上 下
33 / 61
第三章ー学園生活ー

ダレル

しおりを挟む
「ダレルさん、おはようございます。今日から暫くの間、宜しくお願いします。」

「おはようございます、ナディア。こちらこそ宜しくお願いしますね。」

今日は早目に登校し、そのまま門の所でダレルさんが来るのを待っていた。
そのダレルさんは、講師をする間は王城の客室で寝泊まりする事になっていて、王城と学園は近い場所にある為、ダレルさんは歩いてやって来た。

「では、部屋迄案内しますね」

と、私とダレルさんは一緒に学園の門を潜り抜けた。







「今日は、午前中に2年生と4年生の授業と、午後からは早速1年生のAクラスとBクラスの授業があります。」

第三王子や聖女─シェイラ=ペイトリンが居るクラスだ。

「初日に彼女を直接目で確認できるのは、ありがたいね。」

と、いつものように穏やかに笑うダレルさん。その笑顔に、少し緊張していた気持ちも和らいだ。



2年生と4年生の授業は運動場で行われた。
今日から暫くの間、ルシエント様に代わりに、ダレルさんが講師に就くと説明すると、残念がる生徒も居たが、授業を進めるうちに、ダレルさんの実力が何となく分かったのだろう。途中からは、やっぱりキラキラとした眼差しでダレルさんを見つめるようになっていた。流石は実力主義な集団である。
それに、ダレルさんの指導も、とても分かり易かったと言うのもあるだろう。

昼食は、極力第三王子や聖女と関わらないようにする為、2人でそのまま部屋でお弁当を食べた。ダレルさんのお弁当は王城で用意してもらった物らしく、それはそれは豪華なお弁当だった。

「午後からの授業は2コマだけで、先ずはBクラスで、最後にAクラスだったかな?」

「はい、そうです。1日最後の授業で、1年Aクラスに当たります。」

いよいよ、聖女─シェイラ=ペイトリンとの対面だ。






今日の1年生の授業も運動場で行われるが、特に新しい魔法などの指導はせず、今週末に行う実地試験に向けての練習、確認作業をさせる事にしている。そのせいで、第三王子と聖女の距離は、どうしても近くなってしまうだろう。

ールシエント様のせいで……ー

そっとため息を吐き、運動場でAクラスの生徒が来るのをダレルさんと待っていると、少しずつ生徒がやって来た。
その中で、すぐに視界に入る金髪と黒髪の2人。それが、第三王子アルビー様と聖女シェイラだ。もう既に、2人並んで歩いている。その後ろに、側近2人とオレリア様が居る。

「──ん?」
「ダレルさん、どうかし────」

私の横に居たダレルさんは、一言声を出した後、何故か、何かの魔法を展開させた。その魔法は、水滴を垂らした後の波紋の様に静かに広がって行くような魔法。おそらく、私以外は気付いていない。私も何か他に気を取られていたりしたら、気付いていないぐらいの魔法なのに、かなりの広範囲に広がっていく。

ーダレルさんって……お役所で埋もれてて良い人じゃないんじゃない!?ー

その魔法が生徒達の足下にまで広がっていくが、勿論、生徒達はソレに全く気付いていない──が。

「──っ!?」

1人だけ、その魔法が足元に触れた時、僅かに顔を歪ませた。

……か……」
「え?」
「もう授業が始まるから、後で説明するよ。」
「分かりました。」

私はダレルさんを見て返事をしたけど、ダレルさんはその人物を見つめたままだった。







あれからはダレルさんも、いつも通りのダレルさんに戻り、授業も特に問題無く終わり、今は部屋で1日の纏めをしている。

「第三王子達も、スペイシー家の魔具を着けてましたけど、今日はまだ特に変わった様子はなかったですね。」

「あの魔具は、魔法を弾くだけで、既に精神に掛けられているものを弾く訳ではないからね。掛けられているものは、別に解呪が必要となるし、一気に解呪すると精神に悪影響を及ぼす可能性があるから、ゆっくり少しずつ解呪する必要があるんだ。」

ゆっくり…少しずつ………

ふと、あの婚約者の姿が思い浮かんだ。

彼は、優しかった。いつも笑顔で──
最後に目にした彼は、恐ろしかった─

ーそれは……魅了の解呪を一気にしたせいで?もしそうなら……彼もまた、完璧な被害者だー

グッと手に力が入った時、コンコンと部屋の扉がノックされ、ダレルさんが「どうぞ」と入室を促し、部屋に入って来たのは、モンテルアーノ様だった。

どうやら、今日は定期的に学園に来ている日だったようで、“話がある”と、ダレルさんが声を掛けていたそうだ。そして、やっぱり、ダレルさんはこの部屋全体に結界を張った。



「やはり、あの聖女─シェイラ=ペイトリンは、何かしらの魔法を使っていますね。」

基本、学園内では、授業や先生に認められた場合以外では魔法を使ってはいけない事になっている。生徒が勝手に魔法を発動させると、感知するシステムになっている為、生徒が魔法を使えば直ぐに分かるようになっている。

「でも……システムは反応してませんでしたよね?」
「反応しなかったのは、魔法の授業が行われる運動場だったからだと思う。」

確かに。魔法の授業の場であれば、生徒が魔法を使ってもシステムは反応しない。

「あ、ひょっとして!」
「そう。私が授業が始まる前に発動させた魔法は、誰が魔法を使っているか調べると同時に、その魔法を無効化する為の魔法だ。それで、その探知魔法に引っ掛かったのが──シェイラ=ペイトリンだったんだ。」









❋エールを頂き、ありがとうございます❋
❀.(*´▽`*)❀.

しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。 しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。 アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。 これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。 ツイッターで先行して呟いています。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

処理中です...