上 下
32 / 51

32 フェンリル

しおりを挟む
じゅうの枷に抗っている”─あぁ、だから、シルヴィは一度目は耐えていたのか。

『ハティ如きとは言え、ハティはそれなりの魔獣なのに……このレベルの魔法使いに……やられているのか?』
『…………』

今度は少し呆れたような視線を向けられているシルヴィ。

「うーん……仕方無いかな?その子も、ブルーナ王女と一緒に15年もの間、魔素や魔力とは無縁の生活をしていて、まだ、この世界の魔力と馴染み切ってないから、本来の力の半分も発揮できていないと思う。」
『ふむ。それなら…仕方無いか?』

ーそうだったのかー

この世界に戻って来てから、シルヴィはよく寝ていたけど、魔力が馴染んでいないから、魔力を馴染ませる為に寝ていたのかもしれない──と言うか……ハルさんとフェンリルの間に緊張感が全く無いのは……気のせいかな?

『主、ならば、我はハティを助ければ良いのか?それとも……そこの魔法使いをヤれば良いのか?』
「ネージュ…言い方、おかしいからね?ヤッたら駄目だよね?勿論、ネージュはその子をお願い。ニコル王女は、私に任せて。」
『ふむ…少し残念だが……仕方無い。』

そのフェンリルは、本当に残念そうな目でお姉様を一瞥した後、未だ微動だにしないシルヴィの目の前までゆっくりと歩み寄り、「フッ─」とシルヴィに息を掛けると、シルヴィの首にあった“従の枷”である魔法陣がサラサラと消えて失くなった。

「え?あんなにも…簡単に解除できるモノなの?」
「ブルーナ、深く考えない方が良い。母上と同様に、あのフェンリルもチート級のフェンリルなんだ。」

なるほど…。お互いチート級だから、主従関係を結べたと言う事なんだろう。

ドサッ─と、その場に崩れ落ちたシルヴィの首を、そのフェンリルがカプッと咥えて持ち上げて、私とセオ君の前迄運んで来てくれた。

「シルヴィ!」
『それなりに弱っているが、問題は無い。暫くは寝かせてるやると良い。』
「シルヴィを助けてくれて、ありがとう!」

『ふむ。』

フェンリルはコクリと頷いた後、また犬サイズの大きさに戻り、そのままセオ君の横にチョコンとお座りをして、尻尾をユラユラとさせている。

ー可愛い!ー

「何で……本当に…飼い主が役立たずなら、その魔獣も役立たずね!」

お姉様が、今度はシルヴィに向けて攻撃魔法を放ったけど、その魔法も、そのフェンリルがアッサリと消滅させてしまった。

『ふむ。ここまで弱い魔法使いも……珍しいな?』

お姉様が弱い───イーレンでは、誰一人として、お姉様に敵う魔道士はいないのに。

「一体…どうなっているの!?なら、お前を先に─!」

と、今迄よりも更に大きな魔法を展開させて、今度は目の前に居るハルさんに攻撃を仕掛けた。

「ハルさん!!」
「『大丈夫』」

焦る私とは対象的に、セオ君とそのフェンリルは至って穏やかに冷静にハルさんとお姉様を見ている。

「「───え?」」

思わず声が出たのは、私とお姉様。
お姉様が展開させたのは、大きな渦巻くような攻撃魔法だった。小さいハルさんなら、その渦の中に取り込まれてしまうのでは?と思う程の大きな攻撃魔法。

それに対してのハルさんは………片手を軽く上げただけだった。
そう。片手を軽く上げたのと同時に、お姉様の放った攻撃魔法が一瞬にして消えたのだ。

『我が主は凄いだろう?あの魔法使いの魔法が、と言う事もあるがな……』

と、そのフェンリルが尻尾を更にユラユラとさせながら、自慢気にハルさんを讃えてお姉様をディスっている。
そのフェンリルが、如何にハルさんの事が好きなのか─が分かる程に、そのフェンリルは嬉しそうにハルさんを見ている。
兎に角、ハルさんは、見た目小動物リスなのに、チートな魔法使いと言うのは、本当の事のようだ。

「何で……お前のような子供に……私の魔法が………」

お姉様は、誰に何をしても自分の魔法が通じないと分かり、ショックを受けているのか、その場に座り込み俯いている。

「魔法は、他人ひとを傷付ける為に使うモノじゃないから。あなたには、しっかりと反省してもらいます。」
「…………」

流石に、お姉様も、もう反抗する事はないだろう。
ハルさんは、床に座り込んだままのお姉様を暫く見つめた後、「その子は大丈夫?」と、私の腕の中で眠っているシルヴィへと視線を向けた。

『大丈夫。今は疲れて眠っているだけだ。』
「そっか…それじゃあ、取り敢えずここから──」
「───私が……反省すべき事は無いし、罰を受けるつもりも…ないわ!」

「ハルさん!」

ハルさんが私達の方へと歩み寄り、お姉様に背を向けると、お姉様はまだ懲りていなかったようで、今度は魔法ではなく、何処に隠し持っていたのか、ハルさんに向かって短剣を振りかざした。




「お前は、一体……誰に剣を向けているんだ?」
「っ!?」

ハルさんの背中に向かって短剣を振りかざしたお姉様の背後から、そのお姉様の首に剣がピタリ─と当てられて、お姉様はそのまま動きを止めた。








❋エールを頂き、ありがとうございます❋
ε٩(๑˃ ᗜ ˂)۶з








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

召喚から外れたら、もふもふになりました?

みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。 今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。 すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。 気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!? 他視点による話もあります。 ❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。 メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

魔法使いの恋

みん
恋愛
チートな魔法使いの母─ハル─と、氷の近衛騎士の父─エディオル─と優しい兄─セオドア─に可愛がられ、見守られながらすくすくと育って来たヴィオラ。そんなヴィオラが憧れるのは、父や祖父のような武人。幼馴染みであるリオン王子から好意を寄せられ、それを躱す日々を繰り返している。リオンが嫌いではないけど、恋愛対象としては見れない。 そんなある日、母の故郷である辺境地で20年ぶりに隣国の辺境地と合同討伐訓練が行われる事になり、チートな魔法使いの母と共に訓練に参加する事になり……。そこで出会ったのは、隣国辺境地の次男─シリウスだった。 ❋モブシリーズの子供世代の話になります❋ ❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただけると幸いです❋

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
聖女ウリヤナは聖なる力を失った。心当たりはなんとなくある。求められるがまま、婚約者でありイングラム国の王太子であるクロヴィスと肌を重ねてしまったからだ。 「聖なる力を失った君とは結婚できない」クロヴィスは静かに言い放つ。そんな彼の隣に寄り添うのは、ウリヤナの友人であるコリーン。 聖なる力を失った彼女は、その日、婚約者と友人を失った――。 ※以前投稿した短編の長編です。予約投稿を失敗しないかぎり、完結まで毎日更新される予定。

処理中です...