番から逃げる事にしました

みん

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32 怖ろしいティータイム

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「偶然ですね!」

と言って嬉しそうにヴェルティル様に駆け寄るのは、相変わらずのユラだ。第二王子の取り込みに失敗して、次に選んだのがヴェルティル様と言ったところだろうか?

ー更に難易度を上げてどうする?ー

と突っ込みたいところだけど、私もヴェルティル様の裏?に気付き始めたばかりだから、他人ひとの事は言えない。ただ、改めて第三者目線で落ち着いて2人のやり取りを見ていると、ヴェルティル様がユラに向けている笑顔は……目が笑っていない。寧ろ、切れ味抜群!みたいな視線を向けている。

ーその目もカッコイイですけど!ー

んんっ───

これから、ブラブラと買い物に行こうかと思っていたけど、このままヴェルティル様とユラを2人だけにする事も、ユラを1人残して行くのも良くないだろう。

「ユラは、ここにはお茶をしに来たの?」
「そうよ。あ、リュシエンヌも居たのね」
「ずっと居たわよ。ユラがここに来るよりも前から、ヴェルティル様と一緒にランチをしていたから」

ニッコリ微笑むと「……あっ…そう……」と小さく呟きながら、ヴェルティル様には背を向けて私を睨んでいる。とは言え、全く怖くない。仔猫が必死で威嚇しているようにしか見えない。
兎に角、ここは少しだけユラに付き合えば、ユラも満足するだろうと思い、既にお腹は満たされていたけど、3人でお茶をする事にした。




「アラスター様とお茶をするのは初めてですね。ずっと、お茶をしたいなと思っていたから、嬉しいです」
「メグとはお茶をした事はあったけど、その時はユラは友達との約束があるから─と言っていたからね。友達を大切にするという事は良い事だよね」
「ですよね!?」
「………」

何を嬉しそうに自分を肯定しているのか不思議でたまらない。そもそも、今のヴェルティル様の言葉は、ユラを褒めているのではない。

幼馴染み友達を陥れようとするのは最低だ”

と言っているのだ。貴族社会に慣れていない上に、ヴェルティル様に好意を寄せているのなら、その裏の意味には気付かないだろう。

「だから、メグが私と会ってくれないのが寂しくて…メグ、私の事が嫌いになったのかなぁ?」
「「………」」

友達を大切にするどころか、ナチュラルに自分を上げてメグを下げるとか…傍から見れば庇護欲をかきたてられるかも知れないけど。

ー第二王子は、チョロかったのねー

「俺の知る限り、メグは聖女としてするべき事がある上、この世界の事や貴族社会の勉強で忙しそうだから、時間を取る事も難しいんじゃないかな?今回の同行も、他国の聖女様について知る為だからね」
「そう…だったら良いけど……」

不満を隠そうともしない顔だ。ヴェルティル様がメグをフォローした事が気に入らないのだろう。

「小耳に挟んだ事だけど、ユラは何かを探しているのか?」
「あら、アラスター様に知られてしまったんですね。ふふっ…別に隠していた訳じゃないんですけど…アラスター様を驚かせようかな─なんて思ったり?」
「俺を…驚かせる?」
「………」

ーユラは一体何を…企んでいるの?ー

なんて、口は挟まない。さっきからずーっと私の存在は無視されているから。

「アラスター様が、を探してるって聞いたので……それで……」
「………そう…………」
「……………」

それを聞いて、目を細めて微笑むヴェルティル様と、そのヴェルティル様の微笑みに見惚れて頬を赤くしているユラと……嫌な汗が背中にブワッと溢れた私。
ヴェルティル様は微笑んではいるけど、何故か殺気に近い空気を纏っている。

「それで、友達にも色々訊いて探していたんです。そうしたら、ユーグレイシアには居ないけど、他国なら居るかもと言われて!それで、私もメグと一緒にここに付いて来たんです!」
「そう………」
「それで、なんと、丁度シロいモノが手に入りそうで、それで、アラスター様を探していたんです!」
「そうなんだ……」
「それで───」

ーユラ、そろそろ黙ってくれないかしら!?ー

もう、ヴェルティル様から怖ろしい程の殺気が溢れてるから!何故分からないのかが分からないから!!

「ユラ……探し物は良いとして……誰かに迷惑を掛けたりとかはしていない?ここはユーグレイシアではないから、もし何か問題を起こせば国同士の問題になるから」
「リュシエンヌは酷い事を言うのね!誰にも迷惑は掛けてないわ!私が手に入れる事が嫌だから、そんな事を言うのね!?」
「…………」

ー一体、何語で話せば、ユラに話が伝わるのだろうか?ー

いや、何語で話したところで伝わる気がしない。いや、伝わらないだろう。私の事は全否定、全拒否するだろうから。

「アラスター様さえ良ければ、それを一緒に見に行きませんか?」
「………そうだね……見に行ってみようかな……勿論、クレイオン嬢も一緒にね」
「ワカリマシタ………」

ユラがまた私を睨んでいるけど気にしない。
私は、ここで『嫌です』とは言えなかった。




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