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第2章ー魔道士ー

貴族名鑑

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“100年ぶりの聖女”

あの彼女以後、聖女は現れなかった─と言う事だ。しかも、100年ぶりに現れた聖女が……またまた子爵令嬢とは…なんの因果なのか………。

“色んな意味で聖女を守る為” 

とは、一体どう言う意味がある?100年前にあった事は、王族やその周りの者達は知っているのか、それとも──のか。


「その聖女は……もう、聖女としての力を発揮されているんですか?」

光属性だからと言って、何もしなくても力が発揮できる訳ではない。他の属性の魔力持ちと同じように、訓練をしなければならないし、魔力の弱い、強いもある。アドリーヌわたしの知っている聖女は100年前のあの彼女。彼女の魔力は弱めで、1日に癒せる人数は限られていたし、広範囲に渡るような魔法は使えなかった。今になって思えば、彼女はあまり訓練をしていなかったのかもしれない。

「その令嬢の光属性が顕れたのが1年前だったんだ。だから、まだまだこれから─と言うところなんだ。」

なるほど。

魔力は殆どの場合が生まれ持ったモノだけだが、稀に後から顕れる事や、属性が変わる事もあったりする。
その聖女の場合は、もともとは土属性のみだったのが、光属性を発現させたと。その為、光の魔力の訓練を、ルシエント様が担当する事になったそうだ。

と言う事は──

私は今世でも、ルシエント様の助手をしている限りは、聖女と付き合っていかないといけない─と言う事だ。

ー本当に……勘弁して欲しいー

聖女の存在を知っていれば、王都になんて……ルシエント様の助手になる事もなかったのに。しかも、第三王子王族付き。100年前のような事は、もう起きないだろうけど…。

「分かりました。基本、その聖女のは第三王子達に任せますが、何かあったら……対応できるようにはしておきます。」

ー私からは、積極的には動きませんー

「うん。そんな感じで頼むよ。」

何か危険な事があれば、おそらく、第三王子や聖女には“影なる者”が付いているだろうから、大丈夫だろう。

それからは、これからの契約の説明や給料の話などをした後、「また、後からゆっくり読んで確認した後、分からない事や嫌な事があったら言って欲しい。それで、納得してからサインをしてくれたら良いから」と言われたから、そこは素直に受け取らせてもらった。



そして、ランチをとりながらの説明が終わって、案内されてやって来たのは、王城内にある図書館だった。
王城の図書館は、中央に大きな円状の吹き抜けがあり、1階から3階迄の三フロアある。地下にもあるそうだが、そこは許可証を持っていないと入れない。私も、書類にサインをして契約を結び、正式にルシエント様の助手になったら、その許可証がもらえる事になっている。
なので、今から地下に行くのではなく、何をするのかと言うと──

「はい。これが“貴族名鑑”だ。早速で申し訳無いけど、頑張って覚えていって欲しい。まぁ……伯爵位以上は、覚えていた方が良いと思う。」

“伯爵位以上は”

なんて、ニッコリ微笑みながら言うルシエント様は……

ーどこのSだ!!ー

と、睨み付けてしまいそうになるのを我慢した私はエラい思う。

「分かりました」

と、私も負けじと微笑みを返しながら返事をした。
そう。今、図書館に来た理由は、貴族の名前や親子関係、貴族達の関係性を覚える為だ。

「それじゃあ、私は執務があるから離れるけど、何かあったら、あの女官に言ってくれたら良いから。」

と、ルシエント様が壁側にある椅子に座っている女官に目配せすると、その女官が軽く頭を下げた。応接室にも居た女官だ。そして、ルシエント様はそれからすぐに「じゃあ─」と言って、図書館から出て行った。


何度か深呼吸をしてから、私はゆっくりと貴族名鑑の本を開いた。







ーあんまり変わってないのねー

それが感想だった。
貴族名鑑は公爵から順番に載っていた。その“公爵”を持つ名は100年前と同じで六つ。名前も変わっていない。現当主のみ絵姿が載っているが───うん。何となく顔も「あの公爵様に似てるなぁ」と言う感じだ。その中には、公爵令嬢だったジョアンヌ様の家名もあった。そこには、“隣国の王妃の生家”と記載されていた。

ージョアンヌ様は…幸せになれたのね?ー

結局、アドリーヌわたしはジョアンヌ様に改めてお礼の手紙を書く事ができなかった。また落ち着いたら、隣国の事を調べてみるのも良いかもしれない。

それから、順番にページを捲っていくと───

“スペイシー侯爵”

と、侯爵でも最初の方に、その名を見付ける事ができた。姿絵の現当主は、ピンクゴールドの髪に碧眼と言う、スペイシー家特有の色をしている。それに、どことなく……父に似ている。

ー父と母は…あれから大丈夫だっただろうか?ー

親孝行の一つもできず、親よりも先に死ぬ─と言う親不孝をしてしまった。

「お父様…お母様…ごめんなさい……」

私はそう呟きながら、“スペイシー侯爵”と書かれた文字を指でそっとなぞった。









❋誤字報告、ありがとうございます!気を付けているのですが……本当に、すみません!!❋
(。>﹏<。)💦


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