず、アーティー様から薔薇の花束が私の部屋に届けられた。週2回はアーティー様本人が手渡しにやって来るけど、その日以外は私専属の侍女のケイトさんが持って来る。
「部屋の中央に飾っているマーガレットよりも、薔薇の方が綺麗だし部屋にも合うと思うので、飾る場所を変えませんか?折角のアーティー様からの贈り物ですし…」
「位置は、そのままでお願いします」
「分かりました」
ケイトさんは覚えていないのだろう。このマーガレットはポレットが私の為に持って来てくれている事を。そして、私が薔薇の香りが苦手な事も。
幼い頃、薔薇が咲き誇った庭園で、私はその日の暑さと薔薇の香りで倒れた事があった。それ以来、私は薔薇の香りが苦手になった。実家の庭にも薔薇は植えてあったけど、両親は私の為に刈り取ってくれていた。でも、この公爵邸の庭園には、真っ赤な薔薇が沢山植えられている。毎日贈られて来る薔薇。「薔薇は苦手なんです」と、もう一度言葉にできずに居る私も悪いと分かってはいるけど、言い出す勇気もなく、毎日薔薇だけは受け取っている。
“運命の番だ”“奇跡の出会いだ”と言われる存在なんだそうだけど……アーティー様は、番の事は何も知らないのだろう。私の心を守ってくれるのは……ポレットだけ───
「……………」
マーガレットの花を見てポレットを思い出したせいか、エリナの頃の夢を見た。ユベールの事は殆ど思い出せない。
ーなんて薄情な母親なんだろうー
「…………」
パンパンッ─と、自分で自分の頬を叩く。
ー駄目駄目!落ちるな!私はエリナではなく、リュシエンヌ=クレイオンだ!ー
******
「リュシエンヌ、申し訳無いけど、アラスターが予定の時間より少し遅れると言っていたわ。レイモンド殿下の都合だから、少し待ってもらえるかしら?」
「分かりました。私は送ってもらう側の立場なので、いくらでも待たせてもらいます。リリアーヌ様、伝言ありがとうございます」
「私は時間があるから、お話でもしましょうか」
「はい!」
それから、リリアーヌ様と私はヴェルティル様が来るまで話をした。
ちなみに、メグとは早朝にお別れの挨拶を済ませてあった。これから少しずつ外遊しながら聖女としての務めをこなしていくそうで、忙しくなるだろう─と、第二王子が嬉しそうに言っていた。第二王子も、メグをしっかりサポートできているようで、メグの第二王子に対する目は安心の色が見えた。
ーそこに、恋愛感情は全く無かったけどー
想いが届く届かないは、第二王子次第だろう。私個人の意見としては、メグには第二王子よりももっと落ち着いた……王太子様のような人の方が合うと思っている。王妃と言う立場は大変だろうけど。
ーあれ?ー
何故か、胸がざわめきだした。
ーまた、あの香りだー
番を認知できないように、しっかり魔法を掛けたのに。今日はヴェルティル様と2人になってしまうから、いつもより念入りに掛けたのに!
「あ、ようやく来たようね。レイモンド殿下、アラスター、お疲れ様でした」
「遅くなってすまない」
「リリアーヌ、伝言ありがとう。クレイオン嬢、直ぐに用意をするから、もう少しだけ待っていてくれ」
「………はい……………」
ヴェルティル様はそう言うと、ゆっくりと魔法陣を描き始めた。
ー落ち着け…大丈夫……ー
「クレイオン嬢、昨日言っていたマーガレットだけど、本当に1輪で────クレイオン嬢?」
「……は…い。1輪で…十分です…ありがとうございます…」
王太子様は、約束していた通り、ピンク色のマーガレット1輪を用意してくれていた。そのマーガレットにはミントグリーン色のリボンが付けられている。その花を受け取ろうと手を伸ばすと─
「何かあった?」
と、小声で王太子様に声を掛けられた。
「……あ……いえ……」
「…………」
本能を押さえるのに必死で、ついついヴェルティル様に視線を向けてしまい、私のその視線を追うように王太子様がヴェルティル様に視線を向けた。
私の心臓はバクバクと音を立てて騒ぎ出し、体が熱を帯びている。
王太子様が、ヴェルティル様から私の方へと視線を戻し、そのまま暫く黙ったままで──
「ひょっとして……番?」
「───っ!」
ヒュッと息を呑んだ。
ーどうして…分かったの!?ー
「あ…の…私……ちがっ………」
「……クレイオン嬢は…どうしたい?」
「え?」
何を訊かれているのか分からず、王太子様を見上げると、王太子様は苦しそうな表情で私を見ていた。
「色々と…色んなモノが拗れてるんだろうが……話はまた後でするとして、取り敢えず、今、クレイオン嬢はどうしたい?」
今は────
「取り敢えず……距離を…………」
「そうだね。取り敢えず、トルガレントに戻るのは中止にしよう。それで良いかな?」
「はい…お願い…します……」
「うん。じゃあ……って…クレイオン嬢!?」
私は、そこで意識を失った。
「おはよう、ケイトさん。花は…いつも通り、窓際に飾っておいて」
今日もまた、同じ邸内に居るにも関わらず、アーティー様から薔薇の花束が私の部屋に届けられた。週2回はアーティー様本人が手渡しにやって来るけど、その日以外は私専属の侍女のケイトさんが持って来る。
「部屋の中央に飾っているマーガレットよりも、薔薇の方が綺麗だし部屋にも合うと思うので、飾る場所を変えませんか?折角のアーティー様からの贈り物ですし…」
「位置は、そのままでお願いします」
「分かりました」
ケイトさんは覚えていないのだろう。このマーガレットはポレットが私の為に持って来てくれている事を。そして、私が薔薇の香りが苦手な事も。
幼い頃、薔薇が咲き誇った庭園で、私はその日の暑さと薔薇の香りで倒れた事があった。それ以来、私は薔薇の香りが苦手になった。実家の庭にも薔薇は植えてあったけど、両親は私の為に刈り取ってくれていた。でも、この公爵邸の庭園には、真っ赤な薔薇が沢山植えられている。毎日贈られて来る薔薇。「薔薇は苦手なんです」と、もう一度言葉にできずに居る私も悪いと分かってはいるけど、言い出す勇気もなく、毎日薔薇だけは受け取っている。
“運命の番だ”“奇跡の出会いだ”と言われる存在なんだそうだけど……アーティー様は、番の事は何も知らないのだろう。私の心を守ってくれるのは……ポレットだけ───
「……………」
マーガレットの花を見てポレットを思い出したせいか、エリナの頃の夢を見た。ユベールの事は殆ど思い出せない。
ーなんて薄情な母親なんだろうー
「…………」
パンパンッ─と、自分で自分の頬を叩く。
ー駄目駄目!落ちるな!私はエリナではなく、リュシエンヌ=クレイオンだ!ー
******
「リュシエンヌ、申し訳無いけど、アラスターが予定の時間より少し遅れると言っていたわ。レイモンド殿下の都合だから、少し待ってもらえるかしら?」
「分かりました。私は送ってもらう側の立場なので、いくらでも待たせてもらいます。リリアーヌ様、伝言ありがとうございます」
「私は時間があるから、お話でもしましょうか」
「はい!」
それから、リリアーヌ様と私はヴェルティル様が来るまで話をした。
ちなみに、メグとは早朝にお別れの挨拶を済ませてあった。これから少しずつ外遊しながら聖女としての務めをこなしていくそうで、忙しくなるだろう─と、第二王子が嬉しそうに言っていた。第二王子も、メグをしっかりサポートできているようで、メグの第二王子に対する目は安心の色が見えた。
ーそこに、恋愛感情は全く無かったけどー
想いが届く届かないは、第二王子次第だろう。私個人の意見としては、メグには第二王子よりももっと落ち着いた……王太子様のような人の方が合うと思っている。王妃と言う立場は大変だろうけど。
ーあれ?ー
何故か、胸がざわめきだした。
ーまた、あの香りだー
番を認知できないように、しっかり魔法を掛けたのに。今日はヴェルティル様と2人になってしまうから、いつもより念入りに掛けたのに!
「あ、ようやく来たようね。レイモンド殿下、アラスター、お疲れ様でした」
「遅くなってすまない」
「リリアーヌ、伝言ありがとう。クレイオン嬢、直ぐに用意をするから、もう少しだけ待っていてくれ」
「………はい……………」
ヴェルティル様はそう言うと、ゆっくりと魔法陣を描き始めた。
ー落ち着け…大丈夫……ー
「クレイオン嬢、昨日言っていたマーガレットだけど、本当に1輪で────クレイオン嬢?」
「……は…い。1輪で…十分です…ありがとうございます…」
王太子様は、約束していた通り、ピンク色のマーガレット1輪を用意してくれていた。そのマーガレットにはミントグリーン色のリボンが付けられている。その花を受け取ろうと手を伸ばすと─
「何かあった?」
と、小声で王太子様に声を掛けられた。
「……あ……いえ……」
「…………」
本能を押さえるのに必死で、ついついヴェルティル様に視線を向けてしまい、私のその視線を追うように王太子様がヴェルティル様に視線を向けた。
私の心臓はバクバクと音を立てて騒ぎ出し、体が熱を帯びている。
王太子様が、ヴェルティル様から私の方へと視線を戻し、そのまま暫く黙ったままで──
「ひょっとして……番?」
「───っ!」
ヒュッと息を呑んだ。
ーどうして…分かったの!?ー
「あ…の…私……ちがっ………」
「……クレイオン嬢は…どうしたい?」
「え?」
何を訊かれているのか分からず、王太子様を見上げると、王太子様は苦しそうな表情で私を見ていた。
「色々と…色んなモノが拗れてるんだろうが……話はまた後でするとして、取り敢えず、今、クレイオン嬢はどうしたい?」
今は────
「取り敢えず……距離を…………」
「そうだね。取り敢えず、トルガレントに戻るのは中止にしよう。それで良いかな?」
「はい…お願い…します……」
「うん。じゃあ……って…クレイオン嬢!?」
私は、そこで意識を失った。
1,422
お気に入りに追加
2,109
あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。

【完結】私の番には飼い主がいる
堀 和三盆
恋愛
獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。
私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。
だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。
『飼い主』の存在だ。
獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。
この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。
例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。
そう。私の番は前世持ち。
そして。
―――『私の番には飼い主がいる』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる