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30 相変わらずな人と変わった人
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同じリューゴ商会の一員としてやって来た筈なのに、今の今迄ユラがヴェルティル様の存在に気付かなかった理由は、ただ一つしかない。
アラスター=ヴェルティル様は、第二王子に付いて来た“影”と言う事だ。
思い違いではないだろう。ヴェルティル様が、私に圧をたっぷり含ませた微笑みを向けているから。
そう言えば、夕食の時にも居なかった。
「アラスター様が居るなら、外になんて行かずに一緒にお茶でもしたかったです!」
ユラは、私の存在には丸っと無視したまま、ヴェルティル様の側まで歩み寄る。
ユラが私を無視するのなら、私もユラを無視するだけだ。巻き込まれただけの子に、可哀想ではないか?と言われたとしても───私は構わないし気にしない。
“影”について訊きたい事はあるけど、訊いてはいけない事だし、訊いたところで答えてくれる事はないだろう。
「ヴェルティル様、そろそろ約束の時間では?」
「あぁ、そうだった。ユラ、すまないが、俺はこれから予定があるから、ここで失礼するよ。勿論、クレイオン嬢も予定があるから、ユラも自室に戻った方が良いよ。クレイオン嬢、それじゃあ……また…」
「あ、アラスター様!待って下さい!」
ヴェルティル様が部屋から出て行くと、ユラもまた追い掛けるようにして部屋から出て行った。
本当に、最後迄私の存在は丸っと無視だった。
『──それじゃあ……また…』
“また”─とはどう言う意味だろう?
ヴェルティル様が影として来ているなら、もう会う事は無いと思うけど……。本当に影なら、姿を現して目立っても良いのか?いや…そもそも、葵色の髪や青色の瞳も本来の色ではなかったりする?あの色は、綺麗過ぎて記憶に残りやすい。
「………」
ひょっとしたら、私は本当のアラスター=ヴェルティル様の事を、何一つ知らないのかもしれない。
******
もう(シーフォールス王国内では)会う事はないだろう─と思っていたけど。
『メグも、クレイオン嬢が護衛に付いてくれたら心強いだろうし、私も安心なんだ』なんて第二王子に言われてしまい『トルガレントの騎士団長には、説明して許可を得ているから大丈夫だ』と、ヴェルティル様に言われてしまえば断れる筈もなく、私はリューゴ商会がシーフォールス王国に滞在する2週間の間、メグの護衛として同行する事になった。
『リュシーが居ないと寂しいけど、また帰って来たらご飯を食べに行こうね!』と、ベリンダ達からも笑顔で見送られた。
「リュシエンヌ、交換訓練中なのに、私の護衛に付いてもらう事になっなしまってごめんなさい」
「メグ、気にしないで。2週間だけだし、訓練生としてはまだ2年もあるから。それに、メグと一緒に居られるのは嬉しいから」
問題なのは、ヴェルティル様だけ。
勿論、しっかりと魔法も掛けている。
とは言え、やっぱり見える範囲でヴェルティル様の姿を確認する事ができない。
ヴェルティル伯爵家は、“武”ではなく“文”の家名だ。勿論、そうだからと言って、騎士になってはいけないと言う事もないけど、そんな家系から一般的な騎士どころか、更なる上のレベルを求められる“影”に迄上り詰める事ができるのか?
『確かに、色々大変だけど…俺にはどうしても手に入れたいモノがあるからね』
『手に入れたい…モノですか?』
あの時はただ、更なる高みへと頑張るヴェルティル様が凄いとしか思わなかったけど、それは、公爵令嬢であるリリアーヌ様との仲を認めてもらう為─だったのかもしれない。
『──?リリアーヌ?元気にしてるよ。毎日幸せそうだし……』
だから、念願叶って───
ーうん。これ以上考えるのは止めようー
メグの護衛をやるからにはしっかりしないと!このまま気持ちにズルズル引き摺られると、マトモに護衛なんて果たせないし、立派な騎士にもなれない。これからの2週間、きっちりと護衛の任務を遂行して、胸を張ってトルガレントに帰れるように頑張ろう!!
と張り切っていたものの、シーフォールス王国は、もともと治安の良い国だ。貧富の差も大きくはなく、平民も比較的豊かな者が多いから、商団の馬車が列を成して走っていても、襲撃を食らう事は滅多にない。
そんなシーフォールスで、態々私が護衛に付く意味はあったのだろうか?
「うん。十分意味はあるよ。それに、対外的な警護もそうだけど、メグにとって慣れない世界の更に初めての国外だから、侯爵令嬢としてもサポートしてもらいたいんだ。仲の良いクレイオン嬢なら、メグも安心だろうからね」
ー第二王子、成長しましたねー
あの一件以降、第二王子もユラと少し距離を置いているのは知っていたけど、メグの事もちゃんと見る事ができているようだ。しかも、第二王子のメグを見る目は優しい。
「………なるほど……殿下、メグに無理強いだけはしないで下さいね」
「な────っ!」
本当に、分かりやすい人だ。
アラスター=ヴェルティル様は、第二王子に付いて来た“影”と言う事だ。
思い違いではないだろう。ヴェルティル様が、私に圧をたっぷり含ませた微笑みを向けているから。
そう言えば、夕食の時にも居なかった。
「アラスター様が居るなら、外になんて行かずに一緒にお茶でもしたかったです!」
ユラは、私の存在には丸っと無視したまま、ヴェルティル様の側まで歩み寄る。
ユラが私を無視するのなら、私もユラを無視するだけだ。巻き込まれただけの子に、可哀想ではないか?と言われたとしても───私は構わないし気にしない。
“影”について訊きたい事はあるけど、訊いてはいけない事だし、訊いたところで答えてくれる事はないだろう。
「ヴェルティル様、そろそろ約束の時間では?」
「あぁ、そうだった。ユラ、すまないが、俺はこれから予定があるから、ここで失礼するよ。勿論、クレイオン嬢も予定があるから、ユラも自室に戻った方が良いよ。クレイオン嬢、それじゃあ……また…」
「あ、アラスター様!待って下さい!」
ヴェルティル様が部屋から出て行くと、ユラもまた追い掛けるようにして部屋から出て行った。
本当に、最後迄私の存在は丸っと無視だった。
『──それじゃあ……また…』
“また”─とはどう言う意味だろう?
ヴェルティル様が影として来ているなら、もう会う事は無いと思うけど……。本当に影なら、姿を現して目立っても良いのか?いや…そもそも、葵色の髪や青色の瞳も本来の色ではなかったりする?あの色は、綺麗過ぎて記憶に残りやすい。
「………」
ひょっとしたら、私は本当のアラスター=ヴェルティル様の事を、何一つ知らないのかもしれない。
******
もう(シーフォールス王国内では)会う事はないだろう─と思っていたけど。
『メグも、クレイオン嬢が護衛に付いてくれたら心強いだろうし、私も安心なんだ』なんて第二王子に言われてしまい『トルガレントの騎士団長には、説明して許可を得ているから大丈夫だ』と、ヴェルティル様に言われてしまえば断れる筈もなく、私はリューゴ商会がシーフォールス王国に滞在する2週間の間、メグの護衛として同行する事になった。
『リュシーが居ないと寂しいけど、また帰って来たらご飯を食べに行こうね!』と、ベリンダ達からも笑顔で見送られた。
「リュシエンヌ、交換訓練中なのに、私の護衛に付いてもらう事になっなしまってごめんなさい」
「メグ、気にしないで。2週間だけだし、訓練生としてはまだ2年もあるから。それに、メグと一緒に居られるのは嬉しいから」
問題なのは、ヴェルティル様だけ。
勿論、しっかりと魔法も掛けている。
とは言え、やっぱり見える範囲でヴェルティル様の姿を確認する事ができない。
ヴェルティル伯爵家は、“武”ではなく“文”の家名だ。勿論、そうだからと言って、騎士になってはいけないと言う事もないけど、そんな家系から一般的な騎士どころか、更なる上のレベルを求められる“影”に迄上り詰める事ができるのか?
『確かに、色々大変だけど…俺にはどうしても手に入れたいモノがあるからね』
『手に入れたい…モノですか?』
あの時はただ、更なる高みへと頑張るヴェルティル様が凄いとしか思わなかったけど、それは、公爵令嬢であるリリアーヌ様との仲を認めてもらう為─だったのかもしれない。
『──?リリアーヌ?元気にしてるよ。毎日幸せそうだし……』
だから、念願叶って───
ーうん。これ以上考えるのは止めようー
メグの護衛をやるからにはしっかりしないと!このまま気持ちにズルズル引き摺られると、マトモに護衛なんて果たせないし、立派な騎士にもなれない。これからの2週間、きっちりと護衛の任務を遂行して、胸を張ってトルガレントに帰れるように頑張ろう!!
と張り切っていたものの、シーフォールス王国は、もともと治安の良い国だ。貧富の差も大きくはなく、平民も比較的豊かな者が多いから、商団の馬車が列を成して走っていても、襲撃を食らう事は滅多にない。
そんなシーフォールスで、態々私が護衛に付く意味はあったのだろうか?
「うん。十分意味はあるよ。それに、対外的な警護もそうだけど、メグにとって慣れない世界の更に初めての国外だから、侯爵令嬢としてもサポートしてもらいたいんだ。仲の良いクレイオン嬢なら、メグも安心だろうからね」
ー第二王子、成長しましたねー
あの一件以降、第二王子もユラと少し距離を置いているのは知っていたけど、メグの事もちゃんと見る事ができているようだ。しかも、第二王子のメグを見る目は優しい。
「………なるほど……殿下、メグに無理強いだけはしないで下さいね」
「な────っ!」
本当に、分かりやすい人だ。
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