7 / 59
7 忠告
しおりを挟む
「このチョコレート、美味しかったからお裾分けにどうぞ」
「ありがとうございます」
「疲れた時は甘い物、飴をどうぞ」
「ありがとうございます」
「ランチ、それだけで足りるの?」
「足ります。大丈夫です」
「………アラスター、貴方はいつからリュシエンヌの母親になったの?」
「………母親………」
ここは学校内にある食堂で、私は今、リリアーヌ様とヴェルティル様と3人でランチを食べている─のだけど。
私が二度もヴェルティル様の前で体調を崩したからか、最近特にヴェルティル様からの餌付け─気遣いが増えた。ヴェルティル様に『あげる』と言われて断れる筈もなく、いつも貰ってしまっているけど……
ーリリアーヌ様からすれば、見ていて気持ちの良いものではないよねー
自分の恋人が、自分以外の女性─しかも、獣人に何かをあげたりしていたら、腹立たしく思っていてもおかしくない。私なんかのせいで、2人が仲違いするなんて事は……
「絶対駄目だ!」
「「何が?」」
リリアーヌ様とヴェルティル様が、同じような顔をして私を見ている。並んでいる2人を見ると、やっぱりお似合いだな─と思う。
「何もありません。ただ、いつも気を遣っていただいて、ありがとうございます。もう大丈夫なので、気にしないで下さい」
ランチが終わると、学年の違う2人とは別れて、私は午後の授業を受ける為に教室へと向かった。
『もう大丈夫』とは言ったものの、本当は、あれから体調がイマイチな日が増えた。それはとても軽いもので、軽い頭痛や立ちくらみ、体が怠いと言った感じだ。
「クレイオンさん、ちょっと良いかしら?」
「はい…何でしょうか?」
教室への廊下を歩いていると、2人の令嬢に呼び止められた。制服のリボンのカラーが赤色だから3年生だと言う事が分かる。
「私達、リリアーヌ様とは仲良くしていただいているのだけど、リリアーヌ様が貴方に言わないから、私から言わせてもらうわね。貴方、最近ヴェルティル様と親しくし過ぎよ。ヴェルティル様が声を掛けてくれるのは、リリアーヌ様が貴方の事を気に掛けてくれているからであって、貴方に気を向けているからではないのよ」
「ヴェルティル様は誰にもでもお優しい方だから、貴方にも優しいだけだから、勘違いはしないように。リリアーヌ様は公爵令嬢で、もともと王太子様と婚約するのではないか─と言われていたのに、それよりもヴェルティル様を選んだ位の仲なんだから、その2人の邪魔などしない事ね」
“王太子よりも…ヴェルティル様を選んだ”
ーそれは、知らなかったー
「勿論です。私は……リリアーヌ様とヴェルティル様お2人が並んでいる姿に憧れているだけなので!これからは気を付けます!」
「あら、そうなの?それなら問題無いわね。兎に角、これからは気を付けなさい」
ツンとしたまま、その2人の令嬢は去って行った。
リリアーヌ様が、他人を使って態々忠告をするとは思えないから、あの2人が自分の意思で私に忠告をしに来たんだろう。傍から見れば、私がヴェルティル様に近過ぎるように見えるから。言われた通り、優しくされて調子にのっていたのかもしれない。
「気を付けないとね……」
聖女様の事があるから、必要以上に距離を空ける事は難しいかもしれないけど、それなりの距離を保たないとね…。
「駄目だ…やっぱり体が怠い……」
もともと重く感じた体が、更に重みを増したように息苦しくなってしまい、結局私は、そのまま早退する事にした。
そして、その夜から熱を出し、暫くの間学校を休む事となった。
******
「リュシー、大丈夫?」
『体が熱くて……』
「第二次成長期が早いのは、シロの影響かしら?普通なら3日程で治まるのだけど…何か欲しい物はある?何か口にできそう?」
ベッドで寝込んでいる私の側に付き添ってくれているのは、お母様だ。
『冷たい水が欲しい……』
「今すぐ持って来るから!」
バンッと大きな音を立てて扉を開けて出て行ったのは、二つ年上のクロエお姉様。
“第二次成長期”
獣人には、身体に変化が起こる成長が二度ある。
第一次成長期は、赤ちゃんから幼児になる頃に起こる。赤ちゃんの頃は獣の姿で過ごし、第一次成長期を迎えると共に人の姿へと変化できるようになる。
そして、第二次成長期は、成人となる時に起こる。平均的には20歳前後に起こるのだけど、何故か、私は16歳の今現在、その第二次成長期を迎える事となってしまったのだ。
この二つの成長期には、身体がガラリと変わってしまう為、高熱が出て数日は寝込む事になる。そして、ある意味弱っているせいで、人ではなく獣姿になってしまうのだ。だから、私も今、豹の姿でベッドに横たわっている。豹になるのも久し振りだ。学校に通い出してからは、ずっと人の姿をしていたから。
「リュシー、大丈夫か!?」
『……お兄様?』
これまたバンッと大きな音を立てて扉を開けて入って来たのは五つ年上のローランドお兄様。今日は、早番だったのか、まだ明るいうちに帰って来たようだ。
「お兄様!もっと静かにできないの!?リュシーの体に障るじゃない!」
「ああ!すまない!」
「クロエもローランドも落ち着きなさい」
そんな2人を窘めたのは、お母様だった。
「「すみません」」
相変わらずのお兄様とお姉様に、なんだかホッとします。
「ありがとうございます」
「疲れた時は甘い物、飴をどうぞ」
「ありがとうございます」
「ランチ、それだけで足りるの?」
「足ります。大丈夫です」
「………アラスター、貴方はいつからリュシエンヌの母親になったの?」
「………母親………」
ここは学校内にある食堂で、私は今、リリアーヌ様とヴェルティル様と3人でランチを食べている─のだけど。
私が二度もヴェルティル様の前で体調を崩したからか、最近特にヴェルティル様からの餌付け─気遣いが増えた。ヴェルティル様に『あげる』と言われて断れる筈もなく、いつも貰ってしまっているけど……
ーリリアーヌ様からすれば、見ていて気持ちの良いものではないよねー
自分の恋人が、自分以外の女性─しかも、獣人に何かをあげたりしていたら、腹立たしく思っていてもおかしくない。私なんかのせいで、2人が仲違いするなんて事は……
「絶対駄目だ!」
「「何が?」」
リリアーヌ様とヴェルティル様が、同じような顔をして私を見ている。並んでいる2人を見ると、やっぱりお似合いだな─と思う。
「何もありません。ただ、いつも気を遣っていただいて、ありがとうございます。もう大丈夫なので、気にしないで下さい」
ランチが終わると、学年の違う2人とは別れて、私は午後の授業を受ける為に教室へと向かった。
『もう大丈夫』とは言ったものの、本当は、あれから体調がイマイチな日が増えた。それはとても軽いもので、軽い頭痛や立ちくらみ、体が怠いと言った感じだ。
「クレイオンさん、ちょっと良いかしら?」
「はい…何でしょうか?」
教室への廊下を歩いていると、2人の令嬢に呼び止められた。制服のリボンのカラーが赤色だから3年生だと言う事が分かる。
「私達、リリアーヌ様とは仲良くしていただいているのだけど、リリアーヌ様が貴方に言わないから、私から言わせてもらうわね。貴方、最近ヴェルティル様と親しくし過ぎよ。ヴェルティル様が声を掛けてくれるのは、リリアーヌ様が貴方の事を気に掛けてくれているからであって、貴方に気を向けているからではないのよ」
「ヴェルティル様は誰にもでもお優しい方だから、貴方にも優しいだけだから、勘違いはしないように。リリアーヌ様は公爵令嬢で、もともと王太子様と婚約するのではないか─と言われていたのに、それよりもヴェルティル様を選んだ位の仲なんだから、その2人の邪魔などしない事ね」
“王太子よりも…ヴェルティル様を選んだ”
ーそれは、知らなかったー
「勿論です。私は……リリアーヌ様とヴェルティル様お2人が並んでいる姿に憧れているだけなので!これからは気を付けます!」
「あら、そうなの?それなら問題無いわね。兎に角、これからは気を付けなさい」
ツンとしたまま、その2人の令嬢は去って行った。
リリアーヌ様が、他人を使って態々忠告をするとは思えないから、あの2人が自分の意思で私に忠告をしに来たんだろう。傍から見れば、私がヴェルティル様に近過ぎるように見えるから。言われた通り、優しくされて調子にのっていたのかもしれない。
「気を付けないとね……」
聖女様の事があるから、必要以上に距離を空ける事は難しいかもしれないけど、それなりの距離を保たないとね…。
「駄目だ…やっぱり体が怠い……」
もともと重く感じた体が、更に重みを増したように息苦しくなってしまい、結局私は、そのまま早退する事にした。
そして、その夜から熱を出し、暫くの間学校を休む事となった。
******
「リュシー、大丈夫?」
『体が熱くて……』
「第二次成長期が早いのは、シロの影響かしら?普通なら3日程で治まるのだけど…何か欲しい物はある?何か口にできそう?」
ベッドで寝込んでいる私の側に付き添ってくれているのは、お母様だ。
『冷たい水が欲しい……』
「今すぐ持って来るから!」
バンッと大きな音を立てて扉を開けて出て行ったのは、二つ年上のクロエお姉様。
“第二次成長期”
獣人には、身体に変化が起こる成長が二度ある。
第一次成長期は、赤ちゃんから幼児になる頃に起こる。赤ちゃんの頃は獣の姿で過ごし、第一次成長期を迎えると共に人の姿へと変化できるようになる。
そして、第二次成長期は、成人となる時に起こる。平均的には20歳前後に起こるのだけど、何故か、私は16歳の今現在、その第二次成長期を迎える事となってしまったのだ。
この二つの成長期には、身体がガラリと変わってしまう為、高熱が出て数日は寝込む事になる。そして、ある意味弱っているせいで、人ではなく獣姿になってしまうのだ。だから、私も今、豹の姿でベッドに横たわっている。豹になるのも久し振りだ。学校に通い出してからは、ずっと人の姿をしていたから。
「リュシー、大丈夫か!?」
『……お兄様?』
これまたバンッと大きな音を立てて扉を開けて入って来たのは五つ年上のローランドお兄様。今日は、早番だったのか、まだ明るいうちに帰って来たようだ。
「お兄様!もっと静かにできないの!?リュシーの体に障るじゃない!」
「ああ!すまない!」
「クロエもローランドも落ち着きなさい」
そんな2人を窘めたのは、お母様だった。
「「すみません」」
相変わらずのお兄様とお姉様に、なんだかホッとします。
977
お気に入りに追加
2,029
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~
白乃いちじく
恋愛
愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。
その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。
必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?
聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。
***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる