番から逃げる事にしました

みん

文字の大きさ
上 下
22 / 59

22 旅立ち

しおりを挟む
学年末ともなれば、1年生も2年生も授業がなく、卒業を控えた3年生も学校には来ない為、この時期の校内はとても静かだ。そんな静かな学校の図書室で本を読むのが好きで、私は午前中は図書室で本を読み、学校を出てお気に入りのお店でランチを食べて家に帰る─と言う日々を送っている。それも、後数日で終わりだ。

卒業式迄1週間。メグとユラは学校には来ていない。
メグは、新学期が始まる迄は訓練を中心に頑張るそうだ。ユラは、今でも厄介な友達と出掛けたりしているそうだけど、今はおとなしくしているそうだ─と言うより、おとなしくせざるを得ないよね。第二王子ではなく、王太子に釘を刺されたのだから。このまま、後一年おとなしく────

「──する訳ないか………」

申し訳無いけど、後はモニカとアデールに頑張ってもらおう。

「あら?リュシエンヌ?」
「え?あ、リリアーヌ様!」

今日も1人で食後のデザートを食べていると、リリアーヌ様に声を掛けられた。
リリアーヌ様は、王城からランチを食べに来たようだ。


「少し早いですが、卒業おめでとうございます。この1年ありがとうございました」
「こちらこそありがとう。リュシエンヌに毎日会えなくなるのは、少し寂しいわ」
「リリアーヌ様……」

ーリリアーヌ様と話せるのも、これで最後かなー

「また、落ち着いたらお茶でもしましょうね」
「はい……」
「それじゃあ、人を待たせているから失礼するわね」

リリアーヌ様は、そのまま奥にある個室へと入って行った。

ーあの個室で、ヴェルティル様と……ー

「……よし、帰ろう」

リリアーヌ様もヴェルティル様も好きだし、2人並んだ姿は眼福だけど、少し近付いてしまった分、胸が痛むのも確かな訳で……自分から胸を抉らない為にも、私は急いでデザートを食べて店を出た。


だから、私は知らなかった。その個室で誰が待っていたか──なんて。








******


卒業式の日は晴天だった。


「旅立ちにピッタリのお天気ね」
「1週間位掛かるだろうけど、気を付けて行くんだぞ」
「向こうに着く迄にも、手紙を書いてね」
「たまには帰って来るのよ?」
「ナメて来る奴には遠慮はいらないからな!」

「お母様、お父様、クロエお姉様、クレアお姉様、ありがとう。必ず手紙を書くわ。お兄様、ナメられないように頑張るわ」

学校で卒業式が行われている間に、私は家族と使用人総出の見送りの中、お別れの挨拶をしている。モニカとアデールとは、昨日のうちに挨拶を済ませていたから、今日は来ていない。別れが寂しくなるからと、私が断ったのだ。

『別に、今生の別れではないし、私からも会いに行くから!』
『リュシエンヌさまぁ……お元気でっ!!』
『『…………』』

何故か大泣きするアデールを見て、自然と笑みが溢れて、笑顔でお別れする事ができた。
メグとユラには手紙を書いてモニカに預けてある。新学期で登校した時に渡してもらう予定だ。正直、ユラには書く事が無くてかなり時間が掛かった割に…内容は薄っぺらいモノになったのは仕方無い。

リリアーヌ様にも手紙を書いたけど、ヴェルティル様とスタンホルス様とイーデン様には書いていない。

「お父様、お母様、我儘を聞いてくれてありがとう。必ず、クレイオンの名に恥じない立派な騎士になります」
「リュシーならなれるわ。体に気を付けてね」
「はい。それでは……行って来ます!」

「「「「お嬢様、行ってらっしゃいませ」」」」

皆に見送られ、私の乗った馬車が動き出した。
馬車の窓から、学校のある方へと視線を向ける。

ーヴェルティル様、どうかお幸せにー

リリアーヌ様とヴェルティル様が婚約、結婚すれば、時間差で私の耳にも入って来るだろうけど、その頃にはこの恋心も少しは落ち着いているだろう。新しい土地で新しい恋をしている可能性だってある…よね?

「兎に角、今からは目の前の事から全力で頑張ろう!」

寂しい気持ちには蓋をして、私は───



番から逃げる事にしました。






**????**


「あー……それは…ヤバイな…何故そんな事になったんだ!?何故今迄その情報を得られなかったんだ!?」
『申し訳ありません。アラール殿下が押さえていました』
「アラール……そう言う所だけは優秀だな………まぁ、その気持ちも分からなくもないが…さて、どうするか………」

左手を顎に当てて、右手の人差し指で机をトントンと叩きながら思案する。

「私が悩んだところで仕方無いか。暫くの間は怖ろしい事になりそうだが……」

結局、逃げられる事はないだろうから──

「…………」

ーその時は、全力で労うとしようー

「報告お疲れ様。これについての調査はこれで終わりで、ここだけの話としておこう……お互いの身の為に…分かるな?」
『承知しました』

それだけ言うと、張っていた結界を解除した。

「いつまで逃げられるやら………頑張れ……」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最初で最後の我儘を

みん
恋愛
獣人国では、存在が無いように扱われている王女が居た。そして、自分の為、他人の為に頑張る1人の女の子が居た。この2人の関係は………? この世界には、人間の国と獣人の国と龍の国がある。そして、それぞれの国には、扱い方の違う“聖女”が存在する。その聖女の絡む恋愛物語。 ❋相変わらずの、(独自設定有りの)ゆるふわ設定です。メンタルも豆腐並なので、緩い気持ちで読んでいただければ幸いです。 ❋他視点有り。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字がよくあります。すみません!

【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆
恋愛
 獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。  私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。  だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。 『飼い主』の存在だ。  獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。  この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。  例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。  そう。私の番は前世持ち。  そして。 ―――『私の番には飼い主がいる』

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~

白乃いちじく
恋愛
 愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。 その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。  必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?  聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。 ***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

処理中です...