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第2章ー魔道士ー

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「王都に来る迄の道中は、特に問題は無かった?」

今、この部屋─王城内にある応接室には、ルシエント様と私と、ルシエント家の使用人ネリーと、王城の女官1人の4人が居る。
ルシエント様と私は、部屋の中央部にある椅子に、机を挟んで向き合って座っていて、ネリーと王城の女官は部屋の壁側に控えている。

「はい。特に問題はありませんでした。この3日間は天気にも恵まれましたから。それに──宿は私をいただいたようで…本当にありがとうございます。」

「宿?」

ニッコリ微笑んでお礼を言うと、ルシエント様は不思議そうな顔をして首を傾げる。

の広い部屋を用意していただいて…。夜に少しお腹が空いた時に、キッチンがあったので、助かりました。」

「────…そう……か……」

ルシエント様は、笑顔のままでチラリと視線をネリーに向けたが、私からはネリーの顔は見えないから、今、ネリーがどんな表情をしているかは分からないけど、きっと、良い顔はしていないだろう。
別に、使用人の部屋に案内された事については、腹立たしい気持ちは全く無い。でも、これから私は、ルシエント様の助手としてルシエント様と共に行動する事が増える。増えると言う事は、ルシエント家の使用人達とも接する機会が増える可能性がある。その時に、“平民のくせに”と侮られたままだと、王都での生活が苦になるから、早目にルシエント様に対処してもらいたかったのだ。

ネリーは、見た目は可愛らしい女の子。仕事もキッチリしそうに見える。でも、領地から王都に来る迄の道中、ネリーが私に対して何かをしてくれる事は…一切なかった。ルシエント様が、わざわざ使用人ネリーを寄越したと言う事は、私の世話をさせる為だった筈。にも関わらず、ネリーは私の世話は一切する事はなく、宿も使用人用の部屋を私に使わせた。その意味を、ネリーは分かっているのか?分かってやったのなら大問題だ。ルシエント伯爵家として饗す筈の相手を貶めす様な行い。

喩え、相手わたしが平民だったとしても、ルシエント伯爵家に泥を塗ったのと同じ事なのだから。

「…ネリーは下がって良いよ。」
「──え?」
「ネリー。二度は……言わないから。」
「───っ!分かり…ました。失礼致します。」

目の前のルシエント様は、あくまで笑顔だ。
部屋から出て行く瞬間のネリーの顔は、少し青褪めていたけど…自業自得と言うやつだ。


かつて、“聖女”と呼ばれたもそうだった。庇護欲をそそるような仕草や眼差し。可愛らしい顔立ちの彼女に──私はまんまと騙された。
ネリーのように分かり易い悪意は、可愛いものだと思う。悪意の見えない悪意の方が、よっぽど怖い。

ー今世では……騙されないように…上手く利用されないようにしないとー

そう自分に言い聞かせてから、改めてルシエント様を見る。相変わらず、ルシエント様の顔は笑顔のまま。本当の感情を隠すのは上手いらしい。流石は、伯爵家の嫡男様だ。

「ネリーは…ナディア嬢に失礼な事はしなかっただろうか?」

「失礼な事?特には…されてません。」

「──そうか。」

ルシエント様はそれだけ言うと、軽く息を吐いた後

「疲れているところ申し訳無いが、ランチをとりながら、これからの話をさせてもらいたい。」

と言うと、室内に居た女官が扉を開け、昼食を持った女官達がやって来て、サクサクと昼食の支度を済ませて出て行った。





何故、こんなにも早く王都に来る事になったのか。それは─

魔道士となっているから、ある程度の貴族のマナーやルールは大丈夫だろうけど、それらの確認をする為。
貴族の名前とその貴族の学生の名前をある程度覚える為。
貴族間の関係性を把握する為。

だった。

ーえ?それを…たった3ヶ月程でやれと?ー

とルシエント様に言ったところで…何も変わらないだろう。100年あれば、失くなった名前や新しい名前もあるだろうけど、そんなに大きくは…変わってないと思うから、なんとかなるだろう。比較的記憶力は良い方だし、平民である自分の為にもなるから頑張るしかない─と、1人納得していると、ルシエント様は更に爆弾を投下した。

「これは、まだ公にはしていないんだけど、実は新入生に光属性である“聖女”が居るんだ。」

“聖女”───

トクン─と胸が少しざわめく。

「その令嬢は子爵家の者でね、聖女だけど爵位が低いから、その彼女をで守る為に、同じく新入生として入学する第三王子が、その聖女のフォローをする事になったんだ。私が講師として着任するのも、聖女が入学するからなんだ。」

で守る為”

「それで、聖女も私より同性であるナディア嬢の方が何かと相談し易い事もあるだろうから、何かあった時は宜しく頼むよ。」




その聖女は、100年ぶりに現れた聖女だった。







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