番から逃げる事にしました

みん

文字の大きさ
上 下
18 / 59

18 落ち着いた再会

しおりを挟む
「手強いわね………」
「何が手強いの?」
「─っ!?」

相変わらずの心地良い低音ボイスだ。一体、いつぶりだろうか?それでも本能は落ち着いている。魔法が効いていると言う事だ。
ゆっくりと振り返り──

「ヴェルティル様、お久し振りです」
「本当に久し振りだね」

ーあぁ…やっぱり…何もかもが…かっこいいー

葵色の髪と青色の瞳は、ヴェルティル様の為にあるんじゃない?そもそも、その低音ボイスだけで惚れてしまうんですけど?もう惚れてますけど?もう、本当に、本当に!何が何でもリリアーヌ様と幸せになってもらわないと!

王城ここには、メグに会いに?」
「はい。モニカと一緒に来ました。、ユラは友達と出掛けているようですけど」
「そうなんだね……」
「………」

ーヴェルティル様は、反応無しかー

まぁ、リリアーヌ様とヴェルティル様はメグとは直接関わっていてメグの性格も知っているから、妙な噂話なんかに惑わされる事はないか。

「迷惑じゃなかったら、一緒に付いて行って、メグとラインズリー嬢に挨拶をしようかな」
「メグもモニカも喜びます」

ー気も利く男前ですー

本能が騒ぐ事も暴れ出す事もない。ただ、心臓だけはドキドキと騒いでいるけど、これはただ純粋に私がヴェルティル様の事が好きだからだ。

「今日も、リリアーヌ様とお仕事ですか?」
「いや、今日はレイモンド様の所で事務処理をしているんだ」

レイモンド=オズ=ユーグレイシア

アラール第二王子の兄で、ユーグレイシア王国の王太子だ。ヴェルティル様は、学校を卒業した後は、その王太子の側近として城仕えするそうだ。その為に、ヴェルティル様は、ここ最近は殆ど学校には来ていない。

「王太子様の側近になるとは、大変でしょうけど凄い事ですね」

王族の側近と言えば、公爵か侯爵の家門で占められる事が殆どだ。そこに、伯爵家の次男が入るのだ。ヴェルティル様には、余程の才能があると言う事だし、王太子が身分関係無く人を見ていると言う事だろう。

ー第二王子も、ちゃんと人を見れる人なら良いけどー

正直、私は第二王子の事をよく知っている訳ではない。私が侯爵令嬢だとしても、メグの事がなければ、会って会話を交わす事もなかっただろう。

「確かに、色々大変だけど…俺にはどうしても手に入れたいモノがあるからね」
「手に入れたい…モノですか?」

ー何だろう?ー

男前な上に才能があって、隣にはこれまた完璧淑女のリリアーヌ様が居るのに、どうしても手に入れたいモノが他にあるとか……

「更なる高みへと上り詰めるんですか?」
「ふっ…更なる高みって…一体、クレイオン嬢の中で、俺はどんな崇高な奴になっているんだか……」

面白そうに笑うヴェルティル様の顔が尊い。

ー脳内にしっかり焼き付けておかないと!ー

久し振りにホワホワとした気持ちでメグの部屋迄戻って来たのに───



「最近、週末の訓練はしていないそうだけど、どうしてだい?」
「それは…最近は学校での必須のレポートがあったのと、神官さん達が、疲れているだろうからと気を遣ってくれたので…それで……」
「それじゃあ、今日も、お茶をしながら3人でレポートを?」

「「…………」」

エミリーに扉を開けてもらうと、そんな会話が耳に入って来た。怒ってはいないが、少し冷たさを含んだ声の主はアラール第二王子だ。
ヴェルティル様が私に何か言いたそうな視線を向けて来たけど、私は自分の口に人差し指を立てて“何も言わないで”と言う意思表示をすると、ヴェルティル様は静かに頷いてくれた。
メグと第二王子は、私とヴェルティル様には気付いていないようだから、そのまま扉を少し開けた状態で部屋には入らず、その場で会話を聞く事にした。



「今日は、大神官様が、私に気を遣ってくれて、友達とゆっくりして下さいと言ってくれて…」
「そう。大神官が…そうだろうね。大神官や神官は聖女様を第一ににしてくれるからね。でも、だからと言って、それにずっと甘えているのもどうか─と思うけど」
「……すみません」

ーメグが責められて、謝る必要ある?無いよね?ー

メグはつい最近まで異世界で過ごしていたのだ。もともとこちらの世界の人間だったと言っても、今のメグはまだまだこの世界には慣れていない。慣れていないのに、必死になって聖女の訓練や勉強を頑張っている事は、メグの側に居て見ていれば分かる。メグが学校の宿題を忘れた事など一度も無いし、成績だって常に20位以内に入っている。もともと卒なくこなすタイプではなく、努力家と言うタイプだ。
そんなメグに対して、どんな皮肉を言っているのやら。

ーユラ……か………ー

メグを思ってメグの為にしています─フリをして、メグを陥れているようにしか見えないよね?

「………」

もしそうなら、元の世界でメグに友達ができなかった理由も、ユラのせいだったんじゃないんだろうか?でも、何の為に?そんな事をして、ユラが得をする事があるんだろうか?

「謝るのは私にではなく、神官達にだろう?」
「…………」

ー第二王子、もっとしっかり見てくれませんか?ー

私とヴェルティル様に気付いているモニカと、視線を合わせて頷いた。



しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆
恋愛
 獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。  私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。  だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。 『飼い主』の存在だ。  獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。  この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。  例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。  そう。私の番は前世持ち。  そして。 ―――『私の番には飼い主がいる』

処理中です...