3 / 59
3 出会い
しおりを挟む*ユーグレイシア王国*
「今日もカッコ良くない?」
「はいはい。今日も男前よ」
ここは、ユーグレイシア王国の王都にある学校の中庭。
そこで、私は親友のモニカと2人でランチを食べている。そして、その中庭の少し奥にあるベンチに、とある男女2人が座って会話をしている。
その2人とは─
女性の名は、リリアーヌ=カシオス公爵令嬢。
ピンクゴールドの綺麗な長髪で、金色の瞳をしている美女。私よりも一つ年上で、公爵令嬢でありながら驕る事なく、下級貴族や平民にも優しい誰もが憧れるような令嬢だ。
そのカシオス令嬢の横に居る男前は、アラスター=ヴェルティル伯爵令息。葵色の髪に青色の瞳をしている。彼も私よりも一つ年上で細身で身長が高くて手足が長くて笑顔が素敵で低音ボイスが耳に心地いい。
「はぁー……完璧じゃない?」
「そうね………」
呆れた顔をして私を見ているモニカには、私ももう慣れて来た。
「そんなに好きなのに、何も望まないって言う事が不思議で仕方無いわ。貴方は侯爵令嬢で、向こうは伯爵令息なんだから、リュシーが望めば彼を側に置けるのに」
「私は、あの2人を見てるだけで十分なの」
私とヴェルティル様が初めて会ったのは、学校に入学してすぐに行われた入学パーティーの時だった。パーティーの途中で気分が悪くなり、テラスに出て座っていると『大丈夫?』と言って、声を掛けてくれたのがヴェルティル様だった。素直に気分が悪くて─と答えると『申し訳無いが、少しだけ我慢をして下さい』と言うと、私を抱き上げてそのまま医務室迄連れて行ってくれたのだ。『恥ずかしければ、顔を隠して下さい』と、ヴェルティル様の方が申し訳無さそうな顔をしていた。歩き方も、私に負担が掛からないように気を使ってくれているのが分かった。その声も心地よかった。初めて会った筈なのに、何故か安心してしまい、私はそのまま睡ってしまっていた─のは、何とも恥ずかしい話だ。
目を覚ましたのは翌日の早朝で、そこには既にヴェルティル様の姿はなく、校医から私を運んでくれたのはアラスター=ヴェルティル様だと言う事を教えてもらったのだった。
それから、直接お礼を言えたのは1週間後だった。
「先日は、助けていただいて、ありがとうございました。何かお礼を───」
「お礼なんていらないよ。寧ろ、抱き上げて恥ずかしい思いをさせてしまって、申し訳無かったぐらいだから。でも、元気になって良かった」
ーあ、好き…かもー
「アラスター、そろそろ生徒会室に…あら?ごめんなさい何かお話し中だった?」
「リリアーヌ。大丈夫だ。」
「………」
“アラスター”“リリアーヌ”
名前で呼び合う仲と言う事は──
「あ、私、リュシエンヌ=クレイオンです。本当に、ありがとうございました」
まだ名乗ってもいなかった事に気付き、慌てて名前を言ってからもう一度お礼を言う。
「お礼はそれだけで十分だから、気にしないで下さいね。それじゃあ、これで……」
そうして、2人は私に背を向けて歩いて行った。
「…………」
まさしく美男美女。文句のつけようのないお似合いの2人だった。
それから、学校生活も慣れて来ると色んな事が分かって来る。勿論、ヴェルティル様の事も色々分かった。
あの時の美女は公爵令嬢で、ヴェルティル様とは婚約などはしていないけど、良い仲だと言う事。2人とも成績優秀で生徒会の役員であると言う事。よく街で2人で居る所見掛けると言う事。
「リリアーヌ様、ヴェルティル様、おはようございます」
「リュシエンヌ、おはよう」
「おはよう、クレイオン嬢」
一目惚れに近い恋は、一瞬にして終わってしまった──訳ではなく、やっぱりヴェルティル様を見ると嬉しくなるし、声を聞くとドキドキする。だからと言って、ヴェルティル様とどうかなりたいとは思っていない。
好きな人には幸せになって欲しいから。勿論、その幸せが私の隣にあれば嬉しいけど、私ではなくリリアーヌ様の隣にあるのなら、2人で幸せになって欲しい。
何と言っても、本当にお似合いの2人だから。
「リュシエンヌ、今度、私の家にご招待しても良いかしら?」
「リリアーヌ様の家に……ご招待??」
リリアーヌ様の家と言えばカシオス公爵邸だよね?カシオス公爵と言えば、代々国王の側近として仕えているような名家で、過去には王妃となった人も居るようなご立派な血筋だったよね?そんな人達が住む邸に……
「え…無理です??」
「何故疑問形なの………」
「え?あ!すみません!声に出てましたか!?違うんです!いえ、違う事も無い訳では無いと言うか…」
「「………ふっ…………」」
高位の貴族からのお誘いを断るなんて、有り得ない程の失礼だ!と焦っていると、リリアーヌ様とヴェルティル様が堪え切れない─と言った感じで笑い出した。
ー2人並んでの笑顔は眼福です!ー
881
お気に入りに追加
2,018
あなたにおすすめの小説
私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。(すみません、予定がのびてます)
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる