番から逃げる事にしました

みん

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*ユーグレイシア王国*


「今日もカッコ良くない?」
「はいはい。今日も男前よ」

ここは、ユーグレイシア王国の王都にある学校の中庭。
そこで、私は親友のモニカと2人でランチを食べている。そして、その中庭の少し奥にあるベンチに、とある男女2人が座って会話をしている。

その2人とは─

女性の名は、リリアーヌ=カシオス公爵令嬢。
ピンクゴールドの綺麗な長髪で、金色の瞳をしている美女。私よりも一つ年上で、公爵令嬢でありながら驕る事なく、下級貴族や平民にも優しい誰もが憧れるような令嬢だ。

そのカシオス令嬢の横に居る男前は、アラスター=ヴェルティル伯爵令息。葵色の髪に青色の瞳をしている。彼も私よりも一つ年上で細身で身長が高くて手足が長くて笑顔が素敵で低音ボイスが耳に心地いい。

「はぁー……完璧じゃない?」
「そうね………」

呆れた顔をして私を見ているモニカには、私ももう慣れて来た。

「そんなに好きなのに、何も望まないって言う事が不思議で仕方無いわ。貴方は侯爵令嬢で、向こうは伯爵令息なんだから、リュシーが望めば彼を側に置けるのに」
「私は、あの2人を見てるだけで十分なの」


私とヴェルティル様が初めて会ったのは、学校に入学してすぐに行われた入学パーティーの時だった。パーティーの途中で気分が悪くなり、テラスに出て座っていると『大丈夫?』と言って、声を掛けてくれたのがヴェルティル様だった。素直に気分が悪くて─と答えると『申し訳無いが、少しだけ我慢をして下さい』と言うと、私を抱き上げてそのまま医務室迄連れて行ってくれたのだ。『恥ずかしければ、顔を隠して下さい』と、ヴェルティル様の方が申し訳無さそうな顔をしていた。歩き方も、私に負担が掛からないように気を使ってくれているのが分かった。その声も心地よかった。初めて会った筈なのに、何故か安心してしまい、私はそのまま睡ってしまっていた─のは、何とも恥ずかしい話だ。

目を覚ましたのは翌日の早朝で、そこには既にヴェルティル様の姿はなく、校医せんせいから私を運んでくれたのはアラスター=ヴェルティル様だと言う事を教えてもらったのだった。



それから、直接お礼を言えたのは1週間後だった。

「先日は、助けていただいて、ありがとうございました。何かお礼を───」
「お礼なんていらないよ。寧ろ、抱き上げて恥ずかしい思いをさせてしまって、申し訳無かったぐらいだから。でも、元気になって良かった」

ーあ、好き…かもー

、そろそろ生徒会室に…あら?ごめんなさい何かお話し中だった?」
。大丈夫だ。」
「………」

“アラスター”“リリアーヌ”

名前で呼び合う仲と言う事は──

「あ、私、リュシエンヌ=クレイオンです。本当に、ありがとうございました」

まだ名乗ってもいなかった事に気付き、慌てて名前を言ってからもう一度お礼を言う。

「お礼はそれだけで十分だから、気にしないで下さいね。それじゃあ、これで……」

そうして、2人は私に背を向けて歩いて行った。

「…………」

まさしく美男美女。文句のつけようのないお似合いの2人だった。




それから、学校生活も慣れて来ると色んな事が分かって来る。勿論、ヴェルティル様の事も色々分かった。
あの時の美女は公爵令嬢で、ヴェルティル様とは婚約などはしていないけど、だと言う事。2人とも成績優秀で生徒会の役員であると言う事。よく街で2人で居る所見掛けると言う事。




「リリアーヌ様、ヴェルティル様、おはようございます」
「リュシエンヌ、おはよう」
「おはよう、クレイオン嬢」

一目惚れに近い恋は、一瞬にして終わってしまった──訳ではなく、やっぱりヴェルティル様を見ると嬉しくなるし、声を聞くとドキドキする。だからと言って、ヴェルティル様とどうかなりたいとは思っていない。
好きな人には幸せになって欲しいから。勿論、その幸せが私の隣にあれば嬉しいけど、私ではなくリリアーヌ様の隣にあるのなら、2人で幸せになって欲しい。
何と言っても、本当にお似合いの2人だから。

「リュシエンヌ、今度、私の家にご招待しても良いかしら?」
「リリアーヌ様の家に……ご招待??」

リリアーヌ様の家と言えばカシオス公爵邸だよね?カシオス公爵と言えば、代々国王の側近として仕えているような名家で、過去には王妃となった人も居るようなご立派な血筋だったよね?そんな人達が住む邸に……

「え…無理です??」
「何故疑問形なの………」
「え?あ!すみません!声に出てましたか!?違うんです!いえ、違う事も無い訳では無いと言うか…」
「「………ふっ…………」」

高位の貴族からのお誘いを断るなんて、有り得ない程の失礼だ!と焦っていると、リリアーヌ様とヴェルティル様が堪え切れない─と言った感じで笑い出した。



ー2人並んでの笑顔は眼福です!ー



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