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36 閑話ーシルヴィー

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15年と言う月日は、魔獣にとってはほんの一握りの時間で、大した事はない─と思っていた。





『ダルい…………』

15年ぶりに還って来たイーレン。これで、ようやく本当の意味で翠─ブルーナを護ってやれると思っていた。それが───

体内の魔力の流れが悪い上、体に上手く馴染みきれず、本来の力の半分も取り戻せない状態が続いている。おまけに、ここイーレンは、もともとの魔素も少ない為、その魔素を取り込んでもあまり変化を感じる事ができなかった。その為、できるだけ早く魔力を回復させる為に、魔力や体力をあまり使う事のないように、寝て過ごすようにしている。

ここには、日本とは違ってブルーナを虐げる者達が居る。特に、ニコルが一番の問題だ。大した魔法使いではないが、今の俺の力では、そのニコルからもブルーナを護れないだろう。だから、1日でも早く、ニコルがブルーナに手を出す前に、魔力を回復させなければ─と。




******


その日の朝、全身がゾワゾワとした感覚に襲われて目が覚めた。

『?』

恐怖を感じるような、安心するような…何とも言い難い感覚だ。それでも、危険を感じるようなものではなかった為、ベッドには居なかったブルーナを、そのままその部屋の中で、帰って来るのを待つ事にした。





そして、油断した結果──

「あら、ハティと言っても大した事ないのね?」

『グゥ─────ッ』

ブルーナがセオと一緒に部屋から出て行った後、部屋に残って寝ていた俺は、ニコルに“従の枷”を嵌められてしまった。

ーこんな……低レベルの魔法使いにやられるとは…ー

「やっぱり、私って凄い魔法使いなのね!ふふっ。ハティを従えさせる事ができるんですもの…きっと、これでお兄様も、私とセオドア様の婚姻を認めてくれるわ!でも…その前に………」

ニコルが、ニヤリと口を歪ませて笑う。

「飼い犬に手を噛まれたりしたら……はどんな顔をするかしら?ふふっ。楽しみだわ!」

ー俺が……ブルーナを?ー

俺がブルーナに噛み付くなど…有り得ない。とことん……抗ってやる………。









******


「───シルヴィ、そこのお子様と……ブルーナをサクッとやりなさい。」

『───っ!!』

部屋で何とか枷が外せないかもがいていると、ニコルに名を呼ばれてニコルの元へと転移してやって来れば、ブルーナと誰かをヤれ─と命令された。だが、それは何とか踏みとどまった。何故踏みとどまれたのか。それは、この部屋に、とんでもないがあったからだ。そののお陰で、ある意味体が動き難くなっていたのだ。

『あなたは、自分の意思でニコル王女に従っているの?それとも…その枷のせい?』と、どこからともなく聞こえてくる声に、俺は直ぐさま返答した。

俺はブルーナをずっと護って来た。
15年、共に異世界に行っていたから、魔力が馴染まず、ニコル程度の魔法使いに枷を嵌められ操られているだけだと。
ブルーナには、手を出したくないと。

『─分かった』

その声の主が誰だかは分からない。ただ、その声はとても安心できるものだった。

「何をしているの?シルヴィ!私─ニコルの言う事に、今すぐ!」
『─っ!!』

その言葉に、今度は素早く反応してしまい、後ろ足を勢いよく蹴り出し目の前に居る者達へと飛び掛かってしまった。

ーくっそ───!ー

「──ネージュ!」

それと同時に誰かが何かを叫ぶと、俺の目の前に淡い水色と白色の光が溢れ出し、そこから1匹の魔獣が現れた。

それは、俺よりも一回りくらい大きい魔獣─フェンリルだった。

ーヤバい。このフェンリルは……ヤバい!ー

チョコン─と、そこに座っているだけなのに、その体から発せられている殺気が半端無い。それだけで俺の体は痛みに襲われている。あの朝感じだモノは、このフェンリルだったかもしれない。

「シルヴィ!何をしているの!?早く、その犬を始末して、あの子をやってしまいなさい!」


『──誰が誰に……何をするのだ?』

ニコルの言葉に反応したのは、目の前のフェンリルだ。

『ハティと……名ばかりの魔法使い如きが……我と、我が主に手を出すのか?身の程知らずが────』

ブワッ──と、その犬から一気に魔力が溢れたかと思うと、そのフェンリルはどんどん大きくなり、2m以上の大きさになった。

ー駄目だ─あまりにも…格が違い過ぎるー

『あぁ、だが、感謝もしてやろう。我が、この地に戻って来るとは思わなかったが……色々とケリをつけるのには、良かったかもしれぬ故な。』

ニタリ─と嗤うフェンリル。

「ネージュ、落ち着いて?そのシルヴィと言う子は、ニコル王女に“の枷”を嵌められているだけで、その子は本来、ブルーナ王女を護っている魔獣だから、その子は傷付けたりしては駄目よ?」
『“ブルーナ王女”?では、コレが、小さき騎士の彼女の魔獣か?』
「そう。だから、この子は、今必死にニコル王女からのに抗ってるの。」

そこでようやく、誰か分からなかった声の主の存在が目に入った。

それは、とても小さな可愛らしい女の子─いや、女性だった────が………

ーヤバい……このフェンリルどころじゃない。一番ヤバいのは…彼女だ!ー

朝に感じだ恐怖感のようなモノは、彼女の存在からだ。意識を保つだけでも、正直、今の俺には辛いものがあった。そこを何とか必死で耐えていると、フェンリルがあっと言う間に俺に嵌められていた“従の枷”を解除し、俺はそのまま意識を失った。






******


「うーん…やっぱり、まだ魔力が馴染んでない感じだね。大丈夫?」
『少し体がダルい感じです。なかなか魔力が馴染まくて……』
「うん。15年だからね……」
『体力や魔力を使わないようにして寝る事にして、少しでも早く馴染ませようとはしていますが、なかなか思う様には回復していないんです。』
「うんうん。それだともっと時間が掛かると思うよ?もともと、イーレンには魔素が少ないみたいだし…。」
『──ですよね……一番良いのは、誰かに俺の体内に魔力を流してもらって、本来の魔力の流れを元に戻す事なんですけど……』
「うん。だね。」
『ただ、本来の俺のレベルに合うような魔獣や人間が、イーレンには居ないので………』
「うん。シルヴィが良いなら、してあげるよ?」
『──え?』
「してみる?」

いとも簡単にサラッと言うのは、見た目小動物リスのハルだ。
リュウと言う魔法使いも、ニコルがゴミと思える程の魔力持ちだが、ハル様はまた更に別格だ。しかし、それとはまた真反対で、その魔力自体はとても温かで優しいものだ。ただ、本能が恐怖を感じてしまい、自然と背筋が伸びて、言葉も丁寧になってしまっている。
そんな俺の様子を、これまた別格なフェンリルが、何とも愉快そうに見ている。

“借りてきた猫”─状態である。


そんなハル様の魔力を引き継いでいるのが

セオドア=カルザイン

確かに、セオの魔力も心地良い。

『…………』

ーセオとなら、名を交わせるだろうか?ー

セオと名を交わせれば、ブルーナをずっと護って行く事もできる。“一石二鳥”とか言うやつだ。俺の魔力が回復したら、ハル様に相談してみよう。








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