26 / 61
第三章ー学園生活ー
報告
しおりを挟む
「概ね、影からの報告と同じだな。」
学園が休みとなった週末の今日、私は予定通りに王城の図書館の地下フロアにやって来た。
予定よりも早目に来たにも関わらず、そこにはもう既にモンテルアーノ様の姿があった。待たせてしまって申し訳無い─と謝れば、モンテルアーノ様は王城にある第二騎士団副団長に充てられている自分の部屋があるらしく、そこに寝泊まりしているそうで、早目にここに来て本を読んでいた─との事だった。
それから、私が2学期が始まってからの1ヶ月、学園で見た事と思った事を、モンテルアーノ様に話をした。すると、その内容は、定期的に影なる者から上げられる報告内容と、ほぼ同じ内容だったようだ。
「と言うか……本当に学園内に“影なる者”と呼ばれる人が居るんですね……」
本当に凄いよね……。その人が魔力持ちならば、私もそれなりの魔道士だから、隠れていても、何となく気配や魔力を感じ取る事ができるのに、学園内で、そんな人の魔力や気配を感じた事が一切無い。仕事柄、その魔力や気配を消す事に長けているんだろうけど…。
「気になるところが…そこなんだな…」
ははっ─と、またまた面白そうに笑うモンテルアーノ様。
「そりゃあ、魔道士としては、魔力を感じ取れないって事は…少し悔しいですからね。」
「なるほど……くく──っ…」
ーこの人は、本当によく笑う人だー
「んんっ…兎に角、聖女─シェイラさんは、光の魔法に関しては問題無いです。気になるのは、やっぱり……第三王子との距離感ですね。」
1学期の頃よりも近いように思う。でも、まだ、今はそこにオレリア=エタシエルが居る。だから、今のところはまだ大丈夫だ。
このモンテルアーノ様は…知っているんだろうか?
100年前に王族─第二王子が起こした事を。
私からは訊く事はできないけど──
影なる者の報告では、オレリアに関しては、“特に動きは無いように見える”との事だった。
それでも、もし彼女もジョアンヌ様タイプなのだとしたら、動く時は一気に動くだろう。彼女の父親の公爵も、かなりのキレ者と言われている。
ーなんで……二度目の人生も、こんな事になるの…私はただ、長生きしたいだけなのにー
「はぁ─────」
「ふっ……これまた……長い溜め息だな……」
「あ…すみません。」
ー普通に、モンテルアーノ様の存在を忘れてましたー
「取り敢えず、暫くの間は様子を見る事にしよう。また、1ヶ月後に…。」
「────分かりました。」
ーあぁ…やっぱり、この報告会?は続くのかー
「さて、お礼に、何か美味しいモノでもご馳走しようか。」
「美味しいモノ!?──って……遠慮しておきます。」
「ん?甘い物とか…好きではないのか?」
「勿論、甘い物は好きですけど、正直、モンテルアーノ様と2人きりで─と言う事が無理なんです。」
「気持ち良いぐらいハッキリ言うな…」
「その辺はハッキリしておいた方が、お互い…と言うか、モンテルアーノ様の為だと思いますから。」
“オードリック=モンテルアーノ”
現国王陛下(先代国王の則妃の子)の義兄を父に持つ、王太子殿下の従兄弟であり側近の近衛騎士。30歳とは思えないまだまただ若く見える見た目とは反対に、落ち着き払った雰囲気が漂うイケメン。未婚、婚約者、恋人無しの優良物件。もう1人のルシエントが売れてしまった後、ご令嬢達の視線は一気にモンテルアーノ様に集中するだろう。
そんな人と街へ繰り出す──なんて事はしたくない。そんな事をしようものなら、それこそ今世も早死にしてしまうかもしれない。
「恋に狂った人間程、恐ろしいものは……ないんですよ……」
彼のように──
あの時の恐怖ですっかり忘れていたけど、彼にも優しい時があった。一体何が、彼を変えてしまったのか。
「ナディア…大丈夫か?」
心配そうな顔をして、私の顔を見つめるモンテルアーノ様が、私の方へと手を伸ばして来て──
その伸ばされた手を目にして、キュッと息を詰めた。
そんな私の様子に気が付いたのか、伸ばされた手はそこで止まり、そのまま机の上に置かれた。
「私が気にしない─と言っても、ナディアも周りも気にするんだろうな。」
「そうです。特に、私は貴族ではありませんからね。それに…私の見た事、感じた事を報告してるだけなので、お礼とかは要りませんから、気を使ってもらわなくても大丈夫です。」
「そうか……」
ー逆に、放っておいてくれた方が嬉しいんですー
とは、流石に言えないけど。
それからも、モンテルアーノ様は少し困ったような顔をしたままだったけど、暫く2人で他愛のない話をした後、私よりも先に地下のフロアから出て行った。
学園が休みとなった週末の今日、私は予定通りに王城の図書館の地下フロアにやって来た。
予定よりも早目に来たにも関わらず、そこにはもう既にモンテルアーノ様の姿があった。待たせてしまって申し訳無い─と謝れば、モンテルアーノ様は王城にある第二騎士団副団長に充てられている自分の部屋があるらしく、そこに寝泊まりしているそうで、早目にここに来て本を読んでいた─との事だった。
それから、私が2学期が始まってからの1ヶ月、学園で見た事と思った事を、モンテルアーノ様に話をした。すると、その内容は、定期的に影なる者から上げられる報告内容と、ほぼ同じ内容だったようだ。
「と言うか……本当に学園内に“影なる者”と呼ばれる人が居るんですね……」
本当に凄いよね……。その人が魔力持ちならば、私もそれなりの魔道士だから、隠れていても、何となく気配や魔力を感じ取る事ができるのに、学園内で、そんな人の魔力や気配を感じた事が一切無い。仕事柄、その魔力や気配を消す事に長けているんだろうけど…。
「気になるところが…そこなんだな…」
ははっ─と、またまた面白そうに笑うモンテルアーノ様。
「そりゃあ、魔道士としては、魔力を感じ取れないって事は…少し悔しいですからね。」
「なるほど……くく──っ…」
ーこの人は、本当によく笑う人だー
「んんっ…兎に角、聖女─シェイラさんは、光の魔法に関しては問題無いです。気になるのは、やっぱり……第三王子との距離感ですね。」
1学期の頃よりも近いように思う。でも、まだ、今はそこにオレリア=エタシエルが居る。だから、今のところはまだ大丈夫だ。
このモンテルアーノ様は…知っているんだろうか?
100年前に王族─第二王子が起こした事を。
私からは訊く事はできないけど──
影なる者の報告では、オレリアに関しては、“特に動きは無いように見える”との事だった。
それでも、もし彼女もジョアンヌ様タイプなのだとしたら、動く時は一気に動くだろう。彼女の父親の公爵も、かなりのキレ者と言われている。
ーなんで……二度目の人生も、こんな事になるの…私はただ、長生きしたいだけなのにー
「はぁ─────」
「ふっ……これまた……長い溜め息だな……」
「あ…すみません。」
ー普通に、モンテルアーノ様の存在を忘れてましたー
「取り敢えず、暫くの間は様子を見る事にしよう。また、1ヶ月後に…。」
「────分かりました。」
ーあぁ…やっぱり、この報告会?は続くのかー
「さて、お礼に、何か美味しいモノでもご馳走しようか。」
「美味しいモノ!?──って……遠慮しておきます。」
「ん?甘い物とか…好きではないのか?」
「勿論、甘い物は好きですけど、正直、モンテルアーノ様と2人きりで─と言う事が無理なんです。」
「気持ち良いぐらいハッキリ言うな…」
「その辺はハッキリしておいた方が、お互い…と言うか、モンテルアーノ様の為だと思いますから。」
“オードリック=モンテルアーノ”
現国王陛下(先代国王の則妃の子)の義兄を父に持つ、王太子殿下の従兄弟であり側近の近衛騎士。30歳とは思えないまだまただ若く見える見た目とは反対に、落ち着き払った雰囲気が漂うイケメン。未婚、婚約者、恋人無しの優良物件。もう1人のルシエントが売れてしまった後、ご令嬢達の視線は一気にモンテルアーノ様に集中するだろう。
そんな人と街へ繰り出す──なんて事はしたくない。そんな事をしようものなら、それこそ今世も早死にしてしまうかもしれない。
「恋に狂った人間程、恐ろしいものは……ないんですよ……」
彼のように──
あの時の恐怖ですっかり忘れていたけど、彼にも優しい時があった。一体何が、彼を変えてしまったのか。
「ナディア…大丈夫か?」
心配そうな顔をして、私の顔を見つめるモンテルアーノ様が、私の方へと手を伸ばして来て──
その伸ばされた手を目にして、キュッと息を詰めた。
そんな私の様子に気が付いたのか、伸ばされた手はそこで止まり、そのまま机の上に置かれた。
「私が気にしない─と言っても、ナディアも周りも気にするんだろうな。」
「そうです。特に、私は貴族ではありませんからね。それに…私の見た事、感じた事を報告してるだけなので、お礼とかは要りませんから、気を使ってもらわなくても大丈夫です。」
「そうか……」
ー逆に、放っておいてくれた方が嬉しいんですー
とは、流石に言えないけど。
それからも、モンテルアーノ様は少し困ったような顔をしたままだったけど、暫く2人で他愛のない話をした後、私よりも先に地下のフロアから出て行った。
40
お気に入りに追加
789
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる