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12 甘い香り
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結局、放課後にヴェルティル様を見掛ける事はできなかった。
リリアーヌ様とスタンホルス様とイーデン様との3人だけで、話し合う事があったそうで、ヴェルティル様は先生に挨拶をした後、直ぐに3人同じ馬車に乗り帰ってしまったのだった。会えなくて残念─としょげていると
『明日の放課後、メグとユラが王城に帰った後、5人でお茶をしましょう』
と言う手紙をリリアーヌ様からいただいた私のテンションは、その瞬間一気に上昇した。何とも単純な私です。
******
「緊張して眠れなかった…」
「リュシーにも可愛らしいところがあったのね」
「失礼な!」
まぁ、寝不足だけど、食事はしっかりとれたけど。
『今日のリュシエンヌは、いつもよりフワフワと浮いた感じね?』
と、メグにも不思議そうな顔で言われてしまったけど…それも仕方無い。久し振りにヴェルティル様に会えるのだから。ようやく、手紙のお礼が言える─のは良いけど、“寂しい”と書かれていたのだから……会って、少しは“嬉しい”と思ってくれるだろうか?思ってもらえたら嬉しい。
そんなフワフワした気持ちのまま、その日の授業を乗り切った。
「それじゃあ、また明日」
「「メグ、ユラ、また明日」」
放課後、王城からの迎えの馬車に乗り込んだメグとユラに挨拶をして、手を振ってその馬車を見送った。そして、私とモニカはそのまま、リリアーヌ様とスタンホルス様とヴェルティル様がやって来るのを待つ事になっている。これから、5人で歩いて学校の近くにあるカフェでお茶をする予定だ。
ー久し振りに会えると思うと緊張するなぁー
ドキドキとワクワクとが混ざり合って、心音がとんでもない事になっている。ふふっ─と笑ってしまいそうになったところで、微かにあの香りが漂って来た。爽やかなのに、甘さを含んでいる香りだ。それは、少しずつ濃くなって来ている。
ーヴェルティル様が、近付いて来てるって…事だよね?ー
この香りを間違える筈はない。ヴェルティル様以外で、この香りがする人には会った事がない。だから、この香水?も、ヴェルティル様が特別にブレンドした物だったりするのかもしれない。どんな香水なのか、訊いてみるのも────
ドクンッ
ー何?ー
香りが強くなるのと比例して、心臓のドキドキも増していくのが分かった。それは、久し振りに会えるからだと。嬉しい反面緊張しているからだと。
「…………」
それなのに、更にその香りが強くなって来ると、何故か体中がザワザワと騒ぎ出し、心臓がキュウッとした痛みを訴え始めた。
「クレイオン嬢、久し振りだね。元気になったようで安心したよ」
「………」
背後から掛けられた声は、相変わらずの低音ボイスで私の心を刺激する。振り返ればそこにヴェルティル様が居るのだろう。今すぐに振り返って挨拶をしたいのに、体が強張って動かない。
違う
体が動かないように……力を入れているのだ。
「クレイオン嬢?」
「リュシー、どうしたの?」
何の反応もしない私に、モニカとヴェルティル様が更に声を掛けてくる。何とか横に居るモニカに顔を向けると、私の顔を見たモニカが一瞬驚いたような顔をした後、直ぐに表情を戻してから私の背後に視線を向けた。
「ヴェルティル様、お久し振りです。それで…申し訳無いのですが、今日のお茶には、私とリュシーは行けなくなってしまって…」
「え?何かあったの?」
「明日提出の課題に不備があって、やり直ししなければならなくなってしまって…なので、リリアーヌ様とスタンホルス様にお伝えしていただけますか?」
「あぁ、それなら仕方無いね。2人には私から伝えておくよ。課題、頑張って」
「ありがとうございます」
「………」
モニカがお礼を言うと、私の背中を支えるように手を添えて歩き出した。そうして私は、ヴェルティル様を見る事も声を掛ける事もできず、その場を後にした。
*クレイオン邸*
「リュシー、大丈夫……じゃないわね?」
「……モニカ……どうして分かったの?」
「そう訊くって事は……そう言う事なのね?」
傍から聞けば何が何やら分からない会話だろう。
「クレア様にお願いされていたのよ」
「クレアお姉様?あ…」
すっかり忘れていたけど、何の香りか訊いた後、ヴェルティル様からの封筒を持って行ったっけ──
「香りに敏感な獣人のクレア様でも分からない香りで、勿論人間の私にも分からなかった香りだったのよ」
あれからクレアお姉様は、あの封筒を持ってモニカに会いに行き、香りが分かるか確認をしたそうだ。
そして、その香りは、私だけが分かる香りだった。ただ、私もその香りが分かるだけで、何故分かるのか─が分からなかった。でも、それは、さっきヴェルティル様の声を聞いた瞬間にハッキリと分かってしまった。頭ではなく、本能的に分かってしまったのだ。
爽やかな香なのに、甘さを含んでいる香り
その甘さは、心地良くもあり重たいモノでもある
その甘さを欲してしまい、どうしても手に入れたいと言う衝動に駆られてしまう
それは、獣人特有の香り
特別な相手だけが分かる香りだった
アラスター=ヴェルティル様は
私の番だったのだ
リリアーヌ様とスタンホルス様とイーデン様との3人だけで、話し合う事があったそうで、ヴェルティル様は先生に挨拶をした後、直ぐに3人同じ馬車に乗り帰ってしまったのだった。会えなくて残念─としょげていると
『明日の放課後、メグとユラが王城に帰った後、5人でお茶をしましょう』
と言う手紙をリリアーヌ様からいただいた私のテンションは、その瞬間一気に上昇した。何とも単純な私です。
******
「緊張して眠れなかった…」
「リュシーにも可愛らしいところがあったのね」
「失礼な!」
まぁ、寝不足だけど、食事はしっかりとれたけど。
『今日のリュシエンヌは、いつもよりフワフワと浮いた感じね?』
と、メグにも不思議そうな顔で言われてしまったけど…それも仕方無い。久し振りにヴェルティル様に会えるのだから。ようやく、手紙のお礼が言える─のは良いけど、“寂しい”と書かれていたのだから……会って、少しは“嬉しい”と思ってくれるだろうか?思ってもらえたら嬉しい。
そんなフワフワした気持ちのまま、その日の授業を乗り切った。
「それじゃあ、また明日」
「「メグ、ユラ、また明日」」
放課後、王城からの迎えの馬車に乗り込んだメグとユラに挨拶をして、手を振ってその馬車を見送った。そして、私とモニカはそのまま、リリアーヌ様とスタンホルス様とヴェルティル様がやって来るのを待つ事になっている。これから、5人で歩いて学校の近くにあるカフェでお茶をする予定だ。
ー久し振りに会えると思うと緊張するなぁー
ドキドキとワクワクとが混ざり合って、心音がとんでもない事になっている。ふふっ─と笑ってしまいそうになったところで、微かにあの香りが漂って来た。爽やかなのに、甘さを含んでいる香りだ。それは、少しずつ濃くなって来ている。
ーヴェルティル様が、近付いて来てるって…事だよね?ー
この香りを間違える筈はない。ヴェルティル様以外で、この香りがする人には会った事がない。だから、この香水?も、ヴェルティル様が特別にブレンドした物だったりするのかもしれない。どんな香水なのか、訊いてみるのも────
ドクンッ
ー何?ー
香りが強くなるのと比例して、心臓のドキドキも増していくのが分かった。それは、久し振りに会えるからだと。嬉しい反面緊張しているからだと。
「…………」
それなのに、更にその香りが強くなって来ると、何故か体中がザワザワと騒ぎ出し、心臓がキュウッとした痛みを訴え始めた。
「クレイオン嬢、久し振りだね。元気になったようで安心したよ」
「………」
背後から掛けられた声は、相変わらずの低音ボイスで私の心を刺激する。振り返ればそこにヴェルティル様が居るのだろう。今すぐに振り返って挨拶をしたいのに、体が強張って動かない。
違う
体が動かないように……力を入れているのだ。
「クレイオン嬢?」
「リュシー、どうしたの?」
何の反応もしない私に、モニカとヴェルティル様が更に声を掛けてくる。何とか横に居るモニカに顔を向けると、私の顔を見たモニカが一瞬驚いたような顔をした後、直ぐに表情を戻してから私の背後に視線を向けた。
「ヴェルティル様、お久し振りです。それで…申し訳無いのですが、今日のお茶には、私とリュシーは行けなくなってしまって…」
「え?何かあったの?」
「明日提出の課題に不備があって、やり直ししなければならなくなってしまって…なので、リリアーヌ様とスタンホルス様にお伝えしていただけますか?」
「あぁ、それなら仕方無いね。2人には私から伝えておくよ。課題、頑張って」
「ありがとうございます」
「………」
モニカがお礼を言うと、私の背中を支えるように手を添えて歩き出した。そうして私は、ヴェルティル様を見る事も声を掛ける事もできず、その場を後にした。
*クレイオン邸*
「リュシー、大丈夫……じゃないわね?」
「……モニカ……どうして分かったの?」
「そう訊くって事は……そう言う事なのね?」
傍から聞けば何が何やら分からない会話だろう。
「クレア様にお願いされていたのよ」
「クレアお姉様?あ…」
すっかり忘れていたけど、何の香りか訊いた後、ヴェルティル様からの封筒を持って行ったっけ──
「香りに敏感な獣人のクレア様でも分からない香りで、勿論人間の私にも分からなかった香りだったのよ」
あれからクレアお姉様は、あの封筒を持ってモニカに会いに行き、香りが分かるか確認をしたそうだ。
そして、その香りは、私だけが分かる香りだった。ただ、私もその香りが分かるだけで、何故分かるのか─が分からなかった。でも、それは、さっきヴェルティル様の声を聞いた瞬間にハッキリと分かってしまった。頭ではなく、本能的に分かってしまったのだ。
爽やかな香なのに、甘さを含んでいる香り
その甘さは、心地良くもあり重たいモノでもある
その甘さを欲してしまい、どうしても手に入れたいと言う衝動に駆られてしまう
それは、獣人特有の香り
特別な相手だけが分かる香りだった
アラスター=ヴェルティル様は
私の番だったのだ
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