60 / 61
第四章ー未来へー
明暗
しおりを挟む
*王城地下牢*
「リオネル…どうして、あの女なんかと……あの女さえいなければ、リオネルは私のモノになって……」
「アディーが居なくても、俺がお前──ローゼを選ぶ事はなかったよ。」
「っ!リオネル!あぁ!やっと、助けに来てくれたの!?」
俺の顔を見たとたん、パッと明るい笑顔になるシェイラは、本当に馬鹿なのか─と思う。
「リオネルで呼ぶなと言わなかったか?ローゼもそうだったけど、シェイラも頭は悪いんだな。」
確かに、ローゼ=ルードモントは聖女としては完璧だった。ただし、学力で言えば普通、若しくはソレ以下だった。シェイラもそうだ。記憶が蘇ってからは、男を魅了したり媚を売るのに忙しかったのか、みるみるうちに学力のレベルは低下して底をつく勢いだった。
「リオ………ダレル…先生……でも、ここに来たと言う事は、私に会いに来てくれたって事ですよね?助けて…くれるんですよね?」
今度は、俺に媚を売るかのように、上目遣いでハラハラと涙を流し出した。その姿には本当に嫌悪感しかない。リオネルは、この涙を見て───
ー本当に、愚かだったな……ー
「そう……だな。ある意味、お前を助けに来た。」
「やっぱり!ようやく、私を選んでくれたのね!」
スッと人差し指を立てて、シェイラの胸元に軽くあてる。
「お前は知っているか?心が壊れるとね……全てが無になって……楽になるんだ。何でもできるような気持ちになれるし、逆に何もできないと言う気持ちにもなるけど。そして、最後には………空っぽになるんだ。そうなると……何も考えなくてよくなる。」
「え?」
シェイラがパチッと瞬きをしたのと同時に、シェイラの胸元にあてていた指先に一気に魔力を流し込み、ソレを発動させた。
「─────っ!?」
ソレは、ほんの一瞬の事。一瞬のうちに、俺の出来る限りの魔力を注ぎ込んだ。
シェイラは言葉を発する事なく、大きく目を見開いた後、その場に倒れた。
“精神に関わる魔法は、一気に掛けても、一気に解呪しても精神や心を壊してしまう”
「お前自身も……味わえばいい…………」
「城付きに戻って来るつもりはないか?」
地下牢から出ると、そこには王太子殿下とモンテルアーノ様が居た。
「ナディア次第ですね。」
ナディアが城付きになると言うなら、戻っても良いとは思うが………おそらく、ナディアは城付きにはならないだろう。
「イカレ女が、正常のままの可能性は?」
「0です。残っていた聖女の魔力に無効化を掛けてから、やりましたからね。」
「「……………」」
「そ………そうか………」
「それでは、後は頼みます……」
引き攣った顔をした王太子殿下とモンテルアーノ様に挨拶をした後、私は魔道士棟の客室へと帰った。
それから3日後、焦点の合っていない目をした聖女シェイラは、一言も言葉を発することなく、辺境地にある修道院へと送られたのだった。
******
あれから1年半が経ち、私は学園で3度目の新年生を迎えた。今年は、平民の魔道士見習いの生徒が2人もいると言う事で、何やらダレルさんは嬉しそうだ。
そう─ダレルさんと私は、スフィール領の役所には戻らず、正式に学園で講師と助手として勤めている。
“帰れず”─の間違いかな?
1年半前、これからどうするのか?─と訊かれた時
「モンテルアーノ様のことは……好き…なんだと思いますけど、私は……城付きは嫌です。なので、スフィール領に──」
「なら、助手を続けるのはどうだ?」
「え?」
と、モンテルアーノ様に提案されたのが、ダレルさんの講師と私の助手の正式契約だった。
そうすれば、ダレル殿も安心するだろう─と。
「それに、ナディアがようやく俺に落ちて好きだと言ってくれたのに、俺がナディアをスフィールに帰す訳ないだろう?まぁ、落ちてなくても帰す気はなかったけどね。」
いつもと同じ優しい笑顔な筈なのに、背中がゾクゾクしたのは気のせいに違いない。
兎に角、その話はトントン拍子に進んだ。
学園としては、“褐色の魔道士”が講師で、その褐色の魔道士が目をかけていて、王族にも伝手がある私が助手と言う事で、喜んで受け入れたそうだ。
「スフィール領に帰れなくてすみません。」と謝れば、「帰らないと選択したのは私自身だし、帰ろうと思えばいつても帰れるから。」と、ダレルさんは笑ってくれた。
そんなダレルさんの机の上には、学園でもアンリエットさんの姿絵が置かれている。
「ナディア、ダレル殿、お疲れ様。」
「モンテルアーノ様?」
「お疲れ様です。」
入学式が終わり、今日、生徒達から集めた書類を整理していると、来賓として参加していたモンテルアーノ様がやって来た。
「私は外すから、ゆっくりどうぞ」と言って、ダレルさんは部屋から出て行ってしまった。
ーダレルさんに気を使ってもらうとか……恥ずかしい!ー
「あー……ナディアだ……」と言いながら、ギュッと抱きつかれた。
「えっ!?いや、ちょっ……ここ、学園ですよ!?」
「誰も居ないだろう?それに、ナディア不足なんだ。」
「えー……」
そんな恥ずかしい事を………
新年度前後は色々と忙しく、会うのも久し振りだった。
「モンテルアー………」
「ん?」
「……オードリック……さん…」
「“さん”も要らないねど、仕方無いか。で?何?」
と、私を抱きしめている力を緩めて、今度は顔を近付けて私と目を合わせる。この距離には、未だに慣れないし、バクバクと心臓も痛い。
「えっと……久し振りに会えて、私も……嬉しいです」
「ゔ─────っ…………」
モンテルアーノ様改め、オードリックさんは、呻き声を上げながら私の肩に顔を埋める。何故か、時々オードリックさんはこうやって呻き声をあげて暫く固まってしまうのだ。
「オードリックさん?大丈夫ですか?」
と、背中をポンポンと叩くと
「大丈夫じゃないから、今すぐ帰ろう」
と言われて、グイグイと手を引かれて学園を後にした。
❋感想やエールを頂き、ありがとうございます❋
❀.(*´∇`*)❀.
❋“置き場”に、影目線の話を投稿しました。お時間あれば、覗いてみてください❋
(* ᵕᴗᵕ)⁾⁾ ꕤ
「リオネル…どうして、あの女なんかと……あの女さえいなければ、リオネルは私のモノになって……」
「アディーが居なくても、俺がお前──ローゼを選ぶ事はなかったよ。」
「っ!リオネル!あぁ!やっと、助けに来てくれたの!?」
俺の顔を見たとたん、パッと明るい笑顔になるシェイラは、本当に馬鹿なのか─と思う。
「リオネルで呼ぶなと言わなかったか?ローゼもそうだったけど、シェイラも頭は悪いんだな。」
確かに、ローゼ=ルードモントは聖女としては完璧だった。ただし、学力で言えば普通、若しくはソレ以下だった。シェイラもそうだ。記憶が蘇ってからは、男を魅了したり媚を売るのに忙しかったのか、みるみるうちに学力のレベルは低下して底をつく勢いだった。
「リオ………ダレル…先生……でも、ここに来たと言う事は、私に会いに来てくれたって事ですよね?助けて…くれるんですよね?」
今度は、俺に媚を売るかのように、上目遣いでハラハラと涙を流し出した。その姿には本当に嫌悪感しかない。リオネルは、この涙を見て───
ー本当に、愚かだったな……ー
「そう……だな。ある意味、お前を助けに来た。」
「やっぱり!ようやく、私を選んでくれたのね!」
スッと人差し指を立てて、シェイラの胸元に軽くあてる。
「お前は知っているか?心が壊れるとね……全てが無になって……楽になるんだ。何でもできるような気持ちになれるし、逆に何もできないと言う気持ちにもなるけど。そして、最後には………空っぽになるんだ。そうなると……何も考えなくてよくなる。」
「え?」
シェイラがパチッと瞬きをしたのと同時に、シェイラの胸元にあてていた指先に一気に魔力を流し込み、ソレを発動させた。
「─────っ!?」
ソレは、ほんの一瞬の事。一瞬のうちに、俺の出来る限りの魔力を注ぎ込んだ。
シェイラは言葉を発する事なく、大きく目を見開いた後、その場に倒れた。
“精神に関わる魔法は、一気に掛けても、一気に解呪しても精神や心を壊してしまう”
「お前自身も……味わえばいい…………」
「城付きに戻って来るつもりはないか?」
地下牢から出ると、そこには王太子殿下とモンテルアーノ様が居た。
「ナディア次第ですね。」
ナディアが城付きになると言うなら、戻っても良いとは思うが………おそらく、ナディアは城付きにはならないだろう。
「イカレ女が、正常のままの可能性は?」
「0です。残っていた聖女の魔力に無効化を掛けてから、やりましたからね。」
「「……………」」
「そ………そうか………」
「それでは、後は頼みます……」
引き攣った顔をした王太子殿下とモンテルアーノ様に挨拶をした後、私は魔道士棟の客室へと帰った。
それから3日後、焦点の合っていない目をした聖女シェイラは、一言も言葉を発することなく、辺境地にある修道院へと送られたのだった。
******
あれから1年半が経ち、私は学園で3度目の新年生を迎えた。今年は、平民の魔道士見習いの生徒が2人もいると言う事で、何やらダレルさんは嬉しそうだ。
そう─ダレルさんと私は、スフィール領の役所には戻らず、正式に学園で講師と助手として勤めている。
“帰れず”─の間違いかな?
1年半前、これからどうするのか?─と訊かれた時
「モンテルアーノ様のことは……好き…なんだと思いますけど、私は……城付きは嫌です。なので、スフィール領に──」
「なら、助手を続けるのはどうだ?」
「え?」
と、モンテルアーノ様に提案されたのが、ダレルさんの講師と私の助手の正式契約だった。
そうすれば、ダレル殿も安心するだろう─と。
「それに、ナディアがようやく俺に落ちて好きだと言ってくれたのに、俺がナディアをスフィールに帰す訳ないだろう?まぁ、落ちてなくても帰す気はなかったけどね。」
いつもと同じ優しい笑顔な筈なのに、背中がゾクゾクしたのは気のせいに違いない。
兎に角、その話はトントン拍子に進んだ。
学園としては、“褐色の魔道士”が講師で、その褐色の魔道士が目をかけていて、王族にも伝手がある私が助手と言う事で、喜んで受け入れたそうだ。
「スフィール領に帰れなくてすみません。」と謝れば、「帰らないと選択したのは私自身だし、帰ろうと思えばいつても帰れるから。」と、ダレルさんは笑ってくれた。
そんなダレルさんの机の上には、学園でもアンリエットさんの姿絵が置かれている。
「ナディア、ダレル殿、お疲れ様。」
「モンテルアーノ様?」
「お疲れ様です。」
入学式が終わり、今日、生徒達から集めた書類を整理していると、来賓として参加していたモンテルアーノ様がやって来た。
「私は外すから、ゆっくりどうぞ」と言って、ダレルさんは部屋から出て行ってしまった。
ーダレルさんに気を使ってもらうとか……恥ずかしい!ー
「あー……ナディアだ……」と言いながら、ギュッと抱きつかれた。
「えっ!?いや、ちょっ……ここ、学園ですよ!?」
「誰も居ないだろう?それに、ナディア不足なんだ。」
「えー……」
そんな恥ずかしい事を………
新年度前後は色々と忙しく、会うのも久し振りだった。
「モンテルアー………」
「ん?」
「……オードリック……さん…」
「“さん”も要らないねど、仕方無いか。で?何?」
と、私を抱きしめている力を緩めて、今度は顔を近付けて私と目を合わせる。この距離には、未だに慣れないし、バクバクと心臓も痛い。
「えっと……久し振りに会えて、私も……嬉しいです」
「ゔ─────っ…………」
モンテルアーノ様改め、オードリックさんは、呻き声を上げながら私の肩に顔を埋める。何故か、時々オードリックさんはこうやって呻き声をあげて暫く固まってしまうのだ。
「オードリックさん?大丈夫ですか?」
と、背中をポンポンと叩くと
「大丈夫じゃないから、今すぐ帰ろう」
と言われて、グイグイと手を引かれて学園を後にした。
❋感想やエールを頂き、ありがとうございます❋
❀.(*´∇`*)❀.
❋“置き場”に、影目線の話を投稿しました。お時間あれば、覗いてみてください❋
(* ᵕᴗᵕ)⁾⁾ ꕤ
31
お気に入りに追加
789
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる