番から逃げる事にしました

みん

文字の大きさ
上 下
4 / 59

4 300年

しおりを挟む
「あのっ…すみません!本当に!」
「ふふっ…そんなに必死に謝らなくて良いわよ。どうせ、“私なんかが、恐れ多くもカシオス公爵邸になんて行けません”とでも思ったのでしょう?」
「ゔっ……バレバレで……」

ー正しく、その通りです!ー

「リュシエンヌと知り合ってから1年よ?もう、貴方が何を考えているかなんて、簡単に予想できるようになったわ。兎に角、“私なんかが”と言う理由で断るのは無しよ。必ず来ること。分かった?」
「分かりました……」
「……」

リリアーヌ様がニッコリ微笑めば、その隣でヴェルティル様が目を細めて笑っていた。





私─リュシエンヌ=クレイオン─は、豹族の獣人で、リリアーヌ様とヴェルティル様は人間だ。
かつて、獣人と人間は幾度となく争いを繰り返していた。それも、今から400年程前に平和条約が結ばれて以降争いはなくなったけど、身体能力の優れた獣人と、普通の人間との間には、どうしても力の差があり獣人が国になっていた。
それが、200年程前から人間が魔力も持つようになり、魔法を使えるようになると、獣人との力の差が少なくなり、今ではほぼ同等の力を持つようになった。そのお陰で、この国での貴族は人間と獣人もほぼ半数ずつ居る。それに、獣人が人間を見下すような事も減り、異種族で結婚する事も珍しい事ではなくなった。
そのせいか、この100年程で特に獣人には大きな変化があった。以前は、獣人と人間との子供は9割の確率で獣人の子が生まれていたが、今では5割となり、どちらが生まれてきてもおかしくない状態になっている。

人間の子が生まれると、獣人族から母子ともに一族から蔑まされたり、家督を継ぐ事が許されなかったりする事もよくあった。

一番大きく変わったのは、獣人特有の“番”の存在だ。異種族結婚を繰り返すうちに、獣の本能的なモノが薄くなって来ているのか、番を求める本能が無くなって来ている─と言う研究発表が出された。それに、番でなくても、魔力持ちの人間との間でも比較的子供ができやすくもなっている。
それでも、血の純血を重視する古株の獣人貴族が居るのも確かで、その古株貴族達以外では、獣人も人間も仲良く平和に暮らしている。

そんな訳で、人間のリリアーヌ様とヴェルティル様と、獣人の私も特に問題無くお付き合いをさせてもらっているのだ。

「番か………」

獣人にとって、番は今でもやっぱり憧れの存在とも言われている。ただ、本能が薄れてしまっているからなのか、番だと分かっても“どうしても手に入れたい!”と思う事はなく、番とは違う人と結婚したと言う事例も多々あるそうだ。

300もそうであったらー

「………」

なんて、今更思ったところで仕方無い。全て終わった事だ。

私の前世の記憶が蘇ったのは、私の8歳の誕生日の前日だった。『明日の誕生日会が楽しみ!』なんてウキウキしながらベッドで眠りに就いて……その眠りの中で前世の全ての記憶が蘇ったのだ。そして目が覚めた後のリュシエンヌわたしは大変だった。

エリナわたしにとって、恐怖の対象であった獣人に生まれ変わっていたのだ。それはそれは、パニックにも近いものがあった。リュシエンヌは獣人なのに、『わたしが人間だとバレたらどうしよう?』『また番が現れたらどうしよう』と恐ろしくなってしまい、私は自分の部屋から飛び出して邸からも飛び出して、そのまま庭先にある池に飛び込んで──



目を覚ますと、そこには父と、泣き腫らした顔をしたと母と兄と姉達が居た。
私が池に飛び込んだところを庭師が見ていたようで、すぐに救い出してくれたお陰で助かったのだと。『一体何があったのか?』『誰かに何かをされたのか?』と、私をギュウギュウに抱きしめながら訊いてくる両親や兄や姉達に、前世の話などできる筈もなく……『怖い夢をみて……ごめんなさい…』と、泣きながら嘘をつくのが精いっぱいだった。

それからは、両親と兄と姉達からは、過保護過ぎる過保護ぶりで見守られながら育つ事となってしまった。でも、そのお陰で“私はエリナではなく、リュシエンヌ=クレイオンなんだ”と思えるようになった。
今では、獣人としての誇りもあるし、家族皆の事が大好きだ。未だに過保護過ぎるのは…少し困るところもあるけど。
ただ一つ。やっぱり番に対してだけは抵抗があるのは確かだ。ただ、番と巡り会える確率は、この300年の間に更に低くなり、5%未満なんだそうで、滅多に巡り会える事はないだろう。出会えれば奇跡。

「奇跡なら、第二の人生を与えてくれた事だけで十分だわ」

エリナは苦しんだ。それなのに、アーティー様獣人を恨む事なく、番であった自分を恨みながら最期を迎えたのだ。

ー今世では、一緒に幸せになろうー

私はそっと、記憶の中に居るエリナに声を掛けた。




しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆
恋愛
 その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。  焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。  どこかから注がれる――番からのその視線。  俺は猫の獣人だ。  そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。  だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。  なのに。  ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。  しかし、感じるのは常に視線のみ。  コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。  ……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。

音無砂月
恋愛
幼い頃から気心知れた中であり、婚約者でもあるディアモンにある日、「君は運命の相手じゃない」と言われて、一方的に婚約破棄される。 ディアモンは獣人で『運命の番』に出会ってしまったのだ。

処理中です...