巻き込まれではなかった、その先で…

みん

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26 この世界で

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「まさか、セオ君がこの世界の人だったとは…思わなかった…。」
「俺だって、翠がこの世界の人で、その上イーレンの王女様だとは思わなかった…。」

しかも、お姉様の想い人がセオ君とか…。

「ひょっとして、日本に来たのはお姉様絡みで?」と訊くと、「翠に隠す意味もないから」と言って、何故日本来る事になったのかを教えてくれた。



やっぱり、日本に来る事になったのは媚薬事件が理由だった。媚薬を盛ったとされる使用人が自殺した事で幕を閉じた騒動だったけど、その媚薬がイーレンで作られた物だと言う事は判明していたそうで、秘密裏にセオ君サイドが動いていたそうだ。その間、セオ君の安全を守る為と、気分転換に─と、日本に送られたと言う事だった───んだけど……

「え?何?その……“気分転換にちょっとそこまで行っておいで”的なノリは…。そんな簡単に異世界を行き来する事なんて出来ないよね?」

召喚や召還には大量の魔力が必要になる。魔法使いのお姉様だって、魔力を込めた魔石を大量に使ったと聞いた。それも、2度3度などできないと。

「うん。だから、母は……規格外のチートな魔法使いなんだ。母は……余裕で笑顔で俺を日本に送り出したし、こっちに還って来る時も、母が魔力を込めたブレスレット一つだけで還ってこれたんだ。」

「──マジですか?」
「──マジです。」

ーあんな小柄な体のどこに、魔力があるんだろうか?ー

なんでも、ハルさん自身も一度日本に還った事があるそうだ。そして、日本からこっちの世界に戻って来る時に、大聖女のミヤ様を連れて戻って来たらしい。

ー凄すぎませんか!?ー

「なら、ハルさんが居れば、日本とこっちと行き来し放題だね?」と言えば、そうではないらしい。何でも、異世界を行き来できる魔力はあっても、行き来する度に体に掛かる負担が大きくなるようで、ハルさんとミヤ様も3度目の異世界転移後は、体中が軋むような痛みに襲われたそうで、もし、また異世界転移する事があれば、転移後の生死は分からないらしい。

「なら、私もセオ君も、また日本に行けたとしても、その時は、この世界には無事に戻って来る事はできないって事だね。」

なら、私はもう日本に行く事はないだろう。

「翠は…日本に戻りたい?」

私の手をギュッと握って、困った様な顔をしているセオ君に、フルフルと首を左右に振る。

「小南さん達にまた会えるなら会いたいとは思うけど…セオ君がこの世界に居るなら、私もこの世界で…セオ君と一緒に生きて行きたいな─と……思って…ます……。」

ー私、今、凄い事言っちゃったよね!?ー

恥ずかし過ぎてポンッと、顔が熱を帯びるのと同時に、セオ君は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「俺も、この世界で、翠と一緒に生きて行きたいと思ってる。俺は、ただの騎士でしかないけど…それでも良い?」
「私だって、王女とは名ばかりの…無能な…ただの吉岡翠だから。私を選んでくれても、何の後ろ盾もあげる事はできないけど…それでも良い?」

実際、魔力持ちではあったけど、王族としては何の役にも立っていなかったし、つい最近までは異世界で一般市民としての生活を送っていたのだ。私からセオ君にあげられるモノは…何もない。

「何も要らない。翠だけが居れば他は要らないし、何か要るモノがあれば自分で手に入れるから。翠は、その身一つで俺の処に来てくれたら良いから。」
「──ありがとう。」

ーそう言ってくれるなら、私が進む路は一つだー




「あ、シルヴィもこっちに戻って来てる?」
「戻って…って、セオ君は、シルヴィが魔獣だって…気付いてたの!?」
「多分そうだろうな─と。日本で見た時に、少し違和感があったから。」

ー凄いなぁ……私は全く気付かなかったのにー

「おとなしいとは言え、魔獣は魔獣だから、私の部屋でお留守番してるの。また後で会いに行く?シルヴィって、私よりセオ君に懐いていたから、会ったら喜ぶと思う。」
「うん。また落ち着いたら会わせてもらうよ。」


それからも、誰かが呼びに来るまで、その庭園のベンチに座ってセオ君と色んな話をした。何より興味を惹かれたのは──

「媚薬の緩和─解毒のポーションを作ったのが…ハルさん!?」
「俺の母が魔法使いって事は極秘事項で、一部の者にしか知られてはいないんだけど、薬師としては有名な程、優秀な薬師なんだ。」
「まさか…ウォーランド王国のポーションのレベルが上がったのって…」
「うん。母のお陰だな。」

ー恐るべし、ハル=カルザインー

「えっと…ハルさんって、凄過ぎない?失礼かもしれないけど、見た目とは……全然違うね?こう…護ってあげたくなるような…可愛らしい小動物なのに…。私、初めてセオ君とハルさんが一緒に居る所を目にした時……てっきりセオ君の婚約者かと思ったり……」
「婚約者………」
「ハルさん、見た目が…若いから──」
「翠、それ、冗談でも、絶対に……絶対に父の前では言わないようにして欲しい。に──。」
「え?う…うん、分かった。言わない。」

“何で?”─とは、訊けなかった。セオ君が、あまりにも真剣な顔をしていたから。




その理由は、数日後に知る事になるのだけど、そんな事はその時の私には分からなかった事である。







❋エールを頂き、ありがとうございます❋
٩(。˃ ᵕ ˂ )و♪





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